雷雨と落雷でカオス状態のオークモントを制したのは?(1983全米オープン)【記者が見た“勝負のアヤ”】
記者生活50年を超えるベテラン記者・ジョーが、長い取材生活のなかで目の当たりにした数々の名勝負の中から、いまだ色あせることなく心に刻まれているエピソードをご紹介!
1983年 全米オープン
「2、3日目の調子が続けば明日は勝てる」(ラリー・ネルソン)
1983年、ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外にあるオークモントCCで行われる全米オープンに出かけた。コースに着いて最初に向かったのは3番と4番ホールの間にある「チャーチピュー(教会の椅子)」と呼ばれる巨大バンカーだった。確かにでかい! 資料を見ると幅37メートル、縦91メートルだった。そのバンカーのなかに12本のウネがあり、名前の通り「教会の椅子」のようだった。
この年は天候不良な日が続き、とくに2日目は激しい雷雨に襲われた。コース上空には雷が轟き、時折地響きが足元に伝わってくるほどで、落雷がギャラリーを直撃し、重傷者を含めケガ人まで出たほど。プレステントに戻るまで、本当に生きた心地がしなかった。だが、ようやくたどり着いたプレステントのなかは落雷で停電しており真っ暗。もちろんファックスや電話も不通。さらに、床を雨水が勢いよく流れ、まるで川のよう。記者の誰かが“Chaos(ケイオス)”と叫んだが、確かにコースもテント内もカオスそのものだった。
激しい雷雨でバンカーは池のようになってしまった
優勝候補は前年の大会を制しているトム・ワトソン。3日目を終え首位に立ち、このまま逃げ切れば2連覇だったが、最終日ネルソンが追いつきトップに並ぶ。すると、またしても激しい雷雨で試合中断。ワトソンが14番グリーン、ネルソンが16番ティーでサスペンデッド。試合の続きは翌月曜日に持ち越された。ネルソンはバーディ、パー、ボギーでスコアを伸ばせずホールアウトしワトソンを待つ。だがワトソンは17番のボギーでスコアを落とし、連覇を逃した。
3日目を終えてワトソンは「アウト31だったが、明日の勝利に結びつくとは思わない」とマイナス思考、一方ネルソンは「昨日、今日の調子が明日も続けば勝てる」とプラス思考。その通りの結果となった。
最終18番の2打目をグリーンオーバーさせてしまったワトソン。これが敗因となった
文・構成/ジョー(特別編集委員)
年齢不詳でいまだに現役記者。ゴルフダイジェスト入社後、シンガポール、マレーシアをはじめ、フランス、モロッコ、英国、スイス、スウェーデン、イタリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、中国、台湾、アラブ首長国連邦、オーストラリア、ニューカレドニア、タイ、インドネシアなどでコース、トーナメントを取材。日本ゴルフコース設計者協会
週刊ゴルフダイジェスト2022年5月3日号より