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知られざる陳清波<エピソード1>全盛期のニクラスに2打差で勝利!「まるで剣の達人のよう」

ゴルフ界のレジェンド、陳清波が1月14日に93歳でこの世を去った。「チョイス」誌の連載で長年、陳さんを取材してきた記者が、その知られざる功績と人となりを述懐する。

文・谷田宣良

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該当記事なし

ベストマッチは1967年
ニクラスとの一番

プロの取材で話が止まらなくなるのは、プロテストに合格したときの話とデビュー戦の話、そして初勝利の話。この辺りから口をほぐしにかかるのが我々記者の常套手段なのだが、陳さんの場合は、少々とまどった。

1959年に東京ゴルフクラブの専属プロになった直後、日本オープンで初出場初勝利した話をもちかけても口が重い。「それは嬉しかったですよ。急に忙しくなれたのもあの優勝のおかげですからね」というだけで、試合展開についてはあまり話したくない感じが濃厚に漂うのだ。

そこで記録を調べてみると、コースは相模原CC。首位を独走していた九州のベテラン、島村祐正プロが最終日の36ホールで崩れ出し、スタート時は9打差だった陳さんが土壇場で追いついて翌日18ホールのプレーオフ。そのプレーオフは島村プロが前半41と叩き、早々に5打差をつけた陳さんの圧勝。

好勝負とはとても言えない試合だったのが陳さんの口を重くさせてしまったようだ。翌60年は2位に3打差をつけての連覇のはずがスコア誤記で失格。この試合についてはこちらも遠慮があって、話題に出さない(苦笑)。

陳さんは、レギュラーツアーで14勝をあげたが、これらの勝利についても、自分から話題にすることはほとんどなかった。多分、ただ勝ったという自慢話はしたくなかったのではないかと思う。

語りたいのは、お互いの力を引き出し合っての好対決、名勝負だったようで、その最高の戦いとして、何度も何度も語ってくれたし、話し出すと止まらなくなったのが、ジャック・ニクラスと東京GCで対決し、66対68で快勝したエキシビションマッチだった。

1967年にアーノルド・パーマー、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラスのいわゆる「ビッグスリー」が来日。日本全国を巡った。その折に日本のプロとの対決マッチも開催され、陳さんはニクラスの相手に選ばれたのだ。

この試合は当時のゴルファーたちの大きな話題を集めたようだ。「フォークボールの神様」と言われた、野球の杉下茂氏も観戦していて、陳さんと対談したときに「ニクラスが雄大なゴルフなら陳さんは鋭いゴルフ。凄い見応えのある対決でしたね」と感想を述べて陳さんを喜ばせていた。

「当時、ニクラスは27歳。パー5は全部アイアンで届く飛ばし屋。私は36歳。フェアウェイウッドで届くかどうか。でも東京GCは古巣のコースだから、そこは私のほうが有利だった……」と、話し始めたらもう止まらない。本人も「全ショット、今でも覚えていますよ」と豪語するとおりで、2人の1打1打を、次から次へと流れるように解説してくれるのだ。

「アウトは私が31で回って、残り3ホールでニクラスに3打差をつけた。でも、ニクラスは負けるとはまったく思っていなかったそうで、17番バーディ、18番もバーディを取ったけれど、私も18番チップインバーディで、2打差で勝った。好青年でね、『いいゴルフでしたね』と褒めてくれました。負けたとは言わなかったけれどね(笑)」

全盛期のニクラスを終始リードしての圧巻の勝利だった

「アメリカでの放映はボツになったらしいですよ。まさかニクラスが負けるなんて思っていなかったから慌てたみたいね」

で、実は、この世紀の対決、陳さんご家族がDVDにダビングしたものをお借りして、チョイス担当者たちと拝見。凄いものを見せていただいた。2人の全ショット完全収録! ニクラスの迫力も凄いが陳さんの慌てず騒がずの落ち着いた振る舞いも剣の達人のようで、凄い。

ニクラスのアプローチはウェッジ1本だが、陳さんは5番、6番、8番……とクラブを自在に変えての転がしで、チョンと打つとスーッと転がってピタッとOKの位置に寄っていく。

陳さんはショットの達人であることは承知の上だったが、これほどの小技の名手だったとは。ボールに近づくなり、構えてポンと打つ手際のいいこと早いこと。

後日、「見ました。陳さんから聞いていたとおりの素晴らしい対決でした」と、感想を述べると、陳さん、「昨日の晩、ベッドの中であの試合をさらったんだけれど、全ショット、ちゃんと思い出せたよ」と、素敵な笑顔で頷いてくれたのだった。

あの笑顔を見たのはいつ? 何度も何度も同じ笑顔で同じ会話をしてきた。2024年の1月に会ったのが、チョイス連載の最後の取材日。あの日も同じ話題で笑い合ったはずだ。陳さん、あの日も元気だったもの。

陳清波(1931-2025)
ちん・せいは。台湾・淡水生まれ。台湾GC(通称“淡水”)でゴルフを始め、川奈で修業を積む。のちに東京GCの所属となり、1959年日本オープンで初優勝。ツアー通算24勝。マスターズは63年から6年連続出場

  • ゴルフ界のレジェンド、陳清波が1月14日に93歳でこの世を去った。「チョイス」誌の連載で長年、陳さんを取材してきた記者が、その知られざる功績と人となりを述懐する。 文・谷田宣良 >>前回のお話はこちら 「勝ちたかったら(稼ぎたかったら)日本のツアーが始まるまではアジアサーキットに出てればよかったのでしょうが、その気はまったくありま……