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【さとうの目】Vol.226 ニック・ワトニー「ゴルフ以外で生きる道はない!」再起を図る40歳

鋭い視点とマニアックな解説でお馴染みの目利きプロ・佐藤信人が、いま注目しているプレーヤーについて熱く語る連載「うの目、たかの目、さとうの目」。今週の注目選手は、どん底からの再起を図るニック・ワトニー。

PHOTO/Hiroaki Arihara

サム・バーンズがPGAツアー2勝目を挙げた10月のサンダーソンファームズで、2位タイでフィニッシュしたのが40歳のニック・ワトニー。03年にプロ転向し、07年のチューリッヒクラシックで初優勝。11年にはキャデラック選手権でWGC初タイトルを獲得。5勝を挙げ、若かりし頃は端正なマスクで人気がありました。今回、彼の綱渡りのゴルフ人生を紹介したいと思います。

昨シーズンはランキング204位で、入れ替え戦にも進めませんでした。25試合に出場して予選通過はわずかに6試合。5試合連続、1試合を挟んでさらに13試合連続の予選落ちもあったんです。しかも予選通過したチューリッヒはダブルス戦で、個人では18試合連続予選落ち……。では、今シーズンは何の資格で出場しているかといえば、1年間限定の生涯獲得賞金ランク50位での出場資格です。

さすがにワトニーも、昨シーズンは人生についてあれこれ考えたそうです。このまま現役を続けるのか、それとも引退かと、自問自答を繰り返す日々。予選落ちが続き、引退の二文字が脳裏をよぎったときの光景は、ボクも今でも思い出します。家にも帰りたくなくなり、しかし家族には暗い雰囲気を出すまいと、帰りの高速道路の車の中でひたすら大声で喚き散らした日々……。ワトニーもそんな感じだったのではないでしょうか。しかも昨年はPGAツアーで初のコロナ感染者として話題を集めるというおまけつき。


しかし彼が導き出した結論は、「今から他の仕事をやる自信もないし、自分にはゴルフ以外で生きる道はない」。ゴルフが嫌いになってしまったボクとは違い、改めてゴルフが好きであることを確認した彼はもう一度、立ち上がります。そこで彼の取った行動が、「ボクのすべてのスウィングを知っている」とかつてのコーチであるブッチ・ハーモンのところに戻ることでした。

そもそも彼らの“別離”の原因は、13年のメモリアルトーナメントでワトニーが82・77と叩いた後にブッチが「私生活で何か問題を抱えてるんじゃないか」というツイートをして炎上。ブッチはこの後アカウントを閉じました。ワトニーは後に「これがブッチと離れた理由ではない。他のコーチの意見が聞きたくなっただけ」と言っていましたが……。

それはともかく7月にブッチに見てもらって以降、少しずつ予選通過が増えてきます。18試合連続予選落ち後の7月から9月まで5試合中4試合で予選通過。実はこの予選通過によって、生涯賞金ランク50位に滑りこんだのです。

新シーズンに入ってワトニーは、4試合連続で予選通過しています。プロにとって40代前半はとてもキツい時期。体力の衰えに加え、シニアまではまだ遠く、また子育てなど経済的にもお金がかかる時期です。PGAツアーは賞金額が桁違いとはいえ、ロープ1本を綱渡りのように自力で戦っていくワトニーを、ボクは自分の40代前半と少しダブらせて密かに応援しています。

流れるような美しいスウィング

「09シーズンにはSGオフ・ザ・ティーで1位になるなどティーショットがとくに上手な選手だった。ケガをした16年以降は苦労していたが、ケガも癒え、ブッチとの共同作業で今季は10シーズンぶりの優勝があるかも!」(写真は2020年ファーマーズインシュランスオープン)

佐藤信人

さとう・のぶひと。1970年生まれ、千葉出身。ツアー9勝。海外経験も豊富。現在はテレビなどで解説者としても活躍中

週刊ゴルフダイジェスト2021年11月23日号より