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【インタビュー】石川遼<後編>「チャレンジは自分の魂と体がある限りできる」

昨年、プロ入り17年目で日本ツアーにおけるプロ20勝目を挙げ、改めてその存在感を示した石川遼。後編では、自身が大事にする「言葉」について、そして今年34歳になる石川を突き動かすモチベーションについて、真っすぐな思いを語ってくれた。

PHOTO/Hiroaki Arihara、Tadashi Anezaki、Shinji Osawa

石川遼 2007年に15歳でツアー優勝、翌年プロ転向。2009年に国内賞金王。2013~17年PGAツアー挑戦。昨年末、米Qスクール2次予選会で敗退。国内通算20勝

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マイクを付けて2日間プレー
「ネット中継の伸びしろはまだまだある」

――石川遼には「言葉」がある。それは華々しく登場した15歳の頃から変わらないのではないか。昨年優勝した2試合も「言葉」にまつわる印象的なことがあった。ジャパンプレーヤーズ選手権byサトウ食品では、予選の2日間、ネットの生中継でマイクを付けて言葉を発しながらプレーし、そのまま優勝してしまった。三井住友VISA太平洋マスターズでは、優勝会見が1時間半に迫るものとなり、いつも以上に自らの言葉で語った。言葉は石川にとって、自然にあふれてくるものなのか。

19勝目を挙げたジャパンプレーヤーズ選手権byサトウ食品では、予選の2日間、マイクを付けて言葉を発しながらプレー。「コミットという言葉をゴルフでもよく使いますが、疑いを持ったまま打つということが一番もったいない。それでミスを誘発していたら元も子もない。適当に真っすぐに行ってくれと思って打つのは、自分がコントロールできていないことです」

石川 僕はゴルフの話だったら一生できそうです、はい(笑)。でも国語が得意だったこともないですし。ただ、本は読みますね。プレーヤーズの“自分解説” は、緊張しました。最初にマイクを付けたときはもうフワフワしていましたよ。生放送だったので、放送できない言葉やプライベートな言葉にはもちろん気を付けました。でも僕より佐藤(賢和)キャディのほうが自分を出せていなかった。
 普段はもっと面白くないことを言える人なんですよね(笑)。でも、自分解説で集中できる面もありました。僕は普段から打つ前に、どこに何番で落とすと絶対に言葉にしているんです。だからやってもいいと思ったんですけど。
 それに、実際にコースで見られる人って、2000人とか、すごく多くて1万人。でもネットだと予選ラウンドでも数万人の人が見たりします。ゴルフをもっと楽しんでもらいたいんです。実際に見ると生の音を聞けるといった魅力は確かにあるんですよ。でもネットでスポーツ中継を見る楽しさはある。多くのスポーツでどんどん研究もしているし、野球なんか360度カメラでスライディングを見せたりしますよね。そもそもゴルフってネット中継は向いていると思うんです。歩かずに座って楽しめるという意味でも、伸びしろがめちゃくちゃある分野。現場でずっと付いて歩くとその組しか見られないから、ファンの方がイヤホンを付けて、実際見ながら歩くのもいいかもしれない。

――石川は取材時、話をしながら頭のなかで整理しつつ言葉を発する。蓄積したものがあるからすぐに反応でき、広がっていくのだろう。スウィング改造と通じるものがあるのかもしれない。

石川 実は僕、何か目の前で同じことが起きても、人によってとらえ方が違うということをすごく感じるんです。それぞれの人生のなかで、こうとらえる人がいるんだと。そこに学ぶことがある。周りや友人に恵まれている思いもすごくあるんですね。僕は基本的にベースが楽観主義。それに違う人に生まれ変わりたいとか、次はこれになりたいということは今のところまったくないんです。自分の状況を嘆くということが僕の価値観にない。周りに自分の悩みを打ち明けることが最初は恥ずかしくても、それを言えたことによって、自分が思っていなかった解決策があったりするし、ゴルフはもちろん、人との関係やコミュニケーションを取ることが好きですし、ゴルフを通して出会った人には本当に恵まれたという思いがある。

言葉は誰かの人生を変える可能性がある
「一人ひとりが自分の言葉に責任を持つべき」

――石川にとって「言葉」とは、大事なコミュニケーションのツールであり、自身を成長させ、励ましてくれるものでもある。ただ最近では、自分で発した言葉がSNSなどで思いとは別の方向に使われていくこともあるのではないか。

石川 ゴルフ界や僕だけに限らずアスリートって、特に結果がすべてと言われる世界で、その瞬間のいろいろな言葉を全部受け止めて、悪く言われることを全部自分で処理することは正直、心が持たないと思います。先日ご飯を食べに行ったとき、隣のテーブルの方がゴルフ好きで僕の話もしていたんですけど、僕に全然気付いてないから、素が出るというか自由にしゃべりますよね。全部聞こえるわけです。やっぱりあの小さい体じゃもうアメリカは無理といったことを言っている。そういう感覚で多分、SNSを打っていると思います。本人は絶対にその場にいないと思い込んで。
 今、僕の人生は何も変わっていませんけど、誰かの人生が変わりかねないんですよ。一人ひとりが自分の発する言葉に、リアルだろうがリアルじゃなかろうが責任を持つ。それでいいんじゃないですか。あのとき僕は声をかけなかったけど、仮に僕が目の前にいても、「本当に無理だと思っています」と言ってほしい。「だからこれを絶対にやったほうがいいですよ」と言う人かもしれないし。自分の発言に責任を負ってるなという人の発言かどうかというのはめっちゃわかると思うんです。だからそれを見極めてほしい。


――発信する立場である石川は、言葉に責任を持っているのか聞くと、すぐに「はい」と返ってきた。

石川 キャリアが続く限り、何か言葉を求められることは当然あると思いますから。でも、言っていることは変わりますよ。僕なんかある分野では15年前と言っていることが逆になっています。根幹は変わっていないのかもしれないけど、たとえばYouTubeですごく再生されている僕の古い動画を見ると、「いや、今はこの考えはないです」と今、発信したいくらい(笑)。僕はそのときどきでは責任を持って言葉を発していますけど、言っていることが変わるのは正直しょうがないのかなと。それも含めて自分だし、人間だと。言うことが変わらないようになるまでは、まだまだ未熟者なので。

「一人ひとりが自分の発する言葉に責任を持つ。それでいいんですよ」

――自身のことを「イチゴルフファンなんです」と嬉しそうに笑う石川。ゴルフ談義が大好きだ。

石川 プロとアマを分けたこともないし、「ゴルフ、楽しいですよね」と言ってしまう。皆そこから始まっているから。僕よりクラブに詳しい人もいるからリスペクトもしますし、ゴルフ好きとして対等に接したい。僕がただなんとなくゴルフ場にいると驚く方もいるかもしれないですけど、ゴルファーだからゴルフをやっているんですよという感じ。プロだから仕事でゴルフすると思われるでしょうけど、ベースにあるのはただゴルフ好きの33歳っていうだけなんです。それ以上でも以下でもない。それに何かをひとくくりにするというのはすごく危険だと思う。アマチュアの方だって、ハンディが0から36の方までいる。絶対に「アマチュアってこうですよね」とひとくくりで言いたくないんです。

「このスウィングでいける」という自信がつくまで
練習できる時間をもらえた

――最後に「世界」への思いについて、改めて聞こう。昨年12月、PGAツアーのQスクール・セカンドから受験した。結果はカットラインに2打足りずファイナルに進めなかった。受験自体は昨年初めには決めていたという。

石川 上手くいけば、PGAツアーに行けると思っていました。下部のコーンフェリーツアーに前半戦出場できる権利でも、そこで上手くいく可能性はあるなと。それを自分で感じられる前向きさや手応えがあった。すごく調子がいいからアメリカに行こうということではなくて、全体的に自分のゴルフを見たときに、少しずつそういう自分のなかの空気感が出てきたんです。
 でも、PGAに出られる選手は上位5名だけ。基本的には1年間コーンフェリーで頑張ってこいよ、という思いがすごく伝わってくるシステムです。日本のQTでは上位約20人がレギュラー前半戦に出られると考えると、門がすごく狭い。日本選手は2人、(金谷)拓実と(平田)憲聖が入りました。日本の(賞金ランキング)ワン、ツーです。彼らの実力と、あの順位で終えられたことを本当にリスペクトするし、日本ツアーの選手も勇気やモチベーションをもらえる結果だったと思うんです。2人には本当に頑張ってほしいし、心から応援しています。
 僕の結果に関しては、瞬間的には悔しかったしすごく落ち込みました。でも今年1~3月、コーンフェリーでやるぞ、と思っていたスケジュールがぽっかり空いたので、逆にラッキーだな、ガッツリ準備してやろう、という気持ちになって。もう一段階上に行くには、すべてがきちんと準備された状態で試合を戦う必要があると。スウィングを5年くらい前から変え始めて、試合で試しながらやってきたけれど、試合のときに「このスウィングでいける」という自信がつくまで練習しないといけないな、その時間をもらえたなと思う。開幕戦まで、より気合いを入れて練習したいと思えるオフになりました。
 初めてニュージーランドオープンに出場するのもその一環で、合宿をしっかりやって、試合で中間試験――ドライバーからパターまで、またマネジメントやマインドコントロールを一度確認して、そのフィードバックを経て、またしっかり練習したい。

――石川にとって今、PGAツアーはどういう存在なのか。

石川 今どこにいるかよりも、自分のレベルはどこにいても上げられると思っているんです。PGAにいつ行くかは自分ではわからないし、Qスクールは年に1回しかないですし。でも実力が上がればQスクールは通ると思うし、昨年2勝だった国内の優勝も増やせる可能性もある。昨年、勝てた試合もまだいくつかありましたから。今は、最強になるってことしか考えていないんですよ。1年、2年後にどこにいるかはコントロールできないことですけど、1年後、ドライバー、アイアンはこういう精度に、アプローチ、パットはこういうふうに、というのは自分でできる。それら全部を世界基準に持っていけば、おのずと数字はついてくるはずだとしか思っていません。チャレンジは自分の魂と体がある限りはできるわけですから。

「この何か燃えているものを 今、すべてぶつけてやっている」

――今年もまたPGAのQスクールを受験する。すべてがそのための準備にもつながる。

石川 昨年は、ここ5年でスウィングが一番よかった。ドライバーが安定した試合も、アイアンでベタピンにつく試合も増えた。それがゆえに自分の弱さが露呈した瞬間もあって、何か焦ったり攻めすぎたり、こんなつもりはないというところから崩れたり、自分のマインドの弱さも出た。でも3年前は出なかった部分が出たことはすごくよかったです。また昨年、パーオン率が歴代ではよかったと思いますけど、それをもっと上げていくようにしたい。日本のデータを見たら、パーオン率が上のほうの選手はすごく安定しているし、世界基準でショットのレベルを考えたときにわかりやすい部分かなとも思います。とはいえグリーンを外したときにボギーを多く打っては意味がなく結果もついてこないので、アプローチももちろん伸ばしていきたい。

――前澤友作氏の新しい取り組み、ベイカレントクラシックなど、新しい試合も増え、世界のゴルフ界が混沌としている。そのなかで石川遼はどんな存在でありたいのか。

石川 もちろん、日本を代表して視野を広く見なければいけない部分もある。でも選手が本分ですから、そこに100%。自分のパフォーマンスを高くするしかない。そこに今までで一番気合いを入れていきます。今年34歳ですから。

――最後は、自分の年齢を言葉にし、自分の決意を自分に言い聞かせるように締めた石川。熱いシーズンが始まりそうだ。

人生最後に回りたいコースは? 少し悩んで、「オーガスタかな。でも、子どもの頃に行っていた9ホールのしもふさCCも復活するなら回りたいです。今はなくなってしまったので寂しいですよね」

週刊ゴルフダイジェスト2025年2月25日・3月4日合併号より