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コース設計家・川田太三氏が指南。世界で認められる「いいコースの条件」とは?

日本ではフラットなコースが名門とされるケースが多いが、世界ではむしろアップダウンのあるコースが高く評価されるという。世界の名門コースを数多く体験したコース設計家・川田太三氏が、いいコースの条件について教えてくれた。

世界で評価されているのは
アップダウンのあるコース

「世界のトップ100コース」は、米国ゴルフダイジェスト誌(以下米GD)が昨年1月に、ゴルフマガジン誌(以下GM)が一昨年に、通常、隔年で発表している。

GM誌には、日本からは廣野GC39位(1ランクアップ)、川奈ホテルGC富士Cが56位(12ランクアップ)にランクイン。米GD誌の『World 100 Greatest Golf Courses』(※米国以外のコース)を見ると、日本は4コース。廣野GC(50位→13位)、川奈ホテルGC富士C(75位→26位)、東京GC(ランク外→63位)、鳴尾GC(84位→71位)と、いずれもランクアップしている。

廣野ゴルフ倶楽部(13位)
改修により原点回帰

開場/1932年 設計/C・H・アリソン 改造/マーティン・イーバート(2018ー2019)
世界からは“日本のパインバレー”と称される。2019年にマーティン・イーバートにより改修。設計当時のコンセプトにリストアしている。アリソンの壮大なバンカリングが特徴

川奈ホテルゴルフコース・富士コース(26位)
“日本のペブルビーチ”

開場/1936年 設計/C ・H・アリソン
世界からは長い間“日本のペブルビーチ”と呼ばれ、しかしそれに比べてはるかに丘陵地にあるとの評価。相模湾を背景に、松林に囲まれたフェアウェイに約20mも打ち下ろすオープニングホールが特筆すべきホールと評価

鳴尾ゴルフ倶楽部(71位)
“モントレー”を彷彿とさせるコース

開場/1920年(1930年猪名川コース) 設計/クレーン3兄弟、C.H.アリソン
ランクインする日本のコースのなかで最も丘陵コースと紹介。多くのアメリカ人にとってモントレー半島にあるコースを彷彿させるとし、丘陵のフェアウェイには、モントレーのような松が並んでいるとも

米GD誌には日本だけのランク部門もあり(下記参照)、15位に川奈ホテルGC大島が顔を出しているのが、目を引く。

世界から見た日本のベストコース

1位廣野ゴルフ倶楽部(兵庫)
2位川奈ホテルゴルフコース・富士(静岡)
3位東京ゴルフ倶楽部(埼玉)
4位鳴尾ゴルフ倶楽部(兵庫)
5位太平洋クラブ御殿場コース(静岡)
6位大洗ゴルフ倶楽部(茨城)
7位霞ヶ関カンツリー倶楽部・西(埼玉)
8位北海道クラシックゴルフクラブ(北海道)
9位霞ヶ関カンツリー倶楽部・東(埼玉)
10位横浜カントリークラブ・西(神奈川)
11位ボナリ高原ゴルフクラブ(福島)
12位フェニックスカントリークラブ(宮崎)
13位箱根カントリー倶楽部(神奈川)
14位龍ケ崎カントリー倶楽(茨城)
15位川奈ホテルゴルフコース・大島(静岡)

川奈ホテルゴルフコース
大島コース

開場/1928年 設計/大谷光明
「大島コース」は隠れた宝石として名が挙がるコースだが、日本で15位という評価は注目に値する

日本でフラットなコースが
好まれてきた理由とは?

ここで賢明な読者諸氏はお気づきだろう。これらのランクづけのなかには日本でいわゆる名コースといわれる「フラットで、林でセパレートされたコース」が必ずしも入っていないことに。
 
実はこの現象はランキングが始まった当初から変わっていない。

日本では、1955年~65年にかけ、「各ホールが林でセパレートされ、フラットなチャンピオンシップコース」が多く建設された。そのころにできたコースは設立50年を超え、戦前からのコースに次いで、確かに名門と呼ばれるレベルに育っている。
 
日本でフラットなコースが貴ばれるのは、私見だが、日本のゴルフ倶楽部の成り立ちと少なからず関係があると思う。日本のゴルフは1910年代、英米に駐在したか、留学した人たちによって黎明している。

つまり、当時のゴルフ場はスポーツの場としてだけではなく、ある程度、齢を重ねた会員の親睦、社交場としてはじまっている。肉体的負担の少ないフラットなコースがベストとなったのは、自然の成り行きだったのではないか。そこに日本庭園の趣である松などの樹木がホールを彩り、日本的情緒が加味され、名門コースとして、歴史を重ねてきた。

もちろん、そうした日本独自の歴史を背景とした価値観は否定されるべきものではなく、かくいう私も当時はフラットな林間コースがベストであると確信していた。

オーガスタは60m級の高低差がある

そんな私に新たな価値観をくれたのは1958年、マスターズ開催で知られる、オーガスタナショナルだった。テレビからは判らないコースの貌(かお)が見えたのである。

敷地のなかでは、現在のクラブハウスの位置が最高地点。そこから、10番は31mの打ち下ろしだ。その10番グリーンと同じ高さのティーイングエリアから、再び20数m打ち下ろしていくのが11番。ここが敷地内での最低地点。よって球聖ボビー・ジョーンズは、実に約60m近くもの高低差のある土地をコースとして選んでいたのである。

オーガスタの経験の後、全米、全英オープンのレフェリーとして世界のコースを体験するにつれ、そのどれもがアップダウンのある変化に富んだコースであることを認めざるを得なかった。

実は私も米GD誌の日本におけるパネラー(選定委員)の1人なのだが、欧米のパネリストにそれらのことを訊くと、口をあわせたように「上り、下りのバランス、それに3Dの立体的なバランスが、戦略性の高いデザインと相まったコースがベストだ」という。

私が会員になった、世界ランキング1位のパインバレーGCも高低差が40~50mある。

フラットに見える英国のリンクスも海風によって砂が重なりコンター(等高線)をつくり、それが丘、うねりを造作して平らなライは1カ所としてない。

日本のコース特有の歴史的背景、趣、情緒、これも世界が評価する重要な要素であることは、外国人設計家による改造を必ずしも評価していないことからもうかがえる。先に述べたフラットでセパレートされたコースも、コンターを付けたり、樹木を伐採するなど変化を遂げつつある。それらを世界はまだ知らない。「チョイス」誌の伝統企画、私も創設メンバーなのだが、「日本のベスト100コース」の発表も間近。注目したい。


川田太三(ゴルフコース設計家)
これまで設計したコースは22。元JOC委員。R&A、パインバレーGC会員。Choice誌『日本のベスト100コース』創設メンバー。米国ゴルフダイジェスト誌、『世界のベスト100コース』選定委員


「いいゴルフコースとは何か」を紐解いた川田太三氏の新著
『スゴい! ゴルフコース品定め』もチェック!

週刊ゴルフダイジェスト2021年3月9日号より