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【ゴルフ野性塾】Vol.1800「7つの納得、3つの不満が無理なき幸せ」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

週に一度、
大濠公園内の

スターバックスで飲むカフェラッテ、アイスからホットへ変った。
コーヒーに一本芯持つ人は暑い日でも寒い日でも温かいコーヒー飲むと聞くが、私は暑けりゃアイス、寒けりゃホットを飲んで来た。
好みは人それぞれでいい。
相手を必要とする恋愛や結婚はこの好み通りにならぬものだが、500円玉1コで飲めるコーヒーは人それぞれの好み、通用すると思う。
半袖ポロシャツにウールのセーター、肩に掛けて歩く日であればホットカフェラッテ飲む時期だ。

ミルクを入れるとコーヒーの香りが消えませんか? と問う者がいた。
野性塾大濠公園18人集の中の一人だった。

「香り? 気にした事ないな。ワインとか日本酒、ウイスキー飲む人は香り、そしてコーヒーの香りも大切にするらしいが、私は雑で不器用人間だ。酒も飲まない。そりゃ戴いた酒、封を開けて香り嗅ぐが一口だな、口の中に入れるのは。新潟朝日酒造の久保田萬寿は香り善し、歯応え善しの旨い酒と思うが、久保田萬寿だけだ、旨いと思って来たのは。
私は貧乏プロだった。プロテスト通ってすぐにツアー参戦したが、家でも試合中でも腹満ちればそれで充分幸せの食生活だった。夜の食事で酒飲める者は毎週の試合で賞金稼いでいた者だ。予選通るか落ちるかのゴルフに酒飲める機会はない。支援者も下手なゴルファーには近付いて来ない。
私が自分の金で豊かさ得たのは物書き始めた後だが、その時は酒飲まぬ習慣が身に付いていた。私は酒飲まず、煙草喫わず、車の免許持たずで過して来た者だ。飲むは日本茶かコーヒー、それもカフェラッテかカフェオーレ。イタリアにもフランスにも行ったが、レストランで飲むは炭酸水か水。貧乏なツアー生活で得た習慣だ。
私は道楽者じゃない。贅沢を目指して来た訳でもない。ゴルフは仕事、物書きは趣味と思って来たが、趣味で豊かな生活得て来た様な気はする。ただ、私の豊かさ、蓄財出来る豊かさじゃない。質素な生活、続ける事の出来る豊かさだ。それで充分と思う。
無いものねだりは疲れる。在るもので生きて行くが幸せ。それは父と母、そしてゴルフが教えてくれたものだ」

「ただ一つの言葉、例えばミカンとかリンゴ、梨とか秋の言葉でどこ迄、話を続けられるかは人生経験豊かでなきゃ出来ない事と教わった事があります。そうゆう人達多く住む国が住み易い国になるとも教わりました。坂田プロは香り一つで1時間でも2時間でも語り続けて行ける方だと思います。その経験、若い頃からの苦労が与えしものだったのでしょうか?」

「私は物心ついた時から辛いと思った事はない。苦労したとも思っていない。周りと比較した事もない。人は人、自分は自分、人それぞれの生き様否定せずに今日迄を過して来た者だ。お前さん達との週に一度のコーヒー飲む時間、不満一つでもあれば長続きはしなかったと思うぞ」

上達したければ道楽を一つ捨てよ。


納得すればいい話だ。
経験は納得先を見つけてくれる。
人の世、7つの納得、3つの不満持ち続ければ幸せだと思う。
多くの人は10の納得を求めるから無理が生じる。
無理はきしむ。
きしみはイヤな音、イヤな臭いを出す。
7つの納得で充分。
ゴルフ然り。
私に問う人は多い。
どうすれば上達出来ますか、と。

「1週間に1日150球、5日間の練習場通い、そして1度か2度のコースラウンド出来れば上達するのは簡単でしょう。加えて指導してくれる人に恵まれれば鬼に金棒です。でもサラリーマンにその機会はありません。まず、時間が取れない。練習出来る時間取れたとしても練習場が遠い。そして練習にもコースラウンドにもお金が掛かる。女房の理解も要ります。それでも上手くなりたい。その願望、ゴルフが好きになればなる程、強くなるばかりです。何かいい方法ありませんか?」

切実な相談だ。
微笑み、慰めて済ませる悩みじゃなかった。
私は相手の眼を見て言った。

「何か一つを捨てよ。煙草を喫うのなら煙草を、酒を飲むのなら酒を、女好きであるのなら女を、食い道楽であるのならその道楽を捨てろ。上達の道はそこから始まる。出来るか?」

出来ます、と答える者ばかりだった。
私に相談して来る者はそれなりの覚悟持っている者ばかりだと思う。

「分った。次にやるのは安いクラブは買うな。無理してでも高いクラブを買え。買い替えの経験あれば欲しいと思うクラブもあろうが、安物は駄目だ。安物にはクラブへの執着が生じぬ。安物買いの銭失いだ。駄目だったら次と思えば買ったクラブへの工夫心は生れぬ。クラブに合せたスウィング作りと己のスウィングに合せたクラブ使用と二通りあるが、クラブに合せたスウィング作りは上達する上での一里塚だ。工夫が要る。最低3年、使い続けてこそのクラブの買い替えだ。一度か二度使ってこのクラブでは駄目だじゃクラブが泣く。クラブを泣かせちゃいけない。泣くのは自分であればいい。
ジュニア塾生、115名がプロテストに通ったが、全員、塾から与えたクラブでゴルフを始めた。親の口出し手出しは無用。親のクラブ使う事も許さなかった。
練習場では6アイアンだけの練習に徹底し、他のクラブは使わせなかった。最初のコースラウンドは6アイアンとパターだけ。そして、筋力体力が向上し、スウィング軌道も安定し、試合成績向上すればシャフトだけを換えさせた。ただ、シャフト換える前に振りが速くなっていた為、2本3本のシャフトを折っていたが」

「気持ちですか? 上達第一の手段は」

「そうだ。物を大事にすれば物への愛着と愛情は生れる。粗末にすれば己の気持ち、粗悪になって行くものだ。塾生にはスパイクと運動靴、そしてクラブとボールだけはいつも綺麗にしておけと命じた。クラブの溝に泥一片でも付いておれば塾生全員、10日間の練習禁止だった。そして私に相談して来た者への第二のアドバイスだ」

18人の首筋、少し伸びたと感じた。彼等も同じ悩み抱えるゴルファーであったと思う。
ホットカフェラッテは冷たくなっていた。
一口飲んだ。
やっぱり熱いラッテの方が美味しかった。
その時、夕焼け訪れるにはまだ早い時間だった。

本稿、9月28日、赤坂けやき通りの15階にて書いております。
入道雲そっくりの大きな雲、浮んでいる。
午前9時55分。
今日は暑いのか。
それでは来週。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年10月17日号より

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