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R&Aが仕掛けるゴルフ界の変革と、難コースで死闘を繰り広げた新チャンピオンの輝き【THE G4D OPEN】<後編>

5月14日〜16日、障害者ゴルフの世界大会「THE G4D OPEN〜the golf for disabled open」が開催された。 4回目の今年から舞台がウェールズのセルティックマナーリゾートに。 25カ国から80人のトップ選手が集結した本大会をレポート。 選手や関係者にたっぷりと話を聞いた。

「アジア・アフリカ、女性の競技人口普及は重要な課題です」 パラリンピックにつながる入口は、アジアやアフリカなど競技人口が少ない地域に注力すること。「日本のようにきちんとした障害者の大会をしている国はないのです」(ベネット氏)

>>前編はこちら

R&A、EDGAの責任者に聞いた
障害者ゴルフの現在地、世界大会の意義

本大会は、R&AとDPワールドツアーの共催で、EDGA(ヨーロッパ障害者ゴルフ協会)がサポートして行われている。

選手たちは、障害の種類というよりは障害レベルで「スポーツクラス」という9つのクラス「SITTING1&2」「STANDING1&2&3」「VISUAL1&2」「INTELLECTUAL1&2」に分けられる。使用ティーは4種類。

3サムもしくは2サム(車椅子)で、各組11分間隔でスタートしていく。 EDGA会長のベネット氏は、このクラス分けに尽力してきた。車椅子ゴルファー、視覚障害者などが同じ舞台で戦えるようにしてきたが、ここまで来るには多くの困難があったという。

「最初の問題は障害者ゴルフをどうまとめるか。カテゴリーが多く、それぞれに協会やコミュニティが存在し、課題も違うので単純に1つにしようとすると反発が起きる。1つずつクリアしていくのが大変でした。今は仲良くできています」

そしてこのG4Dオープンこそが、1つの大きなモデルなのだ。普及のため、健康面へのいい影響などのアピールを目的としたデータ収集・分析も行っている。

「ゴルフは圧倒的に歩きますし、健康維持のために推奨される中程度の身体活動としていい。自然の中で歩くことはメンタルヘルスにも、うつ病にもよいのです。また、障害者にはいろいろなレベルの選手がいますが、何も皆が18ホール回る必要はなく、1ホールでもいいし屋内だけでもいい。そこはプレーヤーによってカップの大きさや距離を変えたりして対応しています。たとえば重度の方にはテーブルくらいの大きさのスペースに乗せることから始めて、段階を踏んで最終的にコースに行くという課題を用意し、誰もが入ってこられる入口を作るようにしています」

コースはどうか。10年前はコース側もダメージが起きることを問題にしたり、プレーヤー自身も運転の仕方を間違えて芝を傷つけたりしていたという。両方が歩み寄り、変化してきた。

「プロモーションビデオを作り放映したこともある。マネジャーやグリーンキーパーの協会と話し合った時期もある。今はどのコースもキーパーへの教育や芝のダメージへの理解をしています。障害者を断るほうが難しい時代にもなってきました」

解決すべき問題はまだまだ多いと語るベネット氏だが、「私たちもR&Aに大会を持ち込むとき、反対されるのではと思っていたけれどそうではなかった。顔なじみになればいい方向へ進みます。行動を起こすことは難しいですが、挑戦することが大事なんです。選手も最初の1番ティーでは緊張するけど、2年目からはそれもなくなるでしょう。わからないものへの恐怖はある。でも、障害者、健常者に関わらず、とにかくやっていかねば何も変わりません」

「わからぬものへの恐怖はある。挑戦することが大事」 トニー・ベネット (欧州障害者ゴルフ協会・EDGA会長)、今回通訳も務めてくれた日本障害者ゴルフ協会専務理事の石塚義将氏と。世界の交流も生み出している

次に、ゴルフ界を引っ張る立場のNF(その国の統括団体)でもあるR&Aのベーカー氏に話を聞いた。


「このイベント(大会とそれに付随するワークショップ)はR&Aとしてもゴルフ界を盛り上げるためのモデルケース。世界に対して障害者ゴルフの役割、リハビリや健康面における研究を含めて提示します。そこには、多くのリスペクトとメディカルリサーチがあり、より幅広いゴルファーが楽しめる環境を作るきっかけにできるはず。これはゴルフ人口増加のためにも必要なカテゴリーなのです」


「ゴルフの普及のためにも、上手いより“すごい”カテゴリーを見てほしい」 ケビン・ベーカー (R&Aゴルフ開発担当ディレクター) イギリス紳士ベーカー氏。世界中の団体とのミーティングで忙しそう。我々にも真摯に言葉を紡いでくれた

各国のNFへの理解を求めることはなかなか難しいという。

「たかが障害があるゴルファーがコースに出るだけなのです。『大変だ』と難しく考えず、失敗を恐れずにやってみればいい。我々は障害者ゴルファーを受け入れることは難しいことではないと伝えるため『8パスウェイ』という仕組みを作りIGFに提出しました」

今回、会場がセルティックマナーに選ばれた理由は、コースのサイズ感と、バギーカーの台数が1人1台用意できること、車椅子プレーヤーなどのためのティーの配置ができること、何よりコースから「開催したい」という提案があったからだという。 日本ではまだ障害者を受け入れるコースが多くはないと伝えると、「なぜできないの?」と返された。

「私たちは常々、行くゴルフ場で『障害者を受け入れてほしい』と言っています。もちろん歴史あるコースは尊重しますし、急に変えることは難しい。でも最低限はやってもらうようにしています」

ダイバーシティ、インクルーシブが言われる社会の変化のなか、R&Aもこの26年の間で大きく変わってきたという。


新キャプテン、クレアも来場!
9月からR&A初の女性キャプテンとなることで話題のクレア・ダウリング氏もレフリーの統括として来場

「様々なカテゴリーの方を受け入れ、身近に感じる世界を作っていくことは我々の大事な仕事。もっと広い世代の普通のゴルファーたちに、上手いより“すごい”というカテゴリーを見てもらうことが必要だと個人的には思います。ゴルフは小さなコミュニティでやっていますから、それを広げるためのツールでもあるのです」

男女とも初優勝者!
ここからもっと広がる活躍の舞台

本大会の優勝者は、男女とも“初戴冠”。女子総合は、昨年2位のドイツのジェニファー・シュレガ(先天性軟骨無形成症〈低身長症〉・STANDING3)と2連覇中のオランダ、ダフネ・ファン・ホーテン(27歳・HC0・3・先天性の脊柱側弯症・STANDING3)が競り合う展開に。

「ゴルフはコミュニケーションのツール」 サイモン・リー (28歳・韓国・28歳・プロ・WR4GD2位)(画像左)、「ゴルフはいろいろなことを教えてくれる」 ジェニファー・シュレガ (ドイツ・26歳・HC5.4・女子WR4GD4位)(画像右)

18番でダフネがミスを重ね、ジェニファーの逆転優勝となった。

「とても難しいコースでした。勝つためにプレーするべく頑張っていれば周りの選手次第で結果はついてくると思っていました。私は背が低いので飛距離が出るわけではないからショートゲーム、ウェッジワークやパッティングに集中します。その成果です」


「常にショートゲームに集中している」
キャディを務めたのはコースから20分の場所に住む障害者ゴルファー。「彼のおかげ。私はスウィング半径が小さいのでボールを遠くまで飛ばせない。ショートゲームに集中して練習します」

家族で一緒にできるスポーツを探してゴルフを3歳頃に始めたというジェニファー。自分の疾患について人々の理解を深めるための啓発活動にも取り組んでいる。

「ゴルフは普段会えないような友だちと出会えたり、自然の中でいい空気を吸ってプレーできたり、多くのことを教えてくれます」

男子総合は、初参加のプロ同士、前出カメルーンのイッサ・ヌラレブ・A・アマンと、韓国のサイモン・リー(自閉症・INTELLECTUAL1)との戦いに。3打差で迎えた17番で「最後まで絶対あきらめないと決めていた」。


「18番は、僕にはできる!でプレー」
コーチとは一心同体。いつも冷静なサイモンがウィニングパットを決め喜びを爆発させた。「ゴルフは私に忍耐力、集中力、そしてレジリエンス(回復力)を教えてくれます」

イッサがチップインイーグルを決め1打差に。最終ホールでサイモンは、「波に乗っているので追いつかれるかもしれないと体が震えました。でも、『僕はできる!』と言い聞かせてティーショットを打ちました」。そこからは頭が真っ白になって何も覚えていないというサイモン。 2人とも2オン、先にイッサがパーとし、サイモンは4mのパットを80センチまで寄せて勝負アリ。これを入れ「YES!」と叫んで万歳をし、喜びを爆発させた。

「ゴルフはコミュニケーションのツールです。3つのオープン(USアダプティブオープン、G4Dオープン、オーストラリアンオープン)で優勝できたので、次は日本障害者オープンで勝ちたい。あ、韓国オープンもです(笑)。32年のブリスベンでの金メダルも目標です」

2人の新しい勝者が「可能性の幅」を伝えてくれたのです。

予選落ちしたけれど……
爪痕を残したニッポン選手たち

また来年、この舞台で。新たな挑戦者も求む 今回の悔しい結果を、それぞれの“ゴルフ愛”で包んで、さらに先へ向かって歩み続ける3人。ここに続く人たちの道しるべともなるのだ

毎日ホールアウトした選手たちの「とにかく難しかった」「フェアウェイのアップダウン、グリーンのアンジュレーションがすごすぎる」「天候が変わりすぎる」などの声が多く聞こえた本大会。

予選カットに関してR&Aの広報は、「これまでの大会で2日間の練習ラウンドと3日間のトーナメントをすると『疲れる』という感想が多かったのでこの形に。何よりこの大会が『チャンピオンシップ』ということを忘れてはならないという思いも込めました」。

日本選手は全員予選カット。しかし皆、自分なりの爪痕を残した。 出場中最年長の小林茂(左下肢障害、STANDING3)は、「今回が最後になるかもしれないけど、こんな素晴らしいゴルフ場でとても楽しかった」。


「スコアは悪いが楽しかった!」
小林 茂 (70歳・プロ・WR4GD75位)
最年長のスウィングがDPワールドツアーのXでバズった。コメントには「いいスウィング!」とも。「ここまでゴルフができて楽しいですし本当に幸せだなあ」と終始ニコニコ

15歳の時にケガで障害を負いゴルフを始めて54年、「その中でもかなり難しいコース。でもスウィングも変えてパターの感じもよくなってきて、上手くいったショットもアプローチもあった。自分がやりたいことができて充実していた」。年齢の壁はない。「誰とでも一緒にプレーできるからゴルフは素晴らしいのです」。

日本のエースとして出場した吉田隼人(右大腿切断・STANDING2)は会場入りして左手首を痛め、悔しい結果に。「コースは確かに難しかったけど自分が万全の状態ではなかったことが悔やまれる。来年はしっかり対策できると思うのでチャレンジしたいです」。バイク事故で右大腿を切断した後に始めたゴルフ。「たとえ失敗してもいつでもやり直せるということを教えてくれます」という自身の言葉を思い出す。


「来年はコース対策と英会話を」
吉田隼人 (42歳・プロ・WR4GD28位)
世界の選手ともすっかり“顔なじみ”に。42歳、周りの選手からは「若く見える!」と驚かれる。「来年は、3日間プレーすることはもちろん、もっと英語がしゃべれるように勉強したいです」

日本初の障害者プロ、小山田雅人(右前腕下切断・STANDING2)は2日間、持ち味の粘りのゴルフを見せていたが「距離がある程度出ないと攻略できない。私のプレースタイルで今回の上位陣と競えるのか……でも、それをやっていかないといけないですね」。2歳の時に事故で右手を失い、38歳で脳腫瘍と闘い、その後も満身創痍。「私が障害と病気の両方を乗り越えられたのはゴルフをプレーしてきたからこそだと信じています」。


「我慢のコース、自分が悔しい」
小山田雅人 (58歳・プロ・WR4GD64位)
事前コースチェックも怠らず、随所に“玄人の技”が光った小山田。粘りのゴルフを見せるも一歩足りず。周りの選手からは「手首の障害であれだけプレーできるのは素晴らしい」との声も

週刊ゴルフダイジェスト6月16日号より