【笑顔のレシピ】Vol.121「成長には山だけでなく“谷”もあります」
メジャーチャンプ・渋野日向子を育てた青木翔が“コーチング”のこだわりを語る連載「笑顔のレシピ」。ゴルフだけでなく、仕事や育児などでも役立つヒントが満載!
TEXT/SHOTANOW PHOTO/Tadashi Anezaki
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僕が取り組んでいるジュニアの指導というのは、数年に及ぶ長期的なものです。以前はできなかったことが、選手自身の力で少しずつできるようになっていくという成長の過程を見られることが最大の喜び。
成長というと、大半の人は右肩上がりの直線的なラインだと思っていますが、そうではありません。上がったり下がったりを繰り返しながら、徐々にその山や谷のポイントが高い位置に推移していく。これが人間の成長です。
つまり、グンと伸びて成長した後に必ず谷がやってきます。この谷に陥る要因はいくつかありますが、典型的なのがサボリ癖です。できなかったことができるようになると、それまで必死に練習していたことにどうしても全力で取り組めなくなる。6割くらい打ったところで「けっこういい感じだな。今日はこんなもんでいいか」となってしまうのです。
これは高い意識を持った選手でも例外ではなく、成長の副作用のようなものだと思っています。だから僕はステップアップをしたなと感じたら、谷が深くならないように普段より注意深く練習を見守るようにしています。「今はたまたまできるようになっているだけ」とか「前みたいに全力で取り組めているか?」と気づかせてあげる。
ほとんどのサボリ癖には悪気はないので、本人が気づくことができれば、また次の山を登るように全力で取り組んでいきます。
そんなことを繰り返しているうちに本人もだんだんとわかってきて、どんなときも常に全力で取り組めるようになる選手も出てきます。ここまで自立するとグングンと伸びていき踊り場が少なくなっていく。これはコーチの役割がほとんどなくなる理想の状態と言えるでしょう。
そううまくいくものではありませんが、ケアすべきポイントを心得ていれば、谷を浅く短期間に収めることができるようになります。気をつけるべきは失敗ではなく、成功の後なのです。
青木翔
あおきしょう。1983年生まれ。福岡県出身。渋野日向子をメジャーチャンプに導き、三ヶ島かななどツアープロや、全国トップレベルのジュニアゴルファーの育成に努めている
週刊ゴルフダイジェスト2022年4月26日号より