なぜゴルフの試合のスポンサーに? #2 アース・モンダミンカップを支援する「アース製薬」の場合
今年6月に行われた「アース・モンダミンカップ」はJLPGAツアー最高の賞金総額3億円。協賛企業であるアース製薬・大塚達也会長に「ゴルフ」を支えるに至った経緯を聞いた。
PHOTO/Hiroyuki Okazawa
大塚達也 アース製薬取締役会長
1958年徳島県出身。東大大学院卒業後、86年大塚製薬、90年アース製薬入社。98年代表取締役社長、14年取締役会長。HCは14。最高は9。得意クラブは、昔は7Iで今はパター。「ほんのちょっとしたことで変われるところにゴルフの面白さはあります」
「多くのプロにチャンスを与えたい」
アース製薬が女子ゴルフの試合のスポンサーになったきっかけは、女子プロの待遇改善にあるという大塚達也会長。
「あるプロアマ大会で女子プロに聞いたんです。年に1度のQTで上位を目指して日々努力をしているけどまったく試合のない選手も多く、キャディや居酒屋のバイトで生活費を稼ぎながら練習や試合の遠征費、参加費を捻出していると。華やかな一面しか知らなかったのでいびつな世界だなと思いました。多くのプロにトーナメントへの門戸を広げたい、チャンスをあげたいというのが根本にありました。また、プロになったら一生食べられて、若者が目指したくなる、皆が憧れる職業になってほしい。会員の待遇改善にはJLPGAとコネクションを持ちたい、それにはトーナメントを開催するしかないと考え始めました」
ゴルフ界に恩返ししたい思いもあったという。
「私自身、ゴルフでビジネス的にもすごく助けられた部分がある。トップ同士の人間関係をつくっていくうえでよい潤滑剤、栄養剤になり、いろいろな情報交換ができる場でもあります。しかも老若男女関係なく、同じ場所で長時間、一緒にお話をしながら、相手の人間性も感じながらプレーしていくのが楽しい。どんどん人とつながっていけます。それに、松山英樹くんや畑岡奈紗さんなど世界で活躍されている方もいて、テレビなどを通じてゴルフに関心のない方でも勇気をもらえるし、一緒に喜べるスポーツでもあり、インターナショナルでもある。すべての要素がそろっている気がします」
社長を退任する前に、大会開催を会社に提案した。
「会社の大切な利益を使いますから、社長が勝手に決めるわけにはいかない。それまでトーナメントはゴルフに関連する主催者が多かったですし、うちもスポーツに対してスポンサーになったことのない会社でしたから。社員や株主さんのことも考え、2、3年悩み、準備をしながら、最後の私のわがままでと話をしました」
思いが人や組織を動かす。
「もちろん、アース・モンダミンカップと名前がつきますので広告宣伝でもあります。ゴルフというスポーツを通じて、製品や会社名を周知させていきたい」
アース・モンダミンカップは来年、11回目を迎える。「私の思い入れで無理やり引っ張っている部分もありますが、ありがたいことに社員の方も非常に協力的で、わりあい楽しみながらやってくれています。現場で、ボランティアで草抜きや掃除をしてもらってもいます」。
「皆が憧れる職業になってほしい」
「経営者として考えると、役員から新入社員まで生活の保障をする責任があり、誰一人不幸にしたくない。そのなかで頑張れば上にいける組織であるべきではないかと思います」
スポーツの面白さにお金を払ってほしい
大塚会長は、“ものを言える”スポンサーでもある。それは、協会の発展、ゴルフ界に貢献したいという思いが強いからだ。
「ダメ元で言い続けることで何とかなるものです。既得権やブラックボックスがあるなか、小林(浩美)会長をはじめ皆さん努力をされてきたはずです。最近、いい方向に動いた放映権問題も、私はずっと、野球やサッカー同様、JLPGAに帰属すべきだと思ってきました。モンダミンカップでは、以前からテレビ局に少しでも放映権料をもらう流れにしていたんですよ。そして昨年から、インターネット中継にチェンジしました」
大塚会長の理想の試合は、「マスターズ」だ。
「ひとつの興行として、プロの神技のようなテクニックを生で見られて優勝争いを楽しめる。ゴルフというスポーツの面白さを見せて、それにお金を払ってもらい、テレビを通してご覧になる方には視聴料を払ってもらう。それが運営費用となり選手にも還元されます。我々は、儲けるつもりはないのですが、少なくともリスクなしで、少しの手間暇をかけてイベントを主催することを目指しています。でも放映権もこれからだと思います。コンテンツの価値をどれだけ認めてくださるのか。買ってもらえないと意味がない。そういう意味ではまだ初期段階。一歩を踏み出したという感じです」
「ゴルフ界への恩返しでもある」
プレーしても見ても楽しめるゴルフ。「娯楽でもありスポーツでもありビジネスツールでもあるゴルフを、一般の方々にももっと目的に応じて活用してほしい」
「ダイバーシティ」に合う発想で盛り上げる
日本のゴルフに関わる全体で、どれだけ盛り上げられるかが大事だと熱く語る。
「女子プロツアーを接待として考えてらっしゃる方もいるかもしれない。でも、やはり強いものが勝つというスポーツの大原則を実現できる場であるべきだと強く思います。ダイバーシティなどと言われる世の中で、若くて可愛い子などという要求があるとしたら非常に残念。逆にそれに甘えるプロたちもいる。変えていかなければいけない。男子プロは、そういう部分は比較的少なく、最近若い選手も頑張っています。ただ、青木功会長にもお話ししたりしますが、ジャニーズみたいなシステムでスターをつくるべきだと。JGTOが、技術面、経済面から後押しして、強化選手として経験を積む場を与え育てていくのもいいと思います。男子ツアーの支援は、モンダミンカップがビジネスモデルとして確立してからでしょうか(笑)」
アース・モンダミンカップも進化し続ける。
「昨年はユーチューブで今年はユーネクスト、そして来年はゴルフが好きな方とより親和性のある媒体・プラットフォームも検討しております。せっかく中継するのだからより多くの方々にと。もちろん放映権料もいただきます。将来のためお金を払って見る習慣をつけてほしいんです。多チャンネル放映もします。ゴルフはいろいろな場所でいろいろなことが起きるので、いろんなメディアでいろんな形で見られたらいいですよね」
今年、50席限定、5万円で販売した特別席のダイヤモンドボックスシートも大好評だった。
「一昨年のZOZO選手権でスポンサーとしてホスピタリティテントを経験させてもらい刺激を受け、今年のモンダミンカップで実現させました。また今年、三井住友銀行さんの顧客向けにガイドツアーを行いすごく評判がよかったので、来年はインサイドロープツアーをやりたいですね。コースもカメリアヒルズさんと話をして、毎年1ホールくらい改造しています。オーガスタのような少し神々しさがある雰囲気になればいいなと」
「10年間、グレードアップしてきたつもり。
常に新しいことにチャレンジしてきました」
毎年話題になる高額賞金は、来年も総額3億円維持の方向だ。
「上限はないのでJLPGAさんと話し合いながら上げていきたいですね。私どもに追随してくれる方がいればと思っていたら、GMOインターネットさんが3億円を目指すという発言をされたそうで嬉しい限りです。高いほど手っ取り早く注目を集め、選手の向上心にもつながり還元もできる。一方で総額6000万円の試合などはステップ・アップ・ツアーと“入れ替え戦”をすれば、こちらも底上げになり、いろいろな意味で注目を集めるはず。やるべきことはまだあります」
アース製薬は試合に出られない女子プロを対象に「OKトーナメント」も主催しており、すでに16回になった。「年に2度、10年間で20回実施すると最初に宣言し、当初は私が運営費を出していましたが、そのうち協力者も出てきて、無条件で支えてもらっています」。
また、サッカーの徳島ヴォルティス、女子サッカーのアイナック神戸やハリマアルビオン、長距離ランナーの新谷仁美なども支援する。「スポーツを支援するのは、言ってしまうと自己満足です。損得ではない。でも社会貢献も同じですよね。企業が果たすべき責任だと思っています。損得の話をするとお金が出せなくなる。それでは世の中面白くないですから。ゴルフ界も世界ランクが日本ツアーにも反映されるようになったり、世界に出やすい環境も整いつつあります。これからも日本からどんどん世界に羽ばたくゴルファーが出ることを期待しています」。
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月14日号より
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