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【さとうの目】Vol.242 トーマス・ピータース「ベルギーの天才的ショットメーカー」

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手はアブダビHSBC選手権で優勝したトーマス・ピータース

PHOTO/Tadashi Anezaki

今回紹介するのは、1月の欧州ツアーのアブダビHSBC選手権で優勝したトーマス・ピータースです。ベルギーのアントワープ生まれ、イリノイ大出身。優勝した翌週に30歳になりました。もともといい選手ですが、またここからひと皮もふた皮も剥けそうな予感がします。

これまで5勝していましたが、世界トップクラスになれそうな雰囲気を持っているのに、まだ欧州ツアーで比較的小さな試合でしか勝っていない印象でした。しかし今回はロレックスシリーズの大きな試合で、本人も喜んでいるように、一流選手を相手に競り勝ったのは大きな自信になるはず。何よりその勝ち方がよかった。


コーチのピート・コーウェンが「自分が教えたなかでもNo.1のボールストライカーかもしれない」と言う、天才的なショットメーカーです。ところがショートテンパー、つまり日本語でいう“瞬間湯沸かし器”で、感情をまったくコントロールできないのが彼のウィークポイントでした。16年の全英オープンでは折ったクラブをブッシュに投げ入れ、18年のBMW選手権ではアイアンを首で真っ二つに……映像を憶えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

アブダビは今年からリンクス風の難コースに替わり、また最終日は風が吹く厳しい状況になりました。最終日をトップと1打差で迎えたピータースですが、これまでなら思うようなゴルフにならず自滅して優勝争いから後退……という展開が予想できました。ところが最終組で我慢強くパーを重ね、終わってみれば1バーディ、1ボギーのパープレーで2位とは1打差、3打差以内に9人がいる混戦を制したのです。ちなみに1ボギーはバック9に入った11番のパー5で、まさかの3パット。ここでキレず、成長した冷静な対応に解説者も驚いていたようでした。

12年に全米学生を獲得後、13年にプロ転向。16年にはダレン・クラークのキャプテンズピックでライダーカップに出場、ローリー・マキロイと組んで3勝、シングルスでも勝ち脚光を浴びます。4ポイントを取ったのは欧州チームのルーキー新記録でした。翌17年にはマスターズで4位に入り、トッププロの仲間入りかという感じでしたが、意外なことに「欧州ツアーでやりたい」と宣言。当時、ボクには「アメリカではいつでもシードが取れる」といった自信の発言に聞こえました。実はベルギーを離れるとホームシックがひどいようで、今でもベルギーに住んでいるほど。その後は欧州ツアーでもそこそこの成績は残すのですが、優勝から遠ざかり、18年はワールドカップには優勝するもののライダーカップには選ばれませんでした。

しかし20年、女の子が生まれたことが転機になったようです。あるいは家長としての責任が大人への成長となったのか、21年にポルトガルで勝ち、そして今回の優勝。PGAでのシード、初勝利はもとより、メジャーで勝っても不思議ではないひとり。天才の復活に期待です。

風のなかのプレーも上手い!

「背が高く飛距離も出てスケールの大きなゴルフをする印象のピータースだが、実は低い球がとても上手い。オランダのケネマーやアブダビのヤス・リンクスなど、リンクスコースで勝ち星を挙げていて、今年のセントアンドリュースで行われる全英オープンは優勝争いをするのではと密かに予想しています」

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2022年3月22日号より