【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.176「自信の正体」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Shinji Osawa
自信には2つあって、1つは他者との比較によって生まれる相対的な自信で、自分に人より長けているところがあれば、それが自信を生み精神的に優位に立てます。
逆に、人よりも劣っていると感じる精神状態で勝負すると、何とか追いつかなと焦り自信は失われる。自分の技術レベルは同じなのに、自信は他者との比較によってまったく逆になってしまういうことです。
僕がたとえば銀行のコンペに出たとして、自分よりも上手い人はまずいませんから、僕は自信を持ってプレーできます。ところが同じ時期に、アメリカのPGAツアーのなかに放り込まれたとしたら、周りは僕よりほぼ全員が上手いから自信など持ちようがない。
最近の男子ゴルフの若い子らは、アマチュア時代に活躍して自信満々やったのにプロに入って自信喪失するのが多くいてるそうですが、比較する周りのレベルが変わったんやから当たり前のことです。比較するから自分がわかるんであって、この世に自分ひとりやったら人間は自分が何であるかもわからんようになるいうことです。
もう1つは、他との比較ではなく、自分のなかから出てくる自信です。たとえば、ドライバーで思ったところに10ヤード刻みの球が打てればかなりの自信が持てるし、1ヤード刻みで打てたら絶対的な自信になります。
僕が日本オープンで勝った93年には、ソールに下駄履いたような5番ウッドがあって、僕はそれを武器にしてました。コレを持ったときは、カップの1ピン右とか左とかをほぼ正確に狙い、打てていた、それくらいの自信を持っておりました。
当時、ツアーのなかで比較すると飛距離でも何でも、他の選手より優位に立ててるもんは少なかったかもわからんけど、この5番ウッドのショットだけは長けていると思ってました。「自分にはコレがある」いうもんが1個あれば、それが大きな武器になり、他のクラブにもその感覚と自信が広がっていくもんです。
ただ、こういった自信や感覚は長続きせんもんです。人間の思考が、もっとできるはずやと“結果”に向くことで、それが焦りなどにつながり自信は失われていく。自信を持ち続けるいうのは難しいもんです。
「“自信”についても理解したら、それも強みになるかもしれませんわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2024年5月7日・14日合併号より