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車いすゴルファー5人の挑戦と工夫<前編>「クラブよりも“カート”を万全にすることに心血を注ぎます」

9年ぶりに優勝したC・ビジェガスは、愛娘を亡くすという不幸を「Why Me」ではなく「What For」と考えると言った。10月に千葉県で行われた日本障害者オープン(日本障害者ゴルフ協会/DGA)に出場した車いすゴルファーたちはどうか。出場した5人の車いすゴルファーの挑戦と工夫を追った。

PHOTO/Yasuo Masuda THANKS/新君津ベルグリーンCC

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「自分で今できるものを探すんです」
齋藤史行さん(48歳)

北海道出身の齋藤は23歳の時、スノーボードでのジャンプ失敗により背骨を骨折(脊髄損傷)した。

「実は僕、理学療法士の資格を取るため学校に通って、リハビリの研修もしていました。それが逆にされる側になって。ケガをしたのは一度国家試験に落ちて浪人していた時。折れたその瞬間に神経がなくなり痛くはないんです」

まるで他人事のようにサラッと話す。終始、爽やかな笑顔だ。

「親の病院で働く予定でしたから、今、事務職として働いているという意味では将来プランはさほど変わっていない。他の人生はあったんだろうと思いますけど」

ゴルフはケガの前に5年くらい打ちっ放しに通っていた。

「自宅を建てる際、親がゴルフをできるスペースを作った。僕もやってみると打てたので再開しました。それからもう25年です」

5、6年前、タイヤが太く立位で打てる欧州製のカートを購入し、グリーンに乗ってプレーできるようになったことで競技熱が復活。

「カートは400万しますけど、立って昔のままの感じでできるのがいい。真っすぐ飛んでいくと気持ちいい。カップにカランと入ると面白い。パーが出れば嬉しい」

「前下がりの傾斜が一番難しい。苦しくて倒れそうに。でも、作戦通りに進みスコアが出れば面白いです」(齋藤)

30分圏内に通うコースが3つある。もちろん、乗り入れ可能だ。一般のお客さんもコースも普通に受け入れてくれるという。

「地元の上手い人なんかは、全然気にならないと言ってくれます」

年間40回のラウンド。

「昔はパチンコが優先だったけど、最近はゴルフが優先です。パチンコよりお金、かかりませんよ」

2年前、プロゴルファーを目指していた大阪の車いすの大学生とSNSで知り合った。「遊びに来ました。今、1台カートを貸しています。もう第2の人生だからって言った。彼も3年経ったから切り替えないと前に進めない。脊椎損傷になったヤマハの元レーサーの方も今、eスポーツに出ています。皆、自分が今できるものは何だろうと探します。やりたいと思えれば、何でもできる」。

きっぱり、真剣な表情で言った。

ネットで3980円で買ったという足元でゴールドに輝くゴルフ用シューズには、齋藤の自負があらわれているように感じる。

「飛距離アップも研究中。昔は手首を固定して振り抜いていたけど、軽くしか振らないのに飛ぶ大学生のリストワークを参考にしたいなと。彼は、僕の振り抜きがすごいと言ってくれました(笑)。目標は、パラリンピック出場もあるけど、大会では交流です。僕、こう見えて人見知り。話かけてくれるのを待っています。そして、動けるうちはゴルフ、続けたいです」

「人見知り」と言いながら、同組の皆さんと楽しそうにラウンドする齋藤。「18ホールあれば、そのなかでさすがに仲良くはなれますよね」と笑う

「上手くなる方法を常に探している」
川﨑賢一さん(53歳)

「実は齋藤さん、充電が上手くいかなくてバッテリー切れで、棄権の形になった。1日目スコアよかったからもったいないなあと。でも本当に北海道からカートをフェリーで運ぶのは大変なんですよ」と言う川﨑は、気遣いの人だ。

「私たちはクラブよりカートを万全にするほうが大事。大変です」

父親の影響で中学でゴルフを始め大学もゴルフ部へ。三度の飯よりゴルフが好き。ゴルフを職業にしたいとも思っていた矢先、キャディバイト中の夕食の帰り道、車の助手席で事故に遭った。数日後、脊髄損傷で99%歩けないと言われたが、「リハビリの先生が100%歩けないとズバリ。覚悟ができた。一番嫌だったのはゴルフができないことです」。

大学に復学するも、疎外感もあり興味があった留学を選択。

「アメリカでは普通にスロープもあり車いすで練習場にも入れた。でも5Iでいい当たりをしても50Yしか飛ばない。ゴルフは難しいとTVも見なくなった。今考えれば、もっと車いすゴルフについて調べればよかったです」

アメリカは当時から進んでいたが、情報を取りにいかないと入ってこない。大学を卒業し、就職し、計12年。ゴルフからは離れていた。その後帰国。就職し、同僚がDGAの大会を教えてくれた。「ゴルフはやっぱり楽しい」。

中国製のゴルフ専用カートを50万円ほどで購入。次に乗せる車を「脳みそをフル回転して」工夫した。次はスウィングだ。自分も含めて、「皆、少しずつ違うから工夫も違う」と完璧に分析する。

「僕や野島さんは、バックスウィングで右に倒れて、あおり打ちになる。上から打ち込めず、体重が乗らないのでブレるし飛ばない」

ボールの位置、軌道……人をよく観察するのは、向上心のなせる技。今は、今年のアダプティブオープンで優勝したアメリカの若い車いすゴルファーのインスタ動画を研究している。「アンダーで回ることにびっくり。インアウトではなくて、アウトインでパワーフェードっぽくしたほうが、思い切り振れるのかなと思っています」。

自身が、教える立場になるのは? 「面白そうです……手打ちで距離を伸ばす方法とかね。でも、動画を上げる知識がない(笑)」

「スコアが悪いと悔しいし、よかったら嬉しい。これは健常者と同じ。悩んで工夫するところも同じで、これがなかったら逆に面白くないですよ。疎遠になっていたゴルフ部の人たちや、昨年亡くなった父とも回ることができた。それにジュニアなど年齢とか障害に関係なく一緒に回れるのはすごいこと。目標は、日本で車いす部門の方々に勝って、アメリカのあの子と一緒に回ってみたいですね」

普段は千葉市民Gでの一人ラウンドが多い川﨑。「車いすOKの貴重な場所で綺麗で安い。一人でティーアップできるように工夫もしています」

>>車いすゴルファー5人の挑戦後編はこちら

週刊ゴルフダイジェスト2023年12月5日号より

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