【スコアに効くメンタル術】「今日こそは…」がいつも空回り! 本番に強くなる“心構え”とは?<心の準備編>
スウィングなど技術を磨くことも大事だが、本番のラウンドで練習通りの力を発揮するためには、メンタル面も非常に重要になってくる。そこで今回は、3人のメンタルコーチにアベレージゴルファーの様々な疑問に答えてもらった。
ILLUST/Masulira PHOTO/Yasuo Masuda、Takanori Miki
桐林宏光
JLPGAティーチングプロA級・ジュニアゴルフコーチ。心理面と技術面を融合し延べ1万人をレッスンしてきた。19年「JLPGAアワード ティーチャー・オブ・ザ・イヤー清元登子賞」受賞
赤野公昭
メンタルコーチ。日本古来の「禅」と欧米の最新理論を融合させた独自のメソッドで、プロゴルファーやプロ野球選手などを指導する
阿部久美子
メンタルトレーナー。IMTメンタルオフィス代表。ICF国際コーチ連盟米国本部メンバーとして数多くの男女プロ選手や日本代表選手を担当。アマチュアに向けた”メントレ“も行っている
●CONTENTS●
#1 プレッシャー克服編
#2 気持ちの切り替え編
#3 心の準備編
Q8. ベストスコアを更新できるかも!
上がり3ホールの心構えは?
【桐林’s advice】
スコアを数えるなと言っても難しい。やはり、ホールごとの目標を立てて、都度新鮮な気持ちでプレーすることです。また、上がり3ホールになると誰でも体が疲れていると同時にメンタルバッテリーも目減りしている。それまで調子がいいからという過信や安心が思わぬミスにつながる。作戦をきちんと立てることです。360Yパー4で目標がボギーなら、セカンドで残り200Yでも、100Yを2回打てば3オンすると考えると、そんなに飛ばす必要はないと気がラクになる。そういう冷静な考え方をすることです。
【赤野‘s advice】
人の心には煩悩・苦しみのもとになる「三毒」、貧(とん)・瞋(じん)・痴(ち)があると言われています。これは自分の好きなものを貪り求める欲、嫌なものを憎んで嫌悪する怒り、何かにとらわれて妄想すること。上がり3ホールで煩悩をどう断ち切るか。そのため3つの「ない」を唱えましょう。「貪っていない、怒っていない、妄想していない」。飛ばそう、バーディを取ろう、と思考にとらわれていたら唱えられません。
「欲・煩悩を断ち切る」
「意味なく唱える感じで、1打ごとでもずっと言い続けてOK。『貪らない』ではなく『貪っていない』に。自分を入れずに、現在の状態を唱えることです」(赤野)
【阿部‘s advice】
これは心技体、コースマネジメントなど、それまでの流れ、リズム、すべてがかみ合っている状況です。このようなときこそ、結果に意識が行きがち。大切なことは結果に対する「欲のコントロール」です。ここまでのプロセスにフォーカスすることで、結果に対する欲のコントロールができる。結果への意識が外れる。メンタルのフォーカス視点を変えていくことが大切です。
Q9. ラウンド前日やスタート前
オススメの過ごし方は?
【桐林‘s advice】
深酒をしない(笑)。知っているコースならイメージトレーニングで戦略を自分なりに立てるのは有効です。知らないコースでもドローン映像やコース図を見るといい。時間がなければ、自分がティーイングエリアに立って打つ姿をイメージする。外的イメージと内的イメージを持つことです。前者は、自分のスウィング動画をコーチのように見ること。後者は、テークバックしたときの体のひねりや筋感覚、打感を感じること。こういう臨場感は大切です。当日の朝はクラブハウスの動線を知ることも大事。トイレの場所を探すだけで焦って、そのままティーショットすることになりかねない。時間的な余裕をもって到着して準備したいですね。
【赤野‘s advice】
ムキにならないこと。朝の練習でも7割の力、7割の心で行う。打ちすぎない、いいスウィングをしようとしないことです。朝調子が悪くても本番でいいことがあるのは力みが抜けるから。練習では、1球ずつ別の場所に打つほうがいい。同じ場所にきっちり打とうとすると結果を求めてしまいムキになっていく。前日もそういう感じがいいです。やりすぎると体が疲れますしね。
「練習は7割の力、7割の心」
「打つ場所も目標もランダムがいい。いい球を打つより、体がいろんなバリエーションで動くことをただ感じる。それが心も体もほぐすということです」(赤野)
【阿部‘s advice】
ゴルフは長時間のスポーツ。ずっと集中力を保つことは難しい。短い時間の集中力が何回も続くことが理想です。集中力のため必要なことはアルファ波と右脳優位、自律神経のバランスです。ラウンド前日から好きなこと、楽しいことを行い、アルファ波を出し右脳を活性化していくといい。また、十分な睡眠を取り、副交感神経を高める。当日は早めに起き、時間に余裕を持って準備を。時間の余裕が心の余裕につながります。服を着る、歯を磨く、靴を履く……何か1つでもゆっくりすることを心がけてみると副交感神経が上がり、自律神経のバランスが整います。呼吸も深くなります。呼吸の深さがメンタルの落ち着きにつながり、スタートのパフォーマンスも高くなります。時間に余裕なく、慌てた状態、気持ちでスタートしたときは、交感神経が高く緊張しやすくなります。
Q10. 苦手な人とのラウンド
どんなことを心がければいい?
【桐林‘s advice】
相手の行動を予測して、予測が当たったら1ポイントと、ポイントを貯めていく。「きっと次はこういうことを言ったりやってくるな」「当たった!」と楽しむんです。すると自分が優位になれます。シナリオを書く監督のようになることです。
【赤野‘s advice】
過敏になっているんです。対人というのは特に過敏になりがち。ゴルフは自分との闘いと言いますが、同伴競技者や人に見られることに影響されたりもしますよね。これが続くと苦手な人だけではなく、ライなども異常に気になってきたりする。対症療法的な解決策は、レーズンやチョコレートを食べること。ストレスを感じると口の中が渇く。交感神経がバランスを崩している。眠れないときと同じです。副交感神経を刺激するために唾液が出るのはいい。最初は匂いを嗅いで、口の中に入れ舌の上で感じて、ゆっくり飲み込んで余韻を感じる。そうすると過敏な状態は少しずつゆるんでいきます。
【阿部‘s advice】
苦手意識を強くしないこと。その日のゴルフが楽しくなりません。解決策は苦手というフレームを外し、ただ一人の同伴プレーヤーがいる、シンプルな存在として認識すること。また、苦手な人がする言動、行動をすべて想定内に設定する。いつものことだと平静な気持ちでいられます。
「苦手な人の言動は想定内」
「いい呼吸をしようとすると力みにつながりますから気をつけて。一呼吸ずつ深さも長さも違うので、『今日は呼吸が浅いなあ』などと、ただただ感じるんです」(阿部)
Q11. メンタルを鍛えるために
日常生活でできることはある?
【桐林‘s advice】
ネガティブな言動と思いをプラスに置き換えるトレーニングをする。仕事や生活のなかで常にやれば、必ずできるようになります。認知行動療法です。今自分が何%ネガティブに考えているかを認識して、それをプラスに変換する言葉を言うんです。こうしていると自分の感情をコントロールできるようにもなる。普段から行っていれば、ラウンド中も瞬時にできるようになります。
【赤野‘s advice】
今、ここにいる自分を感じる。今、体や心に起こっていることを感じてあるがままを受け入れる。この「マインドフルネス」の状態を普段からつくるようにします。一番は、ただ自分の呼吸を感じること。思考ばかりすると息が止まっていることもあるんですよ。通勤電車に乗っているときなどにも意識してみれば、少しずつ変われるはずです。
【阿部‘s advice】
イメージトレーニングを日々行うことで、右脳が活性化していきます。米国の研究で、ゴルファーが右脳優位でプレーできたとき、高いパフォーマンスが生まれることが実証されています。そして、リアルにイメージができると、そのイメージが潜在意識に入り実現にもつながり、実際のラウンドでもイメージが出やすくなる。集中力の向上は、前頭葉の活性化です。前頭葉はイメージ、思考、感情のコントロール、決断、計画を行い、右脳、左脳で機能は違いますが、ゴルフをプレーするうえで大切な機能を担当しています。前頭葉の活性化には、週に3回以上、15~30分の有酸素運動をすること(スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究結果)。散歩や軽いジョギングから実施してみてください。
週刊ゴルフダイジェスト2022年5月24日号より