【ゴルフ野性塾】Vol.1814「7分の力で打った時、手はどこにある?」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
平成5年8月に
熊本塾を
開いたが、ゴルフ経験持たぬ者を塾生として来た。
小学生でゴルフ経験持つ者は親か爺様婆様が豊かさ持っていた。その豊かさは坂田塾にとって利とはならなかった。
迷惑だった。
だから入塾選考会、ゴルフ経験持つ子は入れなかった。
一対一の入塾面接の時、ゴルフ経験持つ者はゴルフした事あるのかとゆう私の質問に対して返事の中に、そして態度の中に少なからぬ威張りを見せていた。
私は己の生き様、成功した者ではない。
大きな成功もなければ大きな失敗もない、ごく普通の日々、過して来た者だ。
幸運だった。人との出会い、幸運だったと思う。
人、己を知れば一つのもの生れる。
幸運の連鎖だ。
己を過大評価し、周りに嫉妬すれば不運の連鎖が生じる。
この事、人との出会いの中で知りたる事。
私は己を過大評価する程の傲慢さは持っていなかった。
嫉妬心持つ程の自意識と不幸不満持つ者でもなかった。
凝視の眼線、持てば嫉妬は生れよう。凝視、己の自意識強まる程に嫉妬は生じるものだ。
また、嫉妬は徒党を組む習性を持つと思う。
そして組んだ人間は同一の嫉妬を持つ。嫉妬の共有であるが、無視すりゃそれで済む脆いものとゆう気はした。
私は嫉妬心持たぬ者だった。
群れなかった。
嫉妬心持つ者は己の嫉妬心を隠す。
だが嫉妬心は臭いを出す。
その臭い、隠せぬ臭いだ。
私は塾生に教えた。
成功したければ嫉妬心は持つな。
己の気持ち、嫉妬心と思った時、恥かしいと思え。
恥を知るは大事。
真っ直ぐ生きたいと願う時、恥は道路のセンターラインともなれば街灯にもなると教えた。
昨年12月18日、午後6時30分、熊本キャッスルホテルに熊本塾1期生から11期生達の卒塾した者、途中退塾した者合せて41名が集うた。
初めての同窓会だった。
発起人は古閑美保。
同窓会を仕切ったのは平成5年開塾時から5年間キャプテンだった渡辺俊一郎。
古閑の司会で同窓会は始まった。集うた者全員が私の前で同じ事を言った。
「塾長にはゴルフを教わりました。しかし、ゴルフ以上に教わった事がありました。今は分ります。それは生き行く姿勢でした。坂田塾がなかったらゴルフやる事はなかったし、今日の生活もなかったのは確かです。感謝しております」
皆、笑顔だった。
そして、「いつ迄も元気な塾長でいて下さい。それが私の願いです」と言った。
涙が出そうになった。
「いつかは別れの時が来る。その覚悟だけはしておけ。一度の出会いと一度の別れ、それが一期一会だ。同じ状況、同じライ、同じ距離、同じ風で打つ事ないのがゴルフだ。一期一会、それだけは忘れるな」
泣く者がいた。
幼き頃と同じ姿勢、同じ眼で私の前に立つ者もいた。
一生懸命、必死の想いで球を打ち、そして今日迄、生きて来た者ばかりだったと思う。
熊本キャッスルホテルに来られなかった者は近況と現在の想いを葉書きに書いて渡辺俊一郎宛に送っていた。
そのメッセージで30名以上の近況を知った。
真っ直ぐ生きて行け。
そして愛する人を大切にして行け。
お前達に出来るのはその二つ。
私に出来たんだからお前達にも出来ると想いて41名の手を握った。
今年12月、2回目の同窓会をやると聞いた。
そうか、私はゴルフを教えて来たがゴルフ以外の事、教えていたのか、と思った。
フィニッシュの手の位置は左耳の横。
「週に一度、私とコーヒー飲んで来たが、愉快なコーヒーだったのかな?」
「愉快と言うか、落葉樹と針葉樹が入り混じり、渓流流れる山奥の空気を吸わせて戴いてる想いが強いです。その空気、胃迄、届く様な気がしています」
「そうか。それが実利を尊ぶ者の感覚か。フィニッシュ位置だ。実利好む者のスウィングはスウィングの終りを作ればいい。逆に理想好む者は球を叩きに行くトップ位置の型を作ればいい。そこが球へと向う始まりの位置だからな。スウィングの終りは手の位置。手の位置は高さ。左肩、左首、左耳、頭のテッペン位置、そして頭の上と位置作る目安は幾つもあるが、7分の力で打った時の位置を知ればいい。若い時の私の7分の力で打った時の位置は頭の高さだった。今は左耳の高さだ。ついて来い」
大濠公園内スターバックスを出てスターバックス裏の樹林へと向った。
18名全員がついて来た。
フィニッシュを取らせた。
「模倣出来るのであれば私のフィニッシュの高さを模倣せよ。難しくはない。ただ、真剣さが要る」
40歳過ぎた18名のフィニッシュ。下半身の強さ、見えないフィニッシュだった。
「右足を返すな。右足くるぶしで地面を押さえろ。右足を返し、右踵がクルッと返るスウィングは方向性を弱める。ゴルフは飛距離と方向だ。飛距離は上体の力と位置、方向は下半身の力。右踵を返すな」
この後、一人一人の右足の型を作った。
右足のくるぶしを左足踵に傾け、右足踵をクルッと回さぬ型にした。
「右足を返すな。右足踵を外に流すな。我慢しろ。この我慢がダブルボギーをボギーに、ボギーをパーにしてくれるんだ。返すな」
両のグリップのフィニッシュの高さは左耳位置に定めた。
7分で18名の指導を終えた。
「背中とお尻の筋肉が吊ってます。ふくらはぎも吊り始めました」
「心配するな。眠る前、風呂に入りゃ収まる。一人20秒の指導、然したる筋肉痛じゃない。今迄、使わなかった筋肉を使っただけだ」
席に戻り、そして別れた。
今日1月11日、窓の外は横に広がる薄雲。
飛行機が陸側から降りて来た。
そして飛び立つ機は海へ向って飛んで行く。
昨日も今日も北風、冬の風が吹いている。
福岡地震、我が家の部屋は何も彼もが横倒しになった。
冷蔵庫は50センチ動いた。
私に出来る事は何もない。
今日も練習場へ行くだけだ。そして1時間半で450球打つ。
北陸の方に申し訳ないとの気持ちは持つ。
令和6年になって11日。
現在時、午前10時51分。
我が身、何も変らず。
体調良好です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2024年1月30日号より
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