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【名手のアイアン物語】Vol.3 高さとスピンで止められる! 渋野日向子が追い求める理想のアイアン像

2019年の全英女子オープンで優勝し、一躍トップアスリートの道を歩み始めた渋野日向子。クラブセッティングをあまり変えないタイプであり、アイアンもピン『i210』を4年間使用した。その背景にあるこだわりに迫ってみたい。

TEXT/Yoshiaki Takanashi PHOTO/Blue Sky Photo

ここ数年スウィング改造に取り組み、今年の全英女子オープンでは2位になるなどその成果が確実なものになりつつある。それに伴い、新アイアンへと移行した。写真は渋野が長く愛用していたピン「i210」

前回のお話はこちら

グリーンに止まる高弾道が打てるかどうか

女子プレーヤーは男子に比べ、ゴルフクラブに強烈なこだわりを見せる選手は少ないと聞くが、渋野日向子の場合はどうなのだろう。2018年以来サポートを続けているピンゴルフジャパンのツアー担当、須藤亮さんに聞いてみた。

「渋野プロも他の女子選手と同じように、そこまで明確なクラブ観を持っているわけではないと思います。ただとにかく、グリーンにボールがしっかり止まる高さにコントロールしたいという思いが強い。これはピンが彼女をサポートし始めた頃からまったく変わらないニーズですね。それをどうしたら実現できるのかを、こちらで考えて提案する感じで進んでいます」(須藤さん)

アマチュア時代の渋野は、コンパクトなブレードアイアンの見た目やかっこよさがいいと言っていたという。本人にチョイスを委ねると『S55』や『iBLADE』といったピンの中でも男前なモデルを選びがちだった。しかし、それでは“グリーンに止まる高弾道”という理想は達成できなかった。そこでプロテスト合格後、本格的にフィッティングをして選択されたのが『i210』だったのである。

「もちろんライ角は選手に合わせていますが、ロフトは標準仕様です。構えた印象や全体的なコントロールのしやすさはすぐに気に入ってもらえたので、あとはシャフトを試しながらよりスピンが入るように仕上げていった感じです。最初はKBSツアー90(スチール)を試し、その後にもう少しスピンを増やしたいのでカーボンのMCI、MCIブラック(ともにフジクラ)、今はプロトタイプのカーボンを装着しています」(須藤さん)


女子プレーヤーの場合は、ロングアイアンではなくユーティリティ(以下UT)をコンビネーションするスタイルが一般的だが、渋野も現在はロフト30度の『G425』のUTを入れ、アイアンは6番から。これも、アイアンよりもUTのほうが理想の高さとスピンを得られやすいからだと須藤さんは言う。

結果重視で4年間使い続けた高弾道アイアン
ピン「i210」

2018年の発売以来、とくに女子プロからの絶大な支持を受け数々のツアー優勝に貢献してきた『i210』。シャープに見えるルックス、ミスに寛容なソールデザインと深めの重心設計によるボールの上がりやすさが、渋野の目指すグリーンにしっかり止まる高弾道とハイスピンを実現してくれる。スピンの入った高弾道を実現するためにはカーボンシャフトがマッチ。シャフトをさまざま試し、現在はブルーにカラーリングされたMCIのプロトタイプを装着している

名器『i210』を超える性能!?
4年ぶりにアイアンをチェンジした

「全英女子に勝った2019年は『i210』の5番を使い、UTは4番(22度)、5番(26度)の構成でした。その後はスウィング改造もあり積極的に新しいクラブに挑戦をすることは控えていました。このため同じセッティングの期間が長かったのです。2021年から少しずつクラブテストを再開し、スタンレーレディスから5番アイアンの代わりに『G425』UTの6番(30度)を入れるようになったと思います。その前に『G425』アイアンの6番をUT的に入れたこともありましたが、それは一瞬でしたね。やはり、スピンの入れやすさを考えるとウッド型のUTに分があるのです」(須藤さん)

スウィング改造とクラブテストを同時にやるべきではない。これはピン側からの提案だったという。ブランドとしては看板プレーヤーに新製品を試してほしいところだったはずだが、そこは“PLAY YOUR BEST”をスローガンとするブランドらしい配慮だ。

そして、迎えた2022年。プレーフィールドを海外に移し、歴代チャンピオンとして臨んだ『AIG全英女子オープン』では、再び優勝に肉薄するほどキレキレのプレーが戻ってきた。こうなれば新クラブに挑戦するタームである。9月第1週のLPGA『DANAオープンbyマラソン』からは『i210』の後継である『i230』にスイッチして戦う姿が見られた。渋野にとっては、およそ4年ぶりのアイアン変更である。

長年、慣れ親しんだ『i210』との訣別は、スウィング改造が完了したことの証しでもあるだろう。新たな相棒『i230』とともに、さらにパワーアップしたシンデレラストーリーが幕を開ける。

石川遼がアドバイス!
100Y以内を強くする4本のウェッジ

2019年の『全英女子オープン』優勝時は、ロフト52度、58度のウェッジ2本態勢だったが、2021シーズンからは『GLIDE3.0 SS』の46度、52度(実際は51度)、54度、58度の4本態勢に大きく変わっている。これはシーズンオフに合宿を張った石川遼からのアドバイスだった。「ウェッジを増やすことで、100ヤード以内の成功確率を上げるのが狙いです。それまでは『i 210』のPWを入れていましたがこれを『GLIDE3.0 SS』の46度に。ウェッジが増えたぶんは、UTの4番(22度)を抜くことで対応しています」(須藤さん)。渋野はとにかくバンカー練習などが多いため、58度は2カ月に一度のペースで交換しているという

ロングアイアンの代わりにハイロフトUTをバッグイン

一時期、『G425』アイアンの6番をUT代わりに入れたが、現在は渋野の理想であるスピンの入る高弾道をより実現できる『G425』UTの5番、6番を組み込んでいる。ソールの傷からもその使用頻度の高さがうかがえる

月刊ゴルフダイジェスト2022年11月号より