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【ゴルフ野性塾】Vol.1819「生き様が一徹一芸の人生に縦の筋を作る」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

野性塾大濠公園
18人衆は礼節を

知る男達だった。
語る私はカフェラッテを飲んだ。
聞く彼等は飲まなかった。
遠慮せずに飲みなさいと言った事もあったが飲まなかった。
彼等がコーヒー飲むのは、私が語り途中に休みを入れた時だけだった。
寒い日だった。

「40歳の時の一番大切なものか。想い浮かばないな。

そりゃ大切なものは何時の時もあると思う。10歳の時でもだ。しかし、その大切なものを意識して生きて来たかと申せばそうじゃなかった。意識せずに過ごして来た76年間だった。

40歳の時、一芸に生きる人を訪ねて行った時期はある。書道、風景画と日本画、陶芸に生きていた方に手紙を書き、続いて電話を掛け、訪れてもいい日を戴き、約束の時間30分前に玄関に立っていた。自宅で会って貰える事もあれば仕事場で会って貰える事もあったが、訪れた方のほとんどが自宅で会って貰えた。私は一期一会の気持ちで訪れた」

40歳。一芸の道の生き様を知った。


「私は語り上手ではないし、聞き上手でもない。己を高くも低くも評価しないで過して来た人間である。評価なんて人様がやってくれるものであり、己で為すものではなかった。

人間国宝の方にも会って貰えた。会った方は皆、話の中に一本の縦筋と横筋があった。縦筋は一徹一芸の生き様が与えしものであり、横筋はその方の個性と才能が生みしものであったの想いは持つ。人は縦筋は持つ。だが横筋持つ方は多くいないと思う。私は縦の筋に興味を持っていた。生き様を知りたかった。

会った方は皆、基本を語ってくれた。質問も受けた。ゴルフと執筆業とジュニアゴルファー指導の基本は何かと。私は父から教わった事を伝えた。父は職業軍人であり、軍人引退後は和菓子職人になったが、父が私に残した言葉、多くはなかった。多くなかったが故に記憶に残る言葉は今も私の記憶の中に在る。私が小学1年の時、父が布団に入る直前の私に語ってくれた。

『信弘。お前、絵描きになりたいのか? 難しい仕事じゃあるが一生の仕事として面白い仕事と思う』

熊本市立日吉小学校の代表として熊本城の写生会に参加し、私は特選を貰った。信弘には絵描きの才能あるんじゃないかと、母さんの爺様は特に喜んだ。私はアナウンサーか銀行員になりたかった。父は言った。

『俺はお前がなりたいものになればいいと思っている。成功してもしなくてもだ。ただ、何をやるにしても基本は要る。銃剣道も和菓子作りもだ。絵の事は分らん。しかし、基本は在る筈だ。学校の図画の先生に聞けば教えてくれると思う』

父は私が図画の先生に問う事はないと推察していたと思う。父は教えた。

『人様から聞いた話だ。鉛筆1本あれば絵の基本は得る事出来ると。窓際、部屋の中央、部屋の片隅、夏の太陽の真下、冬の太陽の真下、鉛筆1本立てて、鉛筆の作る影を眺め、その影を模写すればいい。それで絵の基本となるデッサン力は生れると。銃剣道の基本は一点を突き続ける事だ。突きと引きの基本、力と型の調和、総て一点突きからしか得られぬものだ。基本を得るに派手さは要らぬ。繰り返しが要るだけだ』

父の声は穏やかだった。その夜もいつも通り眠れた。そしていつも通りの朝だった。父の推測通り、私は聞かなかった。絵描きになるつもり皆無だったが故にだ。時、過ぎて私は和菓子職人にもならず、銀行員にもならず、プロゴルファーになり、執筆業を始め、ジュニアの指導も始めた。執筆業、多い時は週連載と隔週連載合せて13本の連載を持ち、ジュニア塾は全国6カ所に開校した。

想い出した。40歳過ぎた時、日本画の大家とお会い出来る機会を戴いた。そして質問を受け、答えた。私の言葉ではなく、父の言葉を伝えた。執筆業の基本は未だ理解出来ていませんと伝え、指導の基本は子供の努力を信じる事と述べた。信じれば信じ返してくれるのが指導の要諦と言った記憶がある。夕食を馳走になった。

26年前、その方は鬼籍に入られた。そうだな。一芸に生きる方と出会う幸運が40歳の時だった様な気がする。勿論、私が望んで得る事の出来た幸運だったが、一芸への興味強き時だったと思う」

「今の私達がそうです。坂田プロの表情、夢の中に出る事もあれば、食事の最中、出会う時もあります」

「一週間に一度で充分だろう。好きだからと同じものばかり食べていると感動は薄れ、好きの気持ち、一気に冷めるものだ。ゴルフの基本然り。どこに基本在るかを申せば自信と隣合せに基本在りだ。体・技・心、それぞれに基本在るのがゴルフだ。練習場とゴルフ場のボールの飛び様、同じ初速で飛び行く訳ではない。曲り幅も違う。シャフトが長い程、違いは生じるものだ。

今日はこれで終ろう。随分と長くなった。何が一番大切だったのかはこれから考える。勝手に出て来る記憶ははっきりするが想い出そうとする記憶はくすみの色だ。勝手、自由気儘とゆうのは油絵みたいなものかも知れんな。記憶の色、鮮やかだ。ゴルフの基本、明確にする時が来た様にも思う。それでは来週水曜日」

皆、立った。
風、強く吹いた。
木の葉が転がった。
風が背を押した。
木の葉と共に歩いた。
冬だった。
以下、次週稿―――。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2024年3月12日号より

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