【山を動かす】時代は“新・鈍感力”!? ゴルフにおける「鈍感力」を考える
ゴルフにまつわるさまざまな問題に関し、読者や識者に率直な意見をぶつけてもらう連載「山を動かす」。今回のテーマはかつて一世を風靡したワード「鈍感力」。それが今、またゴルフ界や他のスポーツ界でも聞かれるようになった。しかし、その意味合いはちょっと変わってきているようで……。識者、一般ゴルファーに、ゴルフにおける「鈍感力」について聞いてみた。
●“鈍感”というとマイナスなイメージもあるかもしれませんが、意味が広く、ポジティブな面もあると思います。それがトップアスリートの場合ならなおさら。周囲の反応にビクビクせず、マイペースを貫けるのもそのひとつ。背景には環境の変化があると思います。僕たちが学生のころは先生や監督、先輩は絶対的な存在。いつも怒られないように気にしていましたし、監督の様子をチラチラ見るのがお決まりでした。でも、今は上下関係のあり方も変わり、のびのび自分のやりたいことに集中できる。集中して、かつ切り替えがうまいから結果的にパフォーマンスが上がる。それがピタリと当てはまるのが大谷翔平選手かもしれませんね。しかし、そういった環境は諸刃の剣でもあります。自分で自分をコントロールして貫ける子はいいけれど、サボろうとすればいくらでもサボれますから。とくにゴルフのような個人競技では差が出やすいように思います。野球のような団体競技だと、鈍感ではなかなか難しい。とくにキャッチャーなんかはそう。逆にピッチャー、特に左のワンポイントリリーフとして出るようなタイプだと鈍感力が生きるケースもありますね。周囲の雰囲気に流されませんから。(小林雅英/元メジャーリーガー)
●トップアスリートの鈍感力はけっこうですが、同僚や上司の鈍感力は迷惑の領域に入ります。みんなが納期を守ろうと必死なときにサラッと定時で帰るのは鈍感力なの?(30代女性/東京都)
●僕らの時代は、子どもの数も多く周囲と協調して生きるように教育されました。これはアメリカも同じです。しかし、今、ゴルフだけでなくスポーツで活躍している若者の親は50代前後。その世代の親は「周りはいいから自分のことをやるように」と子どもを教育しました。すると子どもは“自分が中心”で生きていけます。大谷翔平がいい例です。自分がやりたいことを100%できる。自分を中心にモノを考えられれば、自分のできることを100%出せます。相手がどんなに強くても、まるでテレビゲームをやっているようにプレーできます。実は僕も当時としては珍しく、そういう考え方をゴルフではしようと思っていました。関東オープン(89年)で青木(功)さんに勝ったときはそうでしたね。でもゴルフ以外ではそうはいきませんでした。親父は怖かったですからね。やっぱり昭和でしたよ。(水巻善典/プロゴルファー)
●ゴルフでは平常心を保ち、一喜一憂しないことが重要です。スーパーショットでもOBでも「こんなものか」と思えること。失敗したときには、先のことは考えず、なぜ失敗したかを考えて、次はこうしようと考えていると前向きになります。常にスタートと思ってやっていると余計なことに惑わされずにすむ。これが“科学的な鈍感力”です。(小林弘幸/順天堂大学医学部教授)
●プレーの結果は自身の思考回路に大きく影響を受けます。常に安全性を優先するのか攻撃的にチャージするのかなどの判断の際、これまでの結果に一喜一憂する傾向にある人と、あまり神経をとがらせることなく気持ちを平らにマイペースに臨む人がいます。マスターズ優勝の松山英樹プロは後者のお手本。今年のPGAツアーのプレーオフ最終戦でも「ピンしか見ないゴルフを目指した」とのコメントがありました。脳の思考回路を一定に保ち、マイナス思考の入る余地もない。もはや“鈍感力”などは超え、マイナスを次のプラス思考で補う“成熟したゴルファー脳”の持ち主と言えるのでは。(大井静雄/東京慈恵会医科大学脳神経外科前教授)
●稲見萌寧の集中しているときの感じ。ほかのことは一切目にも耳にも入らないという雰囲気で、あれも一種の鈍感力? 私は、遠くで聞こえるカラスの鳴き声さえ「私をバカにしている」などと思う。敏感というか集中力のないタイプです。(40代男性・神奈川県)
小祝23歳、稲見22歳、モリカワ24歳。それぞれタイプの違う鈍感力の持ち主のようだ。日本でいう「ゆとり世代」の先の「さとり世代」だが、ひとくくりにできない個性あり
●競技に向き合うときの考え方が昔と今とでは違ってきていますね。大西魁斗も、彼のライバルだったコリン・モリカワも大学は違いますけど、難しい経営学部を卒業していてゴルフ以外のチョイスがある。だからゴルフをしていても“切迫感”のようなものがありません。モリカワなんかメジャーで優勝争いしているのに、ニコニコしていられるのも“余裕”があるからだと思います。僕らの時代はゴルフだけをやっていると「ゴルフで成功しなければならない」という切迫感みたいなものがあった。しかし、今の若い選手は「ゴルフだけが人生じゃない」と考えているようです。僕らの時代は、いかに空気を読めるかが大事でしたが、今は空気なんか読まなくてもよくて、もっと“個” が大事。自分の人生は自分が決める……自分のスタイルを持っています。昔は、試合に出るとビビッてしまって、そのビビリに慣れてきたころから、ようやく自分本来の試合運びができて、成績が出せるようになったものです。しかし、今はビビリなんてなくて、いきなり成績が出せます。モリカワは体も大きくないし、飛距離も出ないし、パターもあまりうまくない。昔なら世界では通用しないと考えられたかもしれませんが、まったく臆することなく、メジャーで戦える。“新鈍感力”とでも言うのかな、時代は変わってきていると思います。(内藤雄士/プロコーチ)
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月28日号より
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