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【ゴルフ野性塾】Vol.1753「緊張したらクラブの重さに気持ちを向ける」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

コロナに入って本を読む機会は

消えた。
音楽を聴く機会は増えた。
本を手にするには体力が要る。
音楽を聴くのに体力は要らぬ。
同じ曲を繰り返し聴いて来た。
クラシックは曲の最初から最後迄5回連続で聴いた事もあるが、これ迄、一番多く聴いたのは佐渡裕指揮の新世界であった。
佐渡裕の指揮するオーケストラは変っても佐渡裕指揮と分る様になって来た。
佐渡裕の次に多く聴いて来たのはカラヤンだ。
コロナ前は本も読んでいたが、今は聴くだけの日々を過す。
ただ、ヘッドホンで聴くのは女房殿が許さない。
「疲れます。耳が遠くなってます。ヘッドホンを使い始めてから遠くなりました。大きい音量で聴いても小さい音量で聴いても耳が遠くなってます。今迄と同じ声で話し掛けても聞えてないでしょ。それって困るんです。返事がないと返事貰う迄、大きい声で語り掛けるの疲れるんです。ヘッドホン使用は厳禁です。補聴器使うのイヤでしょ?」
「年かなァ。俺、もう75歳だ」
「年齢は関係ありません。ステレオで聴けばいい事です。誰も邪魔しませんし、反対もしません。好きなだけ自分の部屋で聴いて下さい。ただヘッドホン使用なしで」

クラシックでも演歌でも何でも聴く。そして、聴きながら眠くなれば眠る。
それが私のコロナに入ってからの過し方であった。そして、3時間眠れば眼が醒める。
女房がヘッドホンを持って行く事はなかった。ただ、ヘッドホンで聴くなと言って来るだけだ。ヘッドホン3つ。今も私の部屋のド真中に敷いてある布団の枕許に置いてあるが使う事はありません。
クラシックも演歌も他の音楽も小さなステレオで聴いている。
今日10月3日、月曜日。
現在時午後9時37分。
眠くはないがスペインギターを聴けば5分後には眠ると思う。
大濠公園迄、歩く時間は増えた。大濠の日没に合せて15階を出る。
1人で歩く。
大濠のベンチに座って沈む夕日を眺める。
女房殿、夕刻は一番忙しい時なので誘いはしない。
新しい洗濯機をやけに気に入っている女房である。
東芝製の大きな洗濯機だ。
2020年2月から大きくは変らぬ日を過しています。
それでは来週。

朝専用の重いドライバーを用意せよ。

朝イチのティーショットが苦手です。とくにコンペになると、心臓がバクバクになって必ず大ミスです。スタートする前に走っておいて心拍数を上げておくといいと聞いたことがありますが、本当でしょうか。塾長や塾生は試合の朝イチの緊張をどう克服してきましたか。(東京都・前田駿汰・34歳・ゴルフ歴2年・平均スコア110)


緊張しても思考が分断されなければ常日頃練習場で打って来た球数は生きて来ると思う。
しかし、思考の分断生じると練習場で打った球数は生きて来ない。
ハンディ8の力量に辿り着いた練習球数もゴルフ始めて3カ月の方の練習球数も同じ結果を生む筈だ。
私も貴兄も思考の分断を経験し、貴兄は経験の途中の方と推察する。
苦しいし、辛いし、情けない気持ちでティーに立ち尽くす瞬間、記憶と経験から消したいと切に願う一番ティーでありましょう。

私がゴルフ始めたのは24歳になったばかりの時。
24歳の誕生日を過ぎて20日が過ぎた時だった。
陸上自衛隊久里浜通信学校から電車で宇都宮駅へ向い、駅から自衛隊宇都宮地方連絡部の2人の現役自衛官に引率されて自衛隊のジープで鹿沼CCへ向った。
支配人室で簡単な面接終えて鹿沼入社が決まり、二階食堂でカレーライスを御馳走になった。
自衛隊のカレーの方が旨いと思った。量も自衛隊の方が多かった。
思考の分断はなかった。
冷静だった。
ここが自分の生きる処かと思った。
鹿沼CCの男子寮は畳6畳一間の押入れに布団一重ねとシーツと枕と毛布が入れてあるだけの実に単純な寮だった。
トイレと洗面所は共同だった。
寮は5室あったと記憶するが、寮に1年以上いたのは私だけで他の方は入寮1週間で外に住む部屋を見つけて出て行った。
私は鹿沼CCの寮から鹿沼CC迄の2キロの道を走って通った。
雨の日も雪降る日もだ。
思考の分断も退屈も生活への不満もなかった。
単純に素朴に日々を過すプロを目指す研修生だった。
車の免許を持たなかったのが良かったのだと思う。
持っていたら途中で別の生き様に変っていたと思う。
免許は今も持っていない。
女房も免許なしだ。

ゴルフ始めて10カ月後、日光CCで行われた栃木県アシスタントプロ研修会に出させて貰った。
研修会は栃木県からのプロテスト受験資格を得る研修生にとっては何ものにも代え難い必死の戦いの場であった。
出場30名。受験資格を得るのは2名か3名だったと記憶する。
普通、ゴルフ始めて3年で出場を許されるものだったが、私の10カ月は異例だった。
一番ティーに上る前、私はティー後方の小屋に座っていた。
緊張はなかった。
ただ、いつもの自分ではないとの想いはあった。
この時、思考の分断が始まっていたのではないかと思う。
朝一のティーショット、私は空振りに近いチョロ球を打った。
チャンピオンティーからのプレーだったが、球はフロントティーの前のラフで止った。
フェアウェイ迄、行かぬ球だった。
その瞬間、思考が分断した。
幾つもの想いが巡ったと思う。
そして己への怒りと情けなさ湧き起った事を記憶する。
5アイアンで第2打を打った。
プレーはダブルボギー、ダブルボギー、ボギーと続いた。
午前の18ホール終った。
88だった。
午後は76。2ラウンド通算164が私の初陣だった。

あの時だけです。
ショットでの思考の分断を経験したのは。
ゴルフ始めて3年と11カ月後、プロテストに通り、翌年ツアー参戦したが、ツアーでの思考の分断はグリーン上で幾度か経験した。
自分では強く打っていないつもりでも強く打っていて3パットを繰り返した。
貴兄も自分が自分でない経験をお持ちの方だと思う。
それも幾度もだ。
思考の分断を意識した時の直前、私は持つクラブを軽いと感じた。
私が貴兄であればドライバーを2本入れます。
重いクラブといつも練習とラウンドで使い続けて来た2本です。
緊張強まった時、クラブの重たさに気持ちを向けるべきと考える。軽いと感じている筈だ。
心拍数を変えるべきではない。
充分過ぎる程に心拍数は上っている。
そして興奮、緊張、不安、恐怖の思考分断の状態で振ればどうなります?
ヘッド軌道が変る。
それがミスの原因である。
一番のティーショットはその後のホールの楽しさ、切なさを作るものと思う。
ドライバー2本入れて下さい。
1番のティーショットだけに使う鉛1枚貼ったドライバー、グリップは日頃使うドライバーよりも細くした方がいい。
シャフトの硬さは同じでいい。
私から出来るアドバイスは以上だがやってみて損はないと思う。
健闘を祈る。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年10月25日号より