【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.747 「どんな時代になろうとも“コツコツ”に勝るものなし!」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
今年のプロテストで合格した選手は、いまの私と同じ年齢のころ何を考えていたのでしょうか。またどんな心構えでいるべきかを教えてください。(プロゴルファーを夢見る中2女子)
毎年20人以上の新人プロが誕生するようになって、もう何年がたつのかしら。
現在のテストは狭き門になっています。地区予選を突破した100名ほどが最終テストに進出。4日間72ホールを戦い20位タイまでに残らなければなりません。
ちなみに、プロテストを目指して練習に励んでいたころのわたしは、実はゴルフというスポーツがどんなものかもわからず、どんな選手が活躍しているかもほとんど知りませんでした。
ソフトボールをやめて何をしようか考えていたとき、たまたま「プロゴルファーを目指してみれば?」という誘いに乗ったという感じでしょうか。
憧れのプロがいるわけでもなく、ゴルフの魅力に取りつかれてのことでもないですが、プロゴルファーになれば、自立して生活していける。ただそれだけの気持ちでプロテスト合格を目標にしていました。
幼いころからコースや練習場に親しみ、競技会や遠征で経験を積み、ごく自然にゴルフ的な日常を過ごしてきたジュニア出身の女子プロツアー選手とはちょっと事情が違います。
でも、夢や目標に向かって毎日の努力を重ねていくという意味では、ゴルフでなくても、その歩いていくプロセスをどう過ごすべきなのかは共通しているのではないかしら。
なにごとも願いは一夜にして叶うものではないからです。
最初はまず、心にぼんやりと描く夢があって、それを実現しようと努力するうちに具体的な目標が目の前に現れてくる感じですかね。
わたしの幼少時代を思い出すと、毎日小学校へ通う道すがら海を眺めながら、ずっと遠くにあるアメリカという国に対する、漠然とした憧れでしょうか。
それから中学、高校とソフトボールに打ち込み、実業団のチームでは夢が近づきました。全国優勝したら、ハワイへ連れて行ってやると言われチームは国体で優勝。
親善試合のため訪れたハワイで、わたしはアメリカという国に惚れ込み、何とかこの国で暮らすことはできないかと夢を見る。
そしてゴルフと出合ったことで、プロになる方法、強くなってアメリカへ行く道を探り始めます。
そこでようやく目標が明確になり、挑むべき課題もはっきりしてきたと思います。
目標が見つかれば、それを果たすための身近な課題が自ずと見えてくる。
達成可能な目の前のノルマをコツコツ鍛錬してクリアすることで確実に前進していける。
それが夢を諦めないことです。
しかし、情報化が進んだいま、人間は頭でっかちになり、練習のプロセスを省略できないかと考えるようになってはいないでしょうか。
実際、あらゆるスポーツのセオリーやトレーニング法は、かつてと比べて飛躍的に進化、効率的になっています。
その学習法が短時間での上達を可能にしているといって間違いありません。
今年の女子プロツアーでは、岩井千怜さん(20)、川﨑春花さん、尾関彩美悠さん(ともに19)と3人のルーキーが優勝。
そういったスピード快挙にも成長の省力化が関係しているのかもしれません。
ただ、女子プロゴルフバブルとも言えそうな今の状況では、すぐに結果が出て金銭的にも恵まれる若い選手は、ともすると向上心を忘れてしまいかねないのが心配です。
情報や理論、用具や環境の進化発達は大いに利用しても、考え方やゴルフに対する姿勢を省力化してはいけません。
常に問題と向かい合い、真摯に、真面目に今の自分に何が必要かを考え、克服する方法を探り、工夫して自分に課題を与える。
その継続と繰り返しが技術やメンタルの習熟に結びつくのです。
目標を目指している時に、どんな心構えでいるべきか──助言を求められても一歩一歩、目の前の課題をクリアすることだけを考えるとしか言えません。
ただ、目標まで、いま自分がどこに立って、どこを向いているかは、しっかりと把握しておいてほしいとは思います。
近道はありません。
そして終わりはありません。プロテスト合格の目標を達成したとしても、その先、考えることをやめてしまえば、夢はまた遠ざかってしまう。わたしは、そう考えているからです。
「情報化社会の発達により目標を達成する時間は短縮しましたが努力の積み上げに近道はありません」
PHOTO by AYAKO OKAMOTO
週刊ゴルフダイジェスト2023年1月3日号より
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