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リディア・コー復活の陰にこの人あり。米LPGAで話題の韓国人クラフトマンを直撃!

欧州ツアー、アジアツアーなどで活躍し現在はレポーターとして人気のREX倉本が、アメリカの気になるゴルフの話題をレポート。今回は、リディア・コーの復活を支えた、噂のクラフトマンを直撃!

TEXT/Mika Kawano PHOTO/Blue Sky Photos、KJR

リディアは今季2戦目のゲインブリッジLPGAで優勝。昨年4月以来の勝利で、現在の世界ランキングは3位。ドライバーはタイトリストの「TSi3」を使用中

「プロでもクラブ選びで損を
している選手はとても多いんです」

最近、リディア・コーが熱い。

17歳で世界1位に上り詰めた天才少女は、20歳を過ぎて低迷。2年前には同ランク50位台まで落ち込んだが、ここ数年復調の兆し。今年1月ゲインズブリッジで優勝し、世界3位までV字回復した。その試合でまだ欧米では知名度が低い日本の新興ブランド、『プロトコンセプト』のアイアンを使用し話題に。

そんな彼女の復活を陰で支えたのがフロリダでカスタムフィッティングショップを営むクラフトマン、マイク・キム氏だ。

コーが彼の元を訪れたのは4年前。当時PXGと契約していたが、「同じ番手で距離が10ヤード変わることがある」ことに悩んでいた。「フェアウェイからもフライヤーしていた。ドライバーは飛ばすクラブだからさほど問題ではありませんが、アイアンは精密に距離をコントロールしなければならないクラブ。実際に彼女のプレーを見て、ミスの傾向をチェック。スピン量や打ち出し角などのデータを分析し、本人に合うものを選んでいる過程でプロトコンセプトが浮上しました」とキム氏。

イラン生まれの韓国人。ミニツアーを転戦後、現在はフロリダのオーランドでクラフトマンとして活躍


今年、用具契約の足かせが外れたコーは、キム氏の見立てで大胆なクラブチェンジに踏み切った。

「クラブの肝はなんといってもシャフト。シャフトによってスピン量が変わります。彼女はアマチュア時代、グラファイトのシャフトを挿していて、それが合っていたからあれだけの実績が出せた。その後低迷したのはシャフト選びが間違っていたからです」

PXG時代のシャフトはKBS。彼女には圧倒的にスピン量が足りなかった。そこでUSTマミヤのリコイルに替えてスピン量を上げ、距離のバラつきなくした。

現在使用しているプロトコンセプトのアイアンは、5番&6番がC-07、7番以下がC-05のコンボセット。

「彼女の場合は、5番と6番のライ角を0.5度アップライトにして7番と同じライ角にするユニークなセッティング。長いクラブはトウダウンしやすいのでライ角を注視しなければなりません。本人から5番、6番が右に飛ぶという話を聞いて、つかまりやすいように調整しました」

スウィング改造やトレーニングでヘッドスピードが上がれば、シャフトは硬くする。優勝した試合でも最終日の18番でティーショットを引っかけた。本人はスウィングのせいだと言ったが、キム氏はクラブの問題だと見抜きドライバーもシャフトチェンジを提案した。

「クラブで損をしているのは、日本の有名女子プロでもいる」とキム氏。「例えばリディアと技量は遜色ないのに、スピン量が多すぎてボールの初速が遅い選手を知っています。結果20ヤードの飛距離の差が生まれる。本人に合ったシャフトに替えれば解決できるのにもったいない」

ツアーの現場には各メーカーの担当者がおり、選手の要望で調整を行なっているが、リクエストに応じるので精一杯。一方、選手、時にはコーチでさえ把握していないスウィングとクラブの相性を見極め、提案するキム氏のフィッティングを受けたプロたちが、続々と結果を出している。

「実際に試合会場に足を運び、その選手のミスの傾向を知ることが大事」という話題のクラブフィッターはどんな人生を歩んできたのか?

韓国人だが生まれはイラン。7歳で韓国に戻ったが、その後、サウジアラビアに移り住みそこでゴルフを始めた。

「砂漠でゴルフを覚えました。芝生がないので人工芝の小さなマットを持ち歩いてその上から球を打ち、次のショットもまたマットを敷いて打つ(笑)」

高校は豪州のインターナショナルスクール。2年後輩にアダム・スコットがいて一緒にゴルフチームで腕を磨いた。ちなみにジェイソン・デイも同窓。23年前に渡米、ミニツアーを転戦した。

「サウジにいた頃から自分でクラブを組んでいました。自己流で自分が欲しいと思うクラブに仕上げた。ミニツアー時代は1本10万円もするクラブは買えなかったのが自作の理由。同僚にも作りました」

プロとしてはひのき舞台に立てなかったが、11年前に転機が訪れる。クラフトマンとしての腕を見込まれフィッターのオファーを受けたのだ。現在はショップを譲り受け、オーナーでもある。

LPGAや下部ツアーの選手たちに相談を持ち込まれれば手助けをするが、プロだけでなくアマチュアやビギナーのフィッティングも手がける。

「すべてのゴルファーにフィッティングはマストです。いくら高いクラブを買っても合わなかったら意味がない。20ドルのシャフトでも2000ドルのシャフトでも要は自分に合うかどうか。プロでも勘違いはある。ライ角が合わなければ球は絶対真っすぐ飛んでくれません。クラブはスーツと同じ。自分に合わせてカスタマイズすることが上達の近道です」

選手のスウィングを見て、ミスの傾向を考え、クラブを選ぶ。基本的なことだが、その点にLPGAの選手が信頼を置いているのは間違いないだろう。

週刊ゴルフダイジェスト2022年5月24日号より