【笑顔のレシピ】Vol.130 環境は“悪い”ほうが人は伸びる?
メジャーチャンプ・渋野日向子を育てた青木翔が“コーチング”のこだわりを語る連載「笑顔のレシピ」。ゴルフだけでなく、仕事や育児などでも役立つヒントが満載!
TEXT/SHOTANOW
「我が子の夢を叶えるために、最高の環境を与えたい」
これはどの親御さんにも共通した思いです。僕も進路を決める段階で「強豪ゴルフ部で環境が整っている〇〇高校や××大学はどうか?」と相談されることがよくあります。
「整っている」というのは、例えば練習施設が充実していて、技術的な指導をできるコーチがたくさんおり、集まってくる選手たちもレベルが高い。そんな環境です。これらは技術を身につけるには最高の条件のように思えるかもしれません。ですが僕は、トップレベルを目指す選手ほど環境の整っていないところに身を置いてほしいと思っています。
それは環境が整っていないと、限られた時間や場所でどうしたら成長ができるのか選手自身が考えるようになるからです。例えば1日100球しか打てないなら、100球をどういう配分で打てば今の自分にもっとも効果的か練習前にイメージするでしょう。またラウンドの機会がわずかしかなければ、1ラウンドの中で何を試して何を得るか必死になって模索するはずです。
もちろんこういった意識を持っていれば、環境の整った場所でも選手は大いに成長します。ただし、人間は誰もがそんな強い意志を持っているわけではありません。特にこれまで親のサポートを受けてきた10代の選手が、恵まれた環境でずっと自分を律し続けるのは非常に難しい。
それならば、必然的に自分で工夫し考えなければ上達が難しいような環境に身を置いたほうが、長い目で見たときに選手の成長につながるのです。
プロになりツアーに出るようになれば、ゴルフ場の中でも外でも慣れない環境に順応してベストなパフォーマンスを出さなければなりません。そういった時にも、困難な環境でプレーしてきた経験が生きるはずです。
選手に最高の環境を用意したいと思うのは、親御さんもコーチも一緒。けれども選手のキャリアを考えたとき、最高が最良であるとは限らないのです。
青木翔
あおきしょう。1983年生まれ。福岡県出身。渋野日向子をメジャーチャンプに導き、三ヶ島かななどツアープロや、全国トップレベルのジュニアゴルファーの育成に努めている
週刊ゴルフダイジェスト2022年7月5日号より