【ドライバー進化論】#1 “大慣性モーメント”時代の終焉…「飛距離アップ」はもはや限界なのか?
反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。
TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji
●CONTENTS●
#1 慣性モーメントでは飛距離は伸びない
#2 トランポリンのジャンプにヒントあり
#3 「ヘッドの剛性」がカギを握る
解説/松尾好員
多くの名手のクラブを設計してきたクラブデザイナー。ジャイロスポーツ主宰
慣性モーメントでは飛距離は伸びない
常に「飛距離」という絶対的な命題をテーマに開発が進められるドライバー。ボールの飛距離を決定づける「ボール初速」「打ち出し角」「バックスピン量」の3つの要素のうち、飛距離の絶対値を向上させるには、「ボール初速」の向上が不可欠だ。そのためチタンヘッドの普及以降、初速アップこそが飛距離アップの肝となっていた。
しかし実際は、ここ20年ほどのドライバーの進化は、ルールとの闘いとなっていた。フェースの反発係数が「0.822(許容範囲含め0.830)」に規制され、ヘッドスピードに対するボール初速にルール上の制限がかけられたのだ。これとともにヘッド体積は460㏄、クラブ長さは48インチ、そして慣性モーメントが5900g・㎠に上限が定められたことは、ドライバーの進化に大きな変化をもたらした。
これは08年から施行されることになるが、ツアーでは03年から前倒しで採用され、それ以降は初速が制限されるなかでさまざまな工夫が行われていく。
クラブ設計家の松尾好員氏によれば、この時代、何が飛びにつながるのかを各社がそれぞれの思いで探りながら、開発方向が多方面に広がったという。
「規制前の2000年前後は、フェースの反発を上げるためのヘッドの大型化やフェースの高反発化が主流でしたが、反発規制が始まると、低スピンを求めた低重心設計をはじめ、最適な弾道を得やすい重心位置の工夫が進み、そのためにカーボン素材やタングステンなどのウェイトを使ったドライバーが増えていきました。同時に大慣性モーメント設計でミスヒットしても曲がりにくく飛距離ロスが小さいクラブ、調節機能を搭載して、プレーヤー個々にアジャストすることで最適弾道を得ようとするものなど、ヘッド形状と合わせてさまざまな設計がなされるようになりました」(松尾)
つまり、最適重心で高弾道・低スピンを求めつつ、大慣性モーメントで安定的な飛距離を得ることがテーマとなったのだ。
<ドライバーの進化の歴史>
大MOI&最適重心についに限界が来た?
飛距離を伸ばすには高初速が不可欠
しかし反発規制から約20年を経た今年、大慣性モーメント化が主流となっていたドライバーの進化に新たな潮流が見えつつある。それは「初速回帰」だ。
今年発売されたテーラーメイドの「ステルス」とキャロウェイの「ローグST」の両シリーズが、ともにボール初速に着目。「高初速」を売りにすることに舵を切ってきたのだ。
現状この2モデルが初速争いをリード中?
(左)キャロウェイ ローグSTシリーズ
フェース奥に内蔵されたAI設計のフレームがヘッド剛性を高め、たわみを最適化して高初速を生む
(右)テーラーメイド ステルスシリーズ
フェースに軽いカーボンを採用し、重いヘッド後方部分がボールを押すインパクトが高初速を実現
「近年は、弾道の安定を求めてヘッドの大慣性モーメント化がひとつのブームになりました。しかし、ヘッドが大慣性モーメント化しても必ずしも球が飛ぶわけではない。むしろヘッドのネック軸周りの慣性モーメントも大きくなって球をつかまえにくいデメリットもあり、絶対的な飛距離という点では大慣性モーメントはあまり有効ではないことがわかりました。その結果、基本中の基本、ボールの飛びの3要素のなかでいちばん飛距離と直結するボール初速アップへ焦点が定まった、ということでしょう」(松尾)
たしかに大慣性モーメントは、飛距離の安定化のための機能であり、絶対的な飛距離アップに直結する要因ではない。最適重心による高弾道・低スピン化もあくまで初速性能のなかで効率的に飛距離を出すための工夫だ。
このところのヘッドの進化によってそれらの要因がほぼ限界に達してしまったことが、初速回帰を促したということなのか。
初速アップの試みは「ギリギリ」狙いだった
反発規制後も「高初速」を謳うドライバーはあったが、それらはヘッドの精度アップなどにより「反発規制ギリギリ」を目指し、ルール内のマージンを減らすことで高初速を目指すものだった
PGA選手にとっても初速は最注目データ
データ計測が一般化しているPGAツアーでは初速アップは最注目要素。ローリー・マキロイは初速84m/s超でキャリー330ヤード!
>>でも、反発規制がある限り
初速アップにも限界があるのでは?
- 反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。 TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji ……
- 反発係数の規制後も、ドライバーはメーカーのたゆまぬ研究開発により進化を続け、「飛距離アップ」を実現してきたが、もはやこれ以上伸びしろがあるのか、と思わせるほど、各社のヘッドは完成度が高まっている。果たしてこれ以上の“進化”はありうるのか。クラブ開発の今後の可能性を探ってみた。 TEXT/Kosuke Suzuki ILLUST/Takeshi Shoji 解説/……
月刊ゴルフダイジェスト2022年6月号より