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「カラ振りを 素振りに見せる すごい技」ゴルフを“詠む”楽しみに取りつかれた北の大地の84歳

ゴルフのプレーそのものを楽しむ人、練習場で球を打つのが楽しい人、ゴルフのあとのお酒が楽しみな人……ゴルフの楽しみ方は人それぞれだが、北海道在住の岡部隆義さんは、ゴルフを“詠む”ことを無上の喜びとするゴルファー。趣味が高じて本まで出版してしまった84歳の、美しきゴルフ生活に迫った。

北の大地でゴルフを詠んで15年
岡部隆義さん(84)

「ラウンドは月に7回くらいですから、年に50回程度でしょうか」という岡部隆義さん。おや、計算が合わない? いえいえ、岡部さんは北海道在住。毎年12~4月にはコースがクローズになるので、年間でいえば確かに約50回。

84歳の岡部さんのゴルフ歴は35年。「仕事の付き合いで始めたのが49歳のとき。遅く始めたぶん、仲間に追いつこうと頑張りましたね。スクールにも通ってデビュースコアは124とまあまあ。その後、60歳前後の5年間はオフィシャルハンディ10をキープしましたが、現在は21。飛距離もスコアもダウンヒルで……」。さすが道産子、スコアのたとえが「ダウンヒル」。実はこのワードセンスが岡部さんの真骨頂。小誌の川柳コーナーの常連さんといえば「ああ」と思う読者もいるかもしれない。

きっかけは2007年、小誌の「ゴルフ川柳募集」の告知を目にしたこと。すると、応募した作品が「ゴルフ川柳・オブ・ザ・イヤー」に選出された。その句が「カラ振りを 素振りに見せる すごい技」。選者だった落語家の桂文楽が「すごい技」を「新しいゴルフ技術の誕生だ!」と大笑いした秀作だ。その後、書きためた句で「ゴルフ川柳」本を自費出版。さらに、ゴルフ仲間で大学の同級生でもある友人がスポンサーになってくれ2冊目も刊行。「この場合、他費出版というんですかね」

そして3年前。「妻が急に亡くなり、その後、自分が咽頭ガンになり手術を受けました」。つらい出来事が重なるなか、病室に持ち込んだのは川柳のメモ。既往作200句に新作300句を選定し、ジャンル別に分けた。「これが大変でした。でも、咽頭ガンの手術後しばらくはしゃべれないので、黙々とやりました。気晴らしにもなりましたし、ケガの功名ですかね」。ゴルフは手術後2週間で再開。いつも通りのプレーができたという。それでも、川柳の作風に少し変化は出た。「そっと起き 玉子ご飯で 行くゴルフ」から「妻逝きて 告げる甲斐なき 勝ち戦」へ。

写真で一句
「フォーム見て こんなもんかと 苦笑い」

「いまやすっかりダウンヒル」と謙遜しながら、84歳の現在もオフィシャルハンディ21。ベストスコアは60歳前後のころに出した78。「前半36で『おっ』となったら後半42で……。そのラウンドのことはいまでもよく覚えています」

*  *  *

日々の生活は、ゴルフ、川柳、読書、映画鑑賞、バラ栽培など彩り豊か。取材時に、記者より速くスタスタ歩く姿から、さぞや筋トレを……と思いきや「いえいえ、朝6時25分からのラジオ体操をしっかりやるくらい。あとは、テレビのCM中にカーペット上でパット練習を1日100球」とのこと。しかし、当地は北海道。冬の間の雪かき、手間がかかるバラ栽培、すべてが岡部さんのトレーニング。

ちなみに食事は「魚が多いです。特に好きなのはサンマと鮭」。もともと漁業関係団体勤務のサラリーマンだっただけあり、魚には詳しい。朝はパン食で、トースト、ゆで卵、ウインナー、生のピーマンにマヨネーズをかけたもの、バナナのヨーグルトあえ、季節のフルーツ。昼食はそば、うどん、パスタなどの麺類。夕食は7割が生協の宅配弁当。3割は「娘と息子の妻が差し入れをしてくれるので、それを活用。ハンバーグのタネをパスタのミートソースにアレンジしたりすることもありますよ」。創意工夫が体と脳の若さの秘訣だ。

ラウンドの日は15時ごろ帰宅すると「タラレバを突き詰めます」。タラレバは新種の魚ではなく「このミスがなければ、あのミスがなければ、の計算です。するとその日のスコアが90だったけれど『85で回れた』などとわかります」。スコアカードには、スコアとパット数だけでなく、1打ごとのミスの種類までメモ。地図記号ならぬ“ミス記号”で、ダフリ、トップ、テンプラなどがわかるようになっている。ラウンド中はミスを記録しながら「川柳に使えるフレーズを思いついたらすぐにスコアカードにメモ。最近のカードは小さいから書くのが大変ですが(笑)」

5・7・5の「5」だけでもいい。思いついたらメモし、後日「7・5」を付け加えればいい。実は、普段、家にいるときでも思いついたらすぐメモできるように、メモ用紙と鉛筆をあちこちに置いているという。「居間にも食卓にもベッドにもトイレにもありますよ(笑)。そういえば、なぜか風呂場と地下鉄の中でアイデアが浮かびやすいんです」

その膨大なメモをもとに推敲に推敲を重ね、仕上げていく。「推敲はこれでもかというくらい。ポストに入れるその瞬間までやります」。そのほか、岡部流の心がけとしては「一番は思わず笑ってしまう句。しかし、それだけでなくときどきはちょっぴり辛口だったり“意地悪”な目線があるもの。ゴルファーが『あるある』とうなずいてくれること。リズムがいいこと。これは必ず口に出して読んでみるのがコツ」という。

写真で一句
「数詠めば 下手な川柳も 本に化け」

川柳本3冊。「1冊目は山口県の方から200冊の注文があり、増し刷りをしました。2冊目は“他費出版”。編集に苦労したのが3冊目です」

*  *  *

ゴルフの日、フォローの風が吹くこともあればアゲンストのこともある。しかし、フォローがいつも奏功するわけでもない。災い転じて……は、実はよくあることでもある。2018年の北海道胆振東部地震でメンバーコースが地割れや陥没など甚大な被害を受け、倒産した。しかし、その後、ゴルフ愛あふれる経営者が現れ莫大な資金投入で「MR茨戸CC」(石狩市)として復活し「最近は連日大入りの状況なんですよ」と、我がことのように喜ぶ。

思いがけず妻に先立たれ、自身も病気になるなど、その道はちっとも平坦でない。「ガンは多いです。私のゴルフ仲間30人のうち70歳以上は17人ですが、17人のうちガン経験者が12人もいます。70%ですよ」という。それでも「つらいとき、支えになったのはゴルフ」。そしてゴルフでつながる仲間、頭をフル稼働させる川柳。感性を磨く映画や本。そしてもちろん家族。

「息子と娘の夫もゴルフをするので一緒に回ることもあります。彼らはラウンド数が少ないからなんですけれど……今のところスコアは私が一番かな。なんとか“父”のメンツを保てていますかね(笑)」

*  *  *

取材の日、まるでこちらの質問をすっかり予期していたようなメモや資料を用意してくれていた岡部さん。翌日、編集部あてに届いたFAXは「インタビュー 事前準備の 付け焼き刃」と結ばれていたが、なんのなんの。「付け焼き刃? 真剣の刀目(きめ) 感じ取り」とお返ししたい。

岡部さんお気に入りの10句
「カラ振りを 素振りに見せる すごい技」
「あの人が こんな人かと 思い知り」
「詠んだ句に 俺のことかと 詰め寄られ」
「どうしたの 聞かれて困る 下手なだけ」
「あとちょっと いつもこいつで 泣かされる」
「無理なのに 欲をかいては 恥をかき」
「キャディさん 目はと訊かれて “コンタクト”」
「一打ごと 喜怒哀楽が 絡みつき」
「コロナ戦 いつまで続く プレーオフ」
「妻逝きて 告げる甲斐なき 勝ち戦」

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週刊ゴルフダイジェスト2022年9月27日号より