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【ゴルフ野性塾】Vol.1823「アメリカシニアツアーへの夢は叶わなかった」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

50歳になって
一番大切にして

いたものは何かと問われた。
野性塾大濠公園18人衆の問いだった。
76歳の私にとって50歳は26年前。
26年前、何をやっていたかと申せば即答は出来ない。

アメリカシニアツアーの最終予選を3年連続で受け、連続予選落ちをした。
コースの名は覚えていない。
スコアは一番いい成績で2打足らずだったと思う。
長男雅樹と共に行き、雅樹がキャディをやってくれた。
最終日、ホールインワンをした。
7アイアンで打った球がワンバウンドで入った。
次のホール、ダブルボギーを叩いた。
ダボ打った悔いは覚えている。
競技に向いていない性格だなと思った。
勿体ないよ、親父のゴルフは、と雅樹が18ホール終えて呟いた。
確かにゴルフに関する限り、勿体ない日々、多かったと思う。
ただ、執筆業にその想いはない。

本誌で最初の連載が始まった後、週刊朝日、共同通信、小学館のビッグコミックオリジナル「風の大地」と続いたが、いずれも長期連載だった。
そして、昭和60年5月に始まった野性塾は今も続く。
39年だ。
私は76歳を過ぎて77歳へと向う者。
生きて来た日々の半分以上を書いて来た。
週連載、隔週連載含めて13本書いた時期もある。
ゴルフも執筆も体力と思った。
ただ、お盆進行と年末進行は辛かった。

13誌の担当が第一ホテル東京の角部屋と対面の部屋、そして隣の部屋を押さえた。
私の1本の原稿に掛ける時間は2時間。
2時間過ぎると集中力が一気に落ちる。
だから長い原稿も短い原稿も2時間で書く。
1本書くとその原稿の担当者が部屋に入って来る。
2時間が目安だから邪魔ではない。
そして、原稿を持って行く。

書き上げた後、2時間眠らせてくれる。
ベッドではない、床でだ。
毛布を2枚敷き、毛布1枚被って眠る。
ベッドだと熟睡する。
寝起きが悪い。
2時間過ぎれば起される。
そして、次の執筆だ。
13本書き上げた後はベッドで眠る。
1年に2度、そんな日が待っていた。

50歳の時もそんな生活は続いていた様な気がする。
ただ、その記憶、確かではない。
不確かなままに日々を過し、今、野性塾大濠公園18人衆とコーヒーを飲み、30分の語らいの時間を持つ。

その時が一番大切と思い、生きて来た。


「今、一番大切にしているものは何かな。今とゆう時なのかも知れんぞ。50歳の時もそうだった様な気がする。今、アンタ方と大濠公園のスターバックスでコーヒーを飲む。旨いと思う日もあれば今日のコーヒー、少し薄いなと思う事もある。ただ、アンタ方と一緒に飲むコーヒーだから不平不満はない。コーヒーも日本茶も飲む人間が愉快であれば楽しいコーヒー、日本茶になるものだ。アンタ方は私に誠実だ。アンタ方との出会いは嬉しい出会いだった。今後、こうゆう出会いに会えるかどうかは分らないが、今を大切にしたい。私も誠実で生きて行く。そりゃ、反省と悔い多き日々だったが、その悔いも反省も今が誠実であれば許される事もあるだろう」

「坂田プロにとって10年間隔は短くなっているのでしょうか? それとも変らずですか?」
「分らない。ただ、今を大切にの想いは強まっている。それだけの事だ」
「私達との時間も坂田プロの時間に入っていますか? そうであれば嬉しいですが」

「入っている。入らぬ訳がない。アンタ方との時間は楽しい。それでもこの時間が毎日だと辛くなる時もあると思う。例えは悪いが、毎日スキヤキじゃ飽きも来よう。毎晩、女房の食事じゃあ申し訳ないとゆう気にもなる。1週間に1度は外食も必要だ。それが女房孝行じゃないのかな。そりゃ、1週間に1度は多過ぎる、お金が勿体ないの意見もあろうが、50歳過ぎればそれ位の余裕は持ちたいと思うぞ。外食に期待しない、外食嫌いだ、の気持ち持つ女性もおられようが、そこは亭主のゴリ押しで連れ出していいと思う。アンタ達が女房孝行しているかは知らんが、先祖孝行よりも女房孝行する方がいい様な気はするぞ。質問させてくれ。1週間に1度か2週間に1度、女房孝行、家族孝行している者はいるか?」

18人衆は私の顔を見た。
9人いればいいか、と思った。
「孝行している人は手を上げてくれんか?」
手を上げた者は3人だった。
「夕食の付き合いの多い職業です。女房孝行、家族孝行より仕事の付き合いを優先させています。申し訳ありません」
「謝る事はない。悪い事は何一つしていないんだからな。ただ、孝行は若い時にやっておくのがいいと思うぞ。女房殿と子供の記憶に残るのは若い時だ」
「分ります。今迄、そうゆう考え持った事はありませんでした」
「無理はするな」

「仕事の付き合いよりも女房大切の考え、今の日本には時期尚早と思う。いずれは女房大切、家族大切の姿勢、当然の時期も来ようが今は早過ぎる。日本はアメリカじゃない。日本は日本だ。アメリカに傾き過ぎた考えに私は賛同しない。ただ、1カ月に1度でいい。女房孝行を考えてくれ」
「分りました。お客様との付き合い、習慣化している接待であれば可能の様な気もします」

「無理はするなよ。50歳になって何を一番大切にしていたのかは分らん。しかし、アンタ方の年齢になるとアンタ方は接待するよりされる側だろう。女房稼業は大変だと思う。共稼ぎ、子育ての家事、育児、男には出来んぞ。それが76歳になってやっと分った。生れ変ったとしても私は女性にはならん。無理だ」

「男は女性に甘え過ぎているのでしょうか? だとすればどうすればいいのですか?」
「有難うの一言だ。そして食事の最後、おいしかったの一言が要る。説教とレッスンは3分だ。長い説教続けられても3分過ぎりゃ耳から入って眼か耳か口から通り抜ける。長い説教に感謝する者はいない。レッスンも3分。一つの指摘で充分。二つ三つの指摘受けてもその時点で最初に何を教わったのかは忘れてるものだ。事は単純がいい。長い話は単純じゃなくなる」

「坂田プロの言葉の中で一番記憶に残る言葉です。幾度聞いても納得させられます」
「50歳の時、何を一番大切にしていたか、はっきりと答える事は出来そうもない。でも、今一度、考えてみよう。今日はこれで終りだ」

以下、次週稿―――。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2024年4月30日号より

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