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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.771「状況によってターゲットが狭く見えたり遠く見えたり…実はプロでもよくあることなんです」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

前回のお話はこちら


調子がいい日でもなぜかターゲットが狭く見えます。景色が広々していないと感じることがあります。本来、調子が良いなら広く見えるはずなのに、自分でも整理がつきません。年齢のせいでしょうか?(匿名希望・48歳)


フェアウェイが広く見えたり狭く感じたり……これ実はプロでも日常的に遭遇する不思議な現象の一つです。

よく似た現象は、目標までの距離が近く見えたり遠く感じたりすることでも起こります。

もちろん、これらは眼の錯覚です。

では、何がこの錯覚をもたらしているのか。

それは、そのときの心理状態と考えられます。

ただし必ずしもピンチになり不安に駆られた心理によって、目標エリアが狭くなったり、おぼろげになったりしているわけではないのです。

あなたが言うように、自分の調子そのものは悪くないのに、なぜか狙う場所が狭く見えるという反対のケースもあるからです。

体調も良く気分も乗っている──だから目標が近く、そのエリアも広く見えるので不安を感じない、というのが普通の心理現象だと思われます。

使用するクラブが短ければ短いほど、ショットはやさしくなります。

ターゲットが近くなるほど、自分の与えられている条件が恵まれていると感じるのは当然です。

実はこの心の余裕が目標を近く、広く見えさせる、というメカニズムなのです。


つまり、容易に制御できそうな状況で、これから行うショットの結果が上手くいくに違いないと、高をくくっているわけです。

やさしいショットなので、それほど悪い結果にはならないケースも多いでしょう。

ですが、油断した時にこそ思わぬしっぺ返しに遭うのもゴルフです。

プロの場合も、同じ現象に見舞われることがあります。

今日は何だかピンフラッグが遠くに見える、フェアウェイの幅が狭まったように感じる、ということはたまにあります。

ただ、プロは見た目の距離感だけでなく実測の距離でショットを組み立てています。

その日の目標物の見え方ではなく、実際に歩測や計測した距離を基にクラブ選択をするので、この現象が大きなミスにつながるということは少ないと思います。

それでも警戒すべきは、ターゲットまでの実際の距離は頭では分かっているのに、見た目の距離が打つ瞬間、身体に影響を与えて手加減したり、インパクトを普段より強くしたりすることです。

妙に近く見えてもピンまでしっかり140ヤードはある、とわかっているつもりなのに、打つ瞬間にフッと緩んでしまいショートしてしまう……。

頭では理解していても、いざボールを打つ段になると体が勝手に反応して手加減をしてしまう。

体調や心理状態、筋肉や神経の反射運動といった人体メカニズムが絡み合った問題なのかもしれません。

人間が自分の体の動きをいかにコントロールできるか、ゴルフはまさにメンタルなスポーツということでしょうか。

わたしの場合、調子がいいからコースが広く見えるということはなかったですね。

集中しているとむしろ、狭いターゲットが周囲から画然と浮き上がってピンポイントに見える気がしました。

一方、調子が良くないはずなのにピンの位置を近く感じたり、フェアウェイが広く見える場合もあります。

これは、どう考えればいいのか。

人間の五感は物理的な負荷や圧迫によってより大きな影響を受けています。

自分では気づかないうちに、体温の変化や長距離ドライブ、睡眠不足などが想像以上に響いているとも考えられます。

特に長距離移動による体調の変化は、自分で感知できません。

長いフライトの後にラウンドする場合やロングドライブ、それも遅刻しないように急いでゴルフ場に到着した直後のプレーでは浮足立っており、まったくスコアにならない。

近く見える、広く感じるどころか、自分とボールの間の距離感さえもおかしくなっていることがあります。

狭く見えたり遠く感じられたりするからといって、悩む必要はないと思います。

その現象は人によってさまざまに起こるでしょうし、そういう経験に出合うことのほうが自然です。

同じコースの同じホール、同じ場所で、残り距離をどう感じたかを意識して記録しておけば、この現象の対処法を研究できるかもしれませんね。

岡本綾子

「人間って人間の想像が及ばないほど繊細で神秘的な感性感覚を持ち合わせているのです」(photo by AYAKO OKAMOTO)

週刊ゴルフダイジェスト2023年7月4日号より

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