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【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.304「苦手なパーティに挑戦の巻」

KEYWORD 林家正蔵

パーティといっても様々な形があります。そしてパーティ自体を好きな人もいれば、そこにいるのが苦痛とまで感じる人もいるはず。僕はどちらかというと後者。多くの人と話す機会があるのですが、話している最中に知り合いを見つけてしまうと、挨拶のために話をやめるべきなのかどうか頭で考えてしまい、会話どころではなくなってしまう……。だから苦手なんです

ILLUST/Chuji Aoshima

前回のお話はこちら

落語の世界とパーティは全くの別物

友人がちょっと見せたいものがあるから遊びに来ないかと夕飯に誘ってくれた。商売柄、人懐っこい人間だと思われがちだが、人見知りでパーティ嫌い。

よく立食パーティなどに顔を出すが、その会場に着くとどうにも居心地が悪く、すぐに逃げ出したくなる。まず人がたくさんいるし、知人と話をしていても先日お世話になった方や、義理のある先輩が通りかかったり、目が合ったりすると、今話をしている方の会話に身が入らなくなる。かといって、その会話を途中で切り上げて、他の方にサッと挨拶しに行くのも申し訳なく、この会話をどこで切り上げようかと思い悩んでグルグルする。


慣れている人は、程よいところをすぐに見つけ、「ちょっと失礼」とまるで人と人との間を蝶が舞うごとく、パーティの花の間を飛び回る。

もういい年をしているのだから、それぐらいのたしなみを身に付けてもいいぐらいなのに、私にはそのたしなみがない。さらに、料理や飲み物をいただきながら人と会話するなんて至難の業としか思えない。ワインを片手にサンドイッチをつまみながらとか、ローストビーフの皿を手に、肉汁もこぼさず食しながら、ニコニコと穏やかに社交の場を盛り上げる。

パーティはなるべく行きたくないが、この頃やたらパーティにお招きいただくことが多くなった。しかもスピーチを頼まれる。これも大の苦手。おいおい噺家だろ。人前で喋ることでご飯を食べている人間がパーティの挨拶が苦手とは意外に思われるかもしれないが、もうドキドキして仕方がない。高座があり、座布団が敷いてあれば別だが、まず立って喋ることが落ち着かない。

落語と違って、いわばフリートーク。しかも、その場に合わせて軽い笑いを散りばめ、少しこじゃれたことを言うなんて無理。順番が来るまでは、なるべく酒を飲みたくても飲まず。人に言わせてみれば、酒の力を借りればいいんじゃないかと言われるが、酒が入ると、少々調子に乗りすぎて余計なことを喋ってしまい、しくじることが心配になる。スピーチ上手にも憧れる。

友人の招待でこれも大の苦手なバーベキューへ

さて、私を招いてくれた友人はというと、まるでパーティの達人のようで、社交的で、ユーモアがあり、人間的に優れた好中年だ。父の家業を継いで立派な商いをしている。

夕飯に誘ってくれたのだが、どうやらホームパーティに誘われたのは私だけでなく、友人の友人からも「お前、あいつのホームパーティ行くの?」とメールが回ってきた。気心知れた昔からの仲間だから、重い腰を上げて、待ち合わせして仲間たちとそいつの家へ向かった。

情報によると、どうやらバーベキューパーティらしい。私はバーベキューとなるものが大の苦手である。何も河原や原っぱで飯を食べなくてもいいのではないかと、いつも疑問に思う。それに面倒くさい。食材を選び、火を起こし、調理する。そして、またそれを片付ける。河原や原っぱで遊ぶのはいいが、飯くらい落ち着いて食べたいし、虫とかが飛んでくるのも嫌だ。

確かあいつの家には、少しばかりの庭があり、以前新居祝いに行った時には使わなかったが、「庭でいつか、バーベキューパーティをできるようにしたいなぁ」なんて言っていたのを思い出した。

ホールインワン記念で豪華な食事を堪能と思いきや……

少々不安も抱えてチャイムを押すと、奥さんが迎えてくれた。リビングに通されて、シャンパンをいただく。ビールが飲みたいと思いつつも、よく冷えておいしかったので、これでもいいやと思っていたが、気が利く奥さんは、ビールがいいんでしょ、とキンキンに冷えたビールとこれもキンキンに冷えたビールグラスを持ってきてくれた。さすが元キャビンアテンダント。

少々落ち着いたところで、「本日はお集まりいただき」と招待主、いわゆる主役ホストの友人がおしゃべりを始めた。「先日、会社の社内コンペで、初めてアンダーで回ってきました」。スコアカードをまるで水戸黄門の印籠のようにして出した。「おまけにホールインワンも生まれて初めて達成しました!」

いやーこれはびっくり! 「ホールインワン保険も入っておりますので、どうぞごゆっくり!」。庭のバーベキューセットの前では、どこぞのレストランのコックさんが良い牛肉を焼いてくれている。しかもワ
インは年代物。調子に乗って、飲んで飲んで、ベロベロ。

そろそろお開きというところで友人が、「それでは締めの挨拶を友人代表として、林家正蔵さんにお願いします」と言われて頭が真っ白に。頼むから先に言っておいてよと思ってしまう。だからパーティが嫌いなんだ。来てしまった自分を責めた。

パーティの 最後の最後で どん底へ

月刊ゴルフダイジェスト2024年11月号より