【さとうの目】Vol.237 松山英樹「重戦車かサムライか。強い選手から“スゴい選手”へ!」
鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週は、ソニーオープンで劇的な逆転優勝を見せくれた日本ゴルフ界のエース、松山英樹に注目。
「戦車のようなゴルフでした」。松山(英樹)くんのキャディ、早藤将太くんが、ソニーオープンの優勝後に、SNSに投稿した感想がこれです。実はボクも同じ感想を抱いていました。あたかも弾丸を受けながらも前進する重戦車、あるいは斬られながらも太刀を手放さず、前にしか倒れない勇敢な侍……。
フロント9でラッセル・ヘンリーに5打差をつけられながら、10番での1オン狙いの“怒り”のドライバーショット、続く11番では執念で最後にコロリと入れたバーディパット、18番はバランスを崩しながら林越えの2オン狙い。そして72ホール目で追いつくと、プレーオフのあの3Wで放たれたセカンドショットです。鳥肌が立ちました。おそらくあのミラクルショットは、50年、いや100年先まで語り継がれる歴史的な1打となるでしょう。
ボクが注目したのは72ホール目、ティーショットをバンカーに入れた際のヘンリーとキャディとの会話でした。アゴの高さを考慮して、ヘンリーはより安全な8Iを主張します。これに対しキャディの主張は「6Iでも大丈夫だろう」。すでに松山くんはティーショットで、林越えを成功させています。2オンはほぼ確定なだけに、少しでもグリーンに近づけようというのが、キャディの考えだったと思います。ああいう場面では、選手が強気、キャディがはやる選手を抑え、より確実な選択を主張することが多いもの。ところが2人の会話はまったく逆。おそらく松山くんの斬られても前に倒れる侍のようなゴルフが、ヘンリーにボディブローのように効いていたのでしょう。ヘンリーは、中間をとってかバンカーから7Iで打ちました。もしかするとこの時点で勝負があったのかもしれません。
さらに言えば、同じ18番で行われたプレーオフ。最初に打ったヘンリーは72ホール目と同じ右のバンカーに。この時点ではドライバーを握っていた松山くんですが、スッと5Wに持ち替えました。確実にフェアウェイに置く作戦に切り替えたのです。これは予選から一貫したマネジメントでした。それがあの3Wのミラクルショットにつながります。ただ前に進むだけではない、冷静さを兼ね備えた重戦車の戦いぶりでした。
ボクが思うに今回の優勝で、世界が松山くんをスゴい選手として認識した気がします。もちろんいい選手、強い選手であることは、マスターズ優勝や8年連続ツアー選手権出場で、誰もが認めていたはず。ただ、今回の重戦車のような劇的な勝ち方は、今どきの若者風にいうなら「ヒデキ・マツヤマってハンパねぇ」と、世界中のゴルフファンに印象づけたのではないでしょうか。いい選手、強い選手からスゴい選手に。ボクなどが言うのもおこがましいのですが、ひとつステージ上をがった気がします。そしてドラマと歴史を作るのは、いつだってスゴい選手なのです。(つづく)
佐藤信人
さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中
週刊ゴルフダイジェスト2022年2月15日号より
こちらもチェック!
- 世界のトップで戦い続け、日本のゴルフ界をリードする松山英樹。そんな松山に、将来有望なアマチュアや若手プロからの質問をぶつけた。すると、松山らしい厳しくも愛のある答えがたくさん返ってきた! PHOTO/Takanori Miki 強い覚悟がない者はアメリカに来る資格なし 松山英樹に若手からの質問状を渡すと、じーっと見つめた後、開口一番「男子プロの質問には厳……
- 「ソニーオープン・イン・ハワイ」での松山英樹の優勝は、海外で“マツヤママジック”と称され大々的に報道された。 ゴルフチャンネルのライナー・ラビナー氏は、「最終日の前半で5打差だったときは、R・ヘンリーの優勝は確定だと思った。でもそのあとの展開が凄かった。ヒデキは1つ上のステージに立った」と大逆転劇に驚きを隠せない。同じくゴルフチャンネルのレックス・ホガード氏は、プレーオフの2打目残り277……
- ソニーオープンでプレーオフを制し、米ツアー8勝目を挙げた松山英樹。一時は5打あったR・ヘンリーとの差を、なぜひっくり返すことができたのか。帯同する目澤秀憲コーチに話を聞いた。 PHOTO/Blue Sky Photos 目澤秀憲 めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。13歳からゴルフを始め、日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を……
- 松山英樹をはじめ、多くのプロが練習に取り入れている“片手打ち”。果たしてどんな効果があるのか。我々アマチュアも取り入れていいのか。正しい片手打ちの方法や、練習する上での注意点などをプロコーチの石井忍氏に解説してもらった。 TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Kazuo Iwamura THANKS/ジャパンゴ……