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【野性塾】Vol.1728「マスターズは松山の5メートルに注目せよ。」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

うちの嫁さん、失敗したら

笑ってる。
今日3月31日。
曇りの空。
12時迄の入稿お願いします、との本誌担当の切なる願い、書き出したのが12時を18分過ぎた時だった。
当然、執筆状況と入稿時間知りたい担当は何度も電話掛けて来る。
書いた分だけでも送って下さいの願い受け、女房殿が送る。
我が家のファックスは古い。
15年前は新品だった。
2枚一遍に入って行く時がある。
原稿用紙の角を合せてもだ。
女房殿、慌てて原稿を重ねる。
そのタイミングずれた時、4枚、5枚同時に入って行く。
「ワハハッ‼ また失敗した。全部行ってしまった! グチャグチャの送稿、また送り直しだわッ!」
楽しそうだ。
笑いで己の失敗を軽いものにする知恵かとは思うが私は付き合わない。
ただ、書き続けるだけだ。
午後1時25分。
執筆終了。
終った。送って、と頼んだ。
女房殿、御苦労様、と言った。
これより眠ります。
急ぎの執筆は疲れました。
今、執筆時間、守ろうと思う。でも1週間後、多分、守れてはいない自信ありだ。
それでは来週。

追記――。
女房殿、送った。
また失敗した。
「ワハハッ! このファックス、抵抗してるッ! それとも私の原稿の揃え方、悪いのかしら!?」
知るかッ。ファックスに聞け。
舞鶴公園の桜が満開。
雨が降っても散り落ちぬ咲きの強さを持つ福岡の桜である。
眠るのを止めて桜、見に行く気になって来た。
1人で行く。
そして大濠公園のベンチでひと眠りする。
10分か20分の眠り、厚着して行けば風邪も引くまい。
女房も行くと言い出した。
運動不足解消出来ると嬉しそうに話す。
一緒じゃ眠れない。
大濠を1周歩けば行って帰って来て4キロ。
女房殿、行く準備を始めた。
行くのを止めたと言う時間は過ぎた。
満開の桜が待つ3月31日、午後のひと時。
体調良好です。

ジャック・イズ・バック!
が印象に残る。

いよいよマスターズが開幕します。塾長はこれまで何度もマスターズを観戦していますが、誰の優勝がいちばん印象に残っていますか。どのホールに注目していますか。松山英樹選手は連覇できるでしょうか。もし連覇できるとしたら、何がカギを握ると思いますか。(東京都・山崎隆行・62歳・ゴルフ歴38年・HC8)


本誌執筆の始まりは昭和59年5月の宇部ペプシトーナメント自戦記であった。
そして、8月、特集「OB論」を書き、同月、連載「過激ラウンド」の執筆が始まった。
私からの執筆希望ではなく、総て編集部からの依頼だった。
昭和60年3月、「過激ラウンド」の執筆を終えた。
締切りとゆう拘束感は強く、解放されたとの想い生じる連載終了だった。ペン持つのはそれで終りの筈だった。
だが次が来た。
昭和60年のマスターズ観戦記執筆の依頼だった。
受けた。
その時期、白竜湖オープン、阿蘇ナショナルオープンと出場出来る試合があり、悩みはしたがマスターズへの憧れが執筆依頼を受けた一番の要因だった。
結果を申せば昭和60年のマスターズから今日迄、オーガスタに行かなかった年は7年間と記憶する。
観戦記執筆と取材はきつい仕事だった。
本稿だけの執筆は観戦記16ページ、翌週稿の勝利者の技術論6ページだけだったが、平成1年から週刊朝日、数年置いてスポーツニッポン新聞への執筆も始まり、1週間で3本の観戦記執筆は眠る時間を削らねばならなかった。
1日3時間の睡眠が続いた。取材のコース歩きは1日2.5ラウンドが要った。重複の観戦記は書けなかったが故にである。
書いた。
10年過ぎて観戦記執筆の終りは来た。眠れぬ夜と1日2.5ラウンドの歩きが辛くなっていたからだ。
だが、その後もオーガスタ行きは続いた。
「風の大地」の取材があったからである。
「風の大地」のマスターズ編を終えてもオーガスタへは行った。
そして、昭和60年から今日迄の38年間で31年間、4月の第2週はオーガスタで過す日が続いた。

印象一番強く残る勝利はジャック・ニクラスの勝利だった。
次がグレッグ・ノーマンの自滅だった。ニック・ファルドに逆転された。3番目がラリー・マイズの勝利だった。
タイガー・ウッズの勝利は予測通り、期待通りの勝利であり、やはり予測外の勝利への驚きは強かった。
印象に残るホールは15番と16番の2ホール。
最終日、15番グリーン左の観戦スタンド最上段に座り、最終組が15番と16番終るのを眺めた後、18番へ走った。
間に合った。私は元気だった。今は消え去りし体力があった。

松山の今年の勝利は可能性を持つ。
何事にも可能性はあるものだが、20分の1の可能性はあると思う。グリーン上、5メートルは3球に2球入れて行き、3メートルの距離を総て入れれば勝つと思う。
ツアーレベルは上っている。
松山はレベルを上げた者の一人である。
サンドウェッジのレベルを上げている。
ニクラスとタイガー・ウッズは球質のレベルを上げた。ラリー・マイズは低い球のレベルを上げた。ゴルフの領域、いつの時代にもレベルを上げた者の存在はあると思う。
14本全部のレベルを上げた者はいない。複数の人間が球質、飛距離、精度、体・技・心の体と技を上げて来ている。
松山は1本のクラブのレベルを上げた。大した男だと思う。
日本のプロでアメリカツアーのゴルフレベルを上げた者は松山1人だけと私は見ています。

正確な距離と正確な方向性、そして球質の3つが揃わなきゃレベル上げる事は出来ぬ。
平常心、自制心、克己心強く持つ男と思う。その3つを束ねての自信であろう。
失敗を想定すれば想定通りに進むのが戦い事、競い事であり、やはり克己心は要る。
私は一芸を為した人との出会いの機会、幾度か持つが、皆、克己心強く持つ人ばかりだった。
年齢は関係なかった。
将棋の羽生善治も人間国宝の方も体・技・心の中の技への克己心は強かった。
好奇心、挑戦力、闘争心、反発力、己の感性を常に己の中心に置いて直進する力、そして周りの批判、評価を無視する鈍感さは克己心が生む力と思う。
不可能を可能に、可能を不可能にするのは克己心と考える。
スポーツの領域、己に克つのが克己心ではない。
己を信じ、己を護り、信念軸を揺らさないのが克己心である。
人は克己心を持つ。
鈍感であればいいと思う。
松山の横振れも縦振れもしないサンドウェッジ持つ克己心とそのホールの成功に期待します。
以上です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年4月19日号より