【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.35「たった一言でゴルフは変わる」
PHOTO / Masaaki Nishimoto
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
フッカーのお客さんが、つま先下がり、左足下がりのライで、テークバックを真っすぐ上げて、上から左に振ったら、経験したこともない素晴らしいショットが出たいうのが前回のお話でした。
しかし結果は池ポチャになって、残り70ヤードのところにドロップしました。お客さんが手にしているのは、52度のウェッジです。
僕は「さっきのつま先下がりの左足下がりでやったのと同じスウィングをやってみて」と言いました。ライは、その前とは違って平らです。せやけど、濡れたペタっとした薄い芝。いかにもチャックリが出そうな雰囲気もあるライやったのです。
また、テークバックを真っすぐに上げて、上から左に振り抜きました。これもまた、見事にヘッドは左へ、ボールは真っすぐ、ヘッドとボールの泣き別れが大成功です。ボールの回転が見えるぐらいの感じで、シューンと飛んで、ポンポンと2バウンドしてピタリと止まりました。
お客さんは「これも、いままでやったことがない」と大興奮です。この日、あと5回ぐらい“ヘッドとボールの泣き別れ”をやっておりました。それで「僕のゴルフスウィングに関してのイメージが変わりました」というのです。
僕の師匠の高松志門さんも、その師匠の橘田規先生も、水平打法で、この“泣き別れ”という言葉で、ヘッドの動きとボールの飛び方を教えておったのです。
そのお客さん、「プロ、また“生き別れ”やってみました!」と言うんです。「“生き別れ”、とちゃいます。“泣き別れ”です。泣く泣く別れて、ヘッドとボールが別々の道に向うんですよ」ともちろん訂正しました。
こんなふうに、ちょっと教えたことを、すぐに理解して実戦で使ってもらえると、ほんまに嬉しいことです。
もう10年も前ですが、サッカーの日本代表だった遠藤保仁さんに練習場で「どうやったら真っすぐ飛ばせるんでしょうか?」と質問されたことがありました。
「いやいや、曲げてええんですよ。目標に飛んで行けば右でも左でも」と答えました。
そうしたらフック、スライスを打ち始めて「これは面白いわ」と言うんです。さすがトップアスリートだと思いましたけど、自分のひと言でゴルフが変わるのを目の当たりにするのは嬉しいものです。
ヘッドとボールの泣き別れ
「イメージが変わればゴルフは変わりますわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年6月15日号より