【ドライバー進化論】#2 “限界”超えは可能!? 「トランポリンのジャンプ」に初速アップのヒントがあった!
反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。
TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji
解説/田中克昌(工学院大学 准教授)
衝撃理論に基づくスポーツ現象の研究を行っている。ゴルフ、野球、卓球などのインパクトの専門家
●CONTENTS●
#1 慣性モーメントでは飛距離は伸びない
#2 トランポリンのジャンプにヒントあり
#3 「ヘッドの剛性」がカギを握る
CT値のギリギリを目指せば
まだまだ飛距離アップは可能?
反発規制によってボール初速が規制されてしまった今、どうやって初速をアップさせるのか。実はヘッドの反発係数の計測方法にチャンスがあるのではないかと考えがある。
というのも、本来反発係数は「COR」という「(ヘッドとボールの)衝突前と衝突後の速度の比」によって規定されているが、現在は「CT」という「(フェースとボールの)接触時間」で計測されており、この両者の間に鍵があるというのだ。スポーツにおける物体の衝突現象を研究している工学院大学准教授の田中克昌先生に話を聞いた。
「CORの検査は、大掛かりな装置のなかでヘッドにボールを直接ぶつける必要があるので、スポーツの現場での実測にはあまり向きません。そこで便宜性を重視してCTテストという方法に切り替えたんです。CTの規定値は、入念なテストの結果CORに代替しても問題のない数値に設定されていますが、速度比率のデータであるCORと接触時間の値であるCTは異なる物理現象ですので厳密には一致しません。そのため、CT値計測ではルール適合でありながら、COR的な初速は規定値ギリギリかわずかに超える可能性があるという考え方は可能だと思います」(田中)
CORは「反発速度」、CTは「接触時間」
従来の「COR」テストでは、ヘッドと衝突して跳ね返るボールの速度が規定されるので、ボール初速を上げられる可能性はなかった。一方「CT」テストは、フェースとボールの接触時間を測定するもので、ボール初速自体を計測するわけではない。ここにさらなる初速アップのヒントがある
テストの方法が変わったんです!
この測定器は、横浜ゴム独自で開発した「PRGRオリジナル簡易CT測定器」。R&A使用のペンデュラムで測定した結果とほぼ同等の結果を短時間で確認できる機械だ
トランポリンのジャンプにヒントあり
実際はCT値がルール内ならCOR値がいくら高くてもよいということにはならないが、CORで計測する場合は誤差のマージンを考え0.830という限界値は目指せない。しかしCT値は239μs(マイクロ秒)の限界値にマージンを残しつつ、COR換算で限りなく限界値を目指すことは可能だというわけだ。
「CT値を計測するペンデュラムテストは振り子状の物体をフェースにぶつけて計測しますが、振り子の質量も速度も、ゴルフの実際のインパクトと比べるとかなり小さい。その意味で実際のインパクトとは乖離があり、そこの違いを突き詰めることで、テストで計測される数値よりも高い初速性能を、実際のインパクトで生み出せる可能性はあるかもしれません」(田中)
田中先生は、インパクト時のヘッドのたわみ戻りとボールの潰れ戻りの両者(厳密にはこれにフェース面をボールが駆け上がる時間も加わるが、これは技術やロフトなどの要因が大きい)のタイミングがそろうようなインパクトを実現できれば、CT値の規制範囲内でもっとも効率のいいインパクトが可能になるだろうと話す。トランポリンの盤面の押し戻りと、乗っている人間のジャンプの踏み切りのタイミングをそろえるようなイメージだ。
たわみ戻りとジャンプのタイミングが合えば…
ボールはルールの縛りがクラブ以上に厳しい!
ヘッドとボールの関係性なのでボールも重要ではあるが、現在、ボールに関してはクラブ以上に厳しいルールが課せられており、この点において改善余地は極めて少ない
>>トランポリン効果を
最大限に発揮させる方法とは?
- 反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。 TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji ……
月刊ゴルフダイジェスト2022年6月号より