【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.862「コーチは1人! と決めつけるのではなく柔軟に考える必要がある時代だと思います」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
>>前回のお話はこちら
- 米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。 TEXT/M.Matsumoto >>前回のお話はこちら 試合の練習場で見ていると、あまり有名ではない選手も有名プロと同じくらい、もしくはそれ以上のショットを打っているように感じることが……
レッスンを受ける場合、以前はさまざまなことを1人のコーチが教えていたと思いますが、最近はパートごとに専門のコーチが受け持つことが多くなったように思います。これについて岡本さんはどうお考えですか。(匿名希望・HC9)
ゴルフに限らず、現在ではさまざまな競技に科学的トレーニング理論が導入されています。
知る人ぞ知る先生から秘伝を直伝される、なんて時代もありましたけどね(笑)。
時代とともに、スポーツ根性のようなもので練習してきたのが徐々に減っていき、根拠のある理論的な科学的トレーニングが増えて計画的に技術の向上を支えてきました。
身体能力とパフォーマンスを数量化して分析することでトレーニングの効率化を追求し、さらには競技によっては試合展開まで予測できるようになっているそうです。
スポコンが懐かしいとは言いませんが、科学データ万能になることでスポーツの神秘性が薄まってしまうとすれば、やや寂しいと感じるのはわたしだけでしょうか。
ゴルフコーチの分業、細分化が進んできたことは確かで、その傾向は今後も続くと思われます。
プレーするうえでその内容を分割して考察する場合、わたしならショット、アプローチ、パッティングという打ち方の3つに加え、メンタルとフィジカルと食事の3部門の合計6つのジャンルに分けて考えると思います。
6つの分野、それぞれの情報や理論をきちんと収集処理し分析して正しい判断を下すにはそれなりの専門知識と経験が要るので、理想的には6つのジャンルを担当する6人の専属コーチが必要と思うからです。
専属といっても、四六時中コーチと一緒にいる必要があるというわけではなく、コーチの助言を必要とするときにアドバイスを受ければいいと思います。
メンタルやフィジカルのコーチングは、月に1〜2回の間隔で十分ですし、逆に付きっきりはお勧めしません。
一人で考える時間が重要だと考えるからです。
あと、ワンポイント的にアドバイスを受けるというのも効果的だとも思います。
1990年代の終わりのある日、わたしのところに若き日の不動裕理さんがやってきて、「清元先生に言われてきました」と言うんです。
当時、不動さんの指導に当たっていた清元登子さん(1939〜2017。元LPGA会長。不動のほか大山志保、古閑美保の3人の賞金女王を育てたプロ)が、「アプローチのことは自分より、岡本に教わったほうがいいから聞きにいってきなさい」と送り出して、不動さんのアプローチについて指導したことをよく覚えています。
そのときは、少しビックリしましたが、清元さんはいろいろな面で客観的に見ていて、教え子のための最善策を考えてこのような形になったと思いますが、これ、わたしがアプローチコーチの走りっていうことですかね(笑)。
でも、そういうわたしもアメリカでプレーしていた1983年のシーズンでしたでしょうか、カリフォルニア州パームスプリングスのあるコースで、アプローチ専門で有名だった老コーチの特訓を受けたことを思い出します。
構えたわたしのウェッジをつかんでシャドースウィングをさせると、そのままの形で目標に向かって打たせます。
それを何度も何度も延々と繰り返して自分の中に距離感を作っていく練習をした記憶が残っています。
どんな優れたアスリートでも、壁にぶつかることはあります。
その原因を探り、乗り越えるために一人でこれをやり抜くのは難しい場合があります。
自分にとって適任なコーチを見つけて課題を克服していくことは、プロにとって仕事の一部だと言ってもいいかもしれません。
それだけに、これはわたしからのお願いですが、コーチする側にもその職務に関するプロ意識と責任感を強く持ってプレーヤーに対してほしいと思います。

「選手もコーチも本気で取り取り組んでいると、感動するプレーが生まれると思います」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2025年6月10日号より