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【ゴルフ野性塾】Vol.1790「理想のトップには、型の作り方がある」

KEYWORD 坂田信弘

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

女房と
天神新天町に

行った。
私の住む赤坂けやき通りのマンションには祝い事、世話好きな女性多く、七夕の日には住む子供と親、マンション周辺の子供集いての七夕祭りが行われて来た。
女房もその一員であり、参加する子供達に食べて貰うお菓子の買出しが女房の担当であり、暇な私は女房に付き合った。

新天町商店街に入ったが、人の多さに驚いた。
コロナ前よりも多い新天町を歩く人だった。
若い人7割、中年2割、爺チャン婆チャン1割だったか。
前から横5人で歩く女性が近付いて来た。
私から見て左端の女性、美しかった。
私は一度、苦い想いを新天町の地下街で経験している。
10年前、女房、長男雅樹と3人で歩いた。
雅樹35歳。私、65歳。女房の年齢は書かぬ。
横並びで歩いていた時、左端を歩く雅樹が言った。
「お父さん、前から来る女性、美しいぜ。福岡にもいるんだ、清楚美人がッ」
右端を歩く私は気付いていた、雅樹よりも早くだ。
女房殿は真中を歩く。
ここでその女性を見たら女房に何を言われるか分ったもんじゃない。
私は自衛隊で教わった観閲歩行に入った。ただひたすらに前を見つめて歩いた。
美しき人は私達の右側を歩いていた。
この時、つまずいた。
新天町地下街は石畳風の床だった。石畳風の切れ込みに靴の爪先が引っ掛かった。
前へつんのめりになった体勢を立て直した。
それでも眼線は前方から外さなかった。
女性とスレ違った。
私の観閲行進は続いた。
女房殿の静かな声だった。
「無理しなくていいわよ。でも私がいるのに失礼と思わない? 私のいない時、雅樹と二人で歩いたらいいでしょ」
「無理なんかしてない。何を怒ってるんだ」
瞬間ではあったけどしっかり見てました、スレ違った女性の頭のテッペンから爪先迄。
「本当にその癖、直らないんだから。女性に失礼ですよ」
雅樹は笑った。
「いつも厳しなァ。ここ迄、チェックされると地下街歩くのも一苦労だネ」
我が子には寛大、亭主には厳しい女房殿であった。
雅樹、高校生の時と記憶する。

周防灘研修生の柳田博が雅樹にエロ本をくれた。
自動販売機で買った一冊100円のザラ紙エロ本。
雅樹はそのエロ本を自分の部屋の引き出しの中に隠した。
女房が見つけた。
女房は柳田を雇用促進住宅に呼んだ。
「もっと美しい人の写真を見なさい」と言って、お金を渡した。
柳田は中津の本屋さんで一冊の本を買った。
その本は柳田の愛読書となり、雅樹の手許には来なかった。
私は週刊ポストと週刊現代に長期連載したが、我が家に送られている筈の2冊の週刊誌、一度も見た事はない。
女性の裸が載っていない週刊朝日だけがテーブルの上に置いてあった。
「娘がいるのに女性の裸写真は駄目でしょ」
週刊ポストと週刊現代は亭主のエロ好きに寛大な女性の家に直行だった。
私が書いている原稿を自宅で見る事はなかった。
そして10年過ぎて新天町商店街だ。
私は10年前を忘れていた。

5メートル前方の左端の女性を見た。韓国からの旅行者じゃないかと思った。
スタイル好し、気品ありの女性だった。年齢は25歳前後か。
私は自衛隊の観閲歩きに移った。
女房殿の穏やかな声だった。
「また悪い癖出ましたネ。癖って幾つになっても直らないのかしら。ゴルファーのスウィング悪癖直すのは上手いのに自分の癖、直すのはいつになっても苦手なプロゴルファー、それは坂田先生」
クソッ、イヤ味な女だ。

「それでどうなったのですか?」
「観閲歩きを続けたよ。私は新天町は苦手だ。これから先、福岡ナンバー1の商店街、新天町を歩く時は一人で歩く。しかし、美人が増えたなァ。マスク外す人は多くなったが美人ばかりじゃないか」
「行きませんか、天神に。西鉄グランドホテル横の小学校跡地にリッツカールトンホテルが開業したのは御存知と思いますが、アフタヌーンティーでも飲みに行かれませんか。お付き合い出来ますが」
「私一人か?」
「奥様同伴がいいのでは。我々の女房も行きたがっておりましたので、よろしければ御一緒に」
「招待してくれるのか。予約出来るのか?」
「勿論です」
「まさか6カ月先なんて話じゃないだろうな」
「1週間の猶予あれば、席は取れます」

打ち方と説教は3分でいい。

「お前さん、ホテルの関係者なのか?」
「それに近い者です。坂田プロは相手の職責や役職に興味持たれぬ方と聞いておりますので、我々の名刺、お渡ししておりませんが、必要でしたらお渡し出来ますが」
「要らん。名も知らずがいい。名を聞いても覚えるの苦手で、名刺は必要なしだ。アフタヌーンティーって3段か4段の受け皿にケーキやサンドイッチ乗ってるやつだろ? そのケーキって甘いのか?」
「御希望通りの手配は出来ると思います」
「お前、権力者か?」
「違います。ただ年に応じた役職は戴いておりますが」
「謙虚だな。よし、コーヒー飲みに行こう。ただ、全員とゆう訳には行くまい。誰が行く?」
「席の確保次第と思います。後は私にお任せ下さい」
「今、礼をする。理想のトップスウィングの型作りを教えよう」
「有難いです。初めてのレッスンです」
「待ってたのか?」
「待ってなかったと申せば嘘になります。しかし、こうも早く教えて戴けるとは思ってもみませんでした」
「私はレッスン下手だ。私の持論、打ち方と説教とレッスンは3分。3分超える説教とレッスンは役立たずだ。3分以上の説教は耳を通り抜けるし、打ち方を幾つも教わったって身に付くもんじゃない。よし、これで女房殿の機嫌回復出来るな。お前はいい奴だ。それでは今から教える。クラブを必要としない理想のトップの作り方だ」

この日、絶好調でした。
以下、次週稿。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2023年8月1日号より