【インタビュー】河本結<後編>「変えるための挑戦と変わらない強さ、両方を兼ね備えていないと一流にはなれない」

昨年、5年ぶりの優勝を挙げた河本結。その裏には、ここ2~3年で取り組んできたメンタル面、技術面の進化があった――。
PHOTO/Shinji Osawa、Hiroaki Arihara、Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki

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- 2025年の国内女子ツアーが開幕した。昨年、NEC軽井沢72で5年ぶり2勝目を挙げ、メルセデス・ランクも7位となった河本結。プロ入り後すぐに結果を出し、アメリカへ挑戦するも上手くいかず“どん底”を経験――しかし、見事な復活を遂げたのだ。新シーズンを迎える河本に、今の自分自身について聞いた。 PHOTO/Shinji Osawa、Hiroaki Arihara、Hiroyuki Okazaw……
変えるための挑戦と
変わらない強さ
メルセデス・ランキングが7位という結果に対しても、周りは「すごいね」と言うが、河本にはそんな感覚は一切なかった。見ている目標がもっと高いところにあるからだ。
「QTから出場すると、シード獲得が目の前の目標になるんでしょうけど、私は年間女王を争える自分に気持ちを引き上げていたから。言い方は難しいんですけど、(このランキングは)当たり前という感じで。ゴルフでもゴルフ以外の場面でも、考え方や時間の使い方をしっかりしてきたからそう思えたんです」
これは、2年前から取り組んできたメンタルトレーニングの成果である。一番の成果は「今に集中できるようになった」こと。メンタルコーチと対話しながら脳の仕組みを変えていった。
「一喜一憂しなくなったし、イライラしなくなりました。たとえばマネジャーに対して、仕事で間違っていれば怒ったりもします。それは彼女の成長に関わるから。でも、そういうこと以外は他人のことはコントロールできないとわかったんです。それに、雨が降っている状況で、『嫌だなあ』と思うか『新しい傘や長靴を使える!』と思うか。本当に些細なこともポジティブに考えるかネガティブに考えるかで変わります。
実は優勝した時も、2日目から『優勝したい』ではなくて『優勝する』と100%思っていたんです。トロフィを持って周りが泣いているイメージの自分だけが思い浮かんでいました。イメージしたら勝手に結果が追い付いてきたので、そういうイメージをする楽しさも知って、そこからまたどんどん自分のイメージもよくなっていったんです」
しっかり自分と向き合うことで、人は変わることができるのだ。ただ、「変わる」ということについて、河本には考えることがある。
「やっぱり優勝したら何かが変わったんですよ、自分も周りも。それを変わらないようにする難しさも知りました。結果が出ると『もっともっと』となるし、それでもっと頑張ろうとしてしまう。やっぱりドライバーのシャフトを替えたいとか、スウィングを変えたいとか、何かを試したくなる。でも、いい状態で優勝しているんだから変える必要はないんですよね。変わらないという難しさも、その後の4週間くらいで体感したんです」
優勝した翌週、試合を棄権した。昨シーズンでただ1回の休み。海外メジャーを含めた連戦続きで体の疲れもあったのだろうが、メンタルが原因だと河本は言う。
「体の不調と一緒で心が痛いこともありますよね。そういうことってあまり公表しないですけど、本当は言ってもいいと思っています。あのときは、全英への出場が決まって、そこに気持ちがいきすぎて、自分のゴルフどころではなくなった。バタバタして、ホテルにいてもそのやり取りばかりになって、気持ちが全然試合に向かないんですよ」
「もっと」と感じて変化してしまった自分がいた。
「変わろうと挑戦するほうがラクだとは思うんです。よりよくしようと思ったら何かを取り入れたり絶対に変わろうとはします。でも、変わらない強さっていうのも必要だと思います。変えるための挑戦と変わらない強さ、どちらも怖さとワクワクが伴いますから。結局、両方を兼ね備えていないと一流にはなれないんですよ」
技術面では、3年間取り組んできたことの成果が出たという。
「3年かけて自分のデータを取って分析、傾向を見ながら練習して、ストロークもラインの読み方もコントロールできるようになった。具体的には、リズムと出球が変わらないようにする。それは体のズレからも変わってきます。本当に繊細に敏感に考えるようになりました。私はどんどんダウンブローに打って引っかけてしまいがち。フェースの開閉が大きくなりすぎないようにめっちゃ意識しています。パットがよくなると流れも切れなくなる。本当に昨年はパッティングとアプローチ、ショートゲームが支えてくれました。アプローチは(弟の)力からヒントを得たんですよ」
3年前、どん底にいた河本に話を聞いたとき、「“私”がなくなっていたんです」と話をしていた。
「そうでしたっけ(笑)。でも“私”は見つかりました、いや、できました。徐々にですけれど……」
自分としっかり向き合うことで、心技体、すべてをコントロールできる「私」が「誕生」したのだ。だから、もしまた不調に陥ってもきっと、「私」が戻れる場所となる。

「今に集中できるようになったんです」
リカバリー率2位、バウンスバック率が1位のスタッツに、「アプローチが上手いってことですよね。バウンスバックは、頑張らなくなったおかげ。次のホールで取り返してやろうという気持ちがまったくない。ボギーを打った後はしっかりフェアウェイに置くことしか考えていません」
つらい時期があったから
マジで強くなれた!
河本結には、ずっと思い描く夢がある。それを自分の「高い目標」ともしている。それは、ゴルフ界の枠を超える存在になること。
「ゴルフの成績で年間女王になる、日本一になるということもですが、魅せるスポーツなので、見た目も些細なところまで気を配ってファンの皆さんを魅了できるようにしたいですし、プロゴルファーとして呼ばれた仕事は完璧にこなしたい。服装選び、振る舞い、おもてなし……人としても一流でありたいんです。その人間力を磨くために、本を読んだり、いろいろな人に触れて、いろいろな言葉の使い方を覚えたりしています。たとえば(バレーボールの)高橋藍くんや(テニスの)大坂なおみさんのように、競技の枠を超えた存在になりたい。それを鮮明にイメージすることで、そのための行動を取るようになります。そのための練習量になるし、そのための言葉を耳に入れるようになる」
確かに、河本が日体大に進学したのも、自分がゴルフから離れた後に社会貢献をしたいという思いからだった。
「私の目標は、プロゴルファーとしてではなく、人として、ということがまず前提にあるんだと思います」
河本結は勝ち気で負けず嫌いだと言われることも多い。しかし、負けず嫌いとは責任感の裏返しでもある。誰よりも責任感が強く、完璧主義、そんな河本結は、どんなに傷ついても自分から逃げずに戦うからまた強くなれる。
昨シーズンは、かつて戦っていた舞台、世界のメジャー、全米女子オープンや全英女子オープンにも出場した。
「楽しかったし、今の私で戦えるんだとめっちゃ高揚感もありました。技術は昔のほうがあったのかもしれないけど、アメリカでのつらい時期があって、いろんなことを経験した自分って、マジで強くなっているんだなって感じました。日本でやっていても、日本一の技術があればメジャーにも勝てると確信もしました。だから今無理してアメリカに行かなくてもいいと思うし、まずは、日本のなかで日本人が憧れるプロゴルファーでありたいと思います」
日本のレベルは確実に上がっていると感じる。
「そのなかでも上位にいるのはやっぱり、しっかりゴルフに向き合っている選手たちです。プロゴルファーになったとき、日本で1番になりたいと思っていました。私は新しく『誕生』したので、もう一度、その気持ちにも戻りたいんです」
ランカスターでの全米女子オープンは予選会を突破して。「コースは難しかったです。でも前は『ここで勝ちたい、勝てる』でしたけど、アメリカはこんな感じかあ、と冷静に思えました。また、アーミッシュという電気も使わず馬車で生活しているような人たちの生活を見て、勉強になりました」


全英女子オープンはセントアンドリュースで。「ここに来られて幸せだなあと。尋常じゃない風で体が疲れるんです。風が強すぎてグリーンも遅くなるし。なんだか違うゲームだと感じます。でも、風が吹かなかったらめっちゃ簡単なコースかもしれないですね」
年間女王のため心技体を磨く
ロス五輪にも出たい
結婚、出産、引退――先輩女子プロたちのさまざまな人生の選択を見てきたが、今はとにかくゴルフに集中したいと河本。
「ゴルフって裏切らない、逃げていかない。私、いろいろなものや人にすごく尽くしてしまうタイプなんです。でもゴルフはやっただけ返ってくる。それはゴルフだけです。ゴルフは人生。私はゴルフに生かされているし、ゴルフで生きているから。それに、ロサンゼルスオリンピックに出たいんです。昨年、オリンピックの強化指定選手になれたこともあるし、日体大にはオリンピアンがたくさんいたので。やっぱりカッコいいんですよ。だから、それまでは結婚なども考えず、ゴルフにだけ向き合ってやっていくつもりです。31歳くらいまではこんな感じかな」
このオフ、年間女王になるために、心技体をより磨いてきた。
「筋トレもやって、栄養士さんと相談しながらタンパク質を多く取って筋肉量を増やしています。3キロ増えて61キロになりました。やっぱり見栄えは気になりますけど、ナンバーワンになることが第一優先。だから、体が大きくなっても顔は小さくなるようにやっています。技術面は、パーオン率がまだまだだし、フェアウェイキープ率もよくない。ドライバーが飛んで曲がらないようにするためにも、体を大きくして、振って質量が出せるようにならないといけない。下半身と上半身が一体化していたので、分離することを意識したトレーニングもしています。スウィングの形にはとらわれないようにしたいとも思っています。ゴルフってスコアを1打でも縮めるものなので、気持ちも、体作りも全部そのためにやっていきたいです」
新生・河本結は、今年も自分と向き合い、高い目標に向かって“私”という種を育てていく。

弟、力は、常に気に掛ける存在であり、切磋琢磨し合う存在でもある。自分が学んだメントレを、自分の言葉でかみ砕いて力に伝えている。「私は言葉の感覚の部分で、力と共有するものを持っている。力には私の言葉が一番入りやすいんです。私もアウトプットすることがよい時間になっています。あとは、私生活がゴルフに出るから、もっと私生活をきちんとするように言っています」
週刊ゴルフダイジェスト2025年3月25日号より