【松山のアプローチ研究】<後編>「最上級のダルマ落とし」フワッと上がる球の秘密
世界屈指の技術を持つ松山英樹のアプローチ。その凄さの秘密について、内藤雄士コーチに詳しく解説してもらった。
TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Blue Sky Photos、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara THANKS/ハイランドセンター
解説/内藤雄士
丸山茂樹の米ツアー3勝をはじめ、数多くの優勝をサポートしてきたプロコーチの第一人者。現在は若手の大西魁斗のコーチも務める
>>金谷拓実も驚いた
松山英樹のアプローチ研究<前編>はこちら
日本でいうダルマ落としの感覚
松山は、2017年の時点で、「(アメリカの芝では)最下点でボールだけを拾わなきゃいけない」と、内藤コーチに漏らしていたという。日本の芝は、ボールの下にウェッジの刃が潜り込むスペースがあるのだが、アメリカだとそれがない。あっても硬い根が張っているので、ロフトを立てて刃から入れると、大体が「刺さって」しまい、まず寄らない。
「今の松山選手は、ヘッドを『平らに』入れて、60度のウェッジなら60度のままか、少し開いて当てています。これだと、感覚的には下を抜けたみたいになって、『つかまった感』がないけど、実はフワッと上がって、硬いグリーンでも止められる。日本で『ダルマ落とし』だ、『ポッコン』だと嫌われる感覚に対して、『それでいいんだ』と思えるまで練習しないといけなくて、それをずっと続けてきたことが彼のいちばんスゴイところです」(内藤)
アメリカと日本では求められる技術が異なる
アメリカ | 日本 | |
芝の種類 | バミューダ、ポアナ、キクユなど | 高麗芝、野芝など |
芝の特徴 | 硬い、沈みやすい、刺さりやすい | 硬すぎない、浮きやすい |
打ち方 | 最下点でボールをとらえる | ハンドファースト |
球質 | フワッと上げる | 低く出してスピンで止める |
アメリカ的アプローチ
ロフトなりに球をとらえる
シャフトを垂直にして、最下点でボールをとらえると「クラブのロフト=インパクトロフト」になり、常に一定の打ち出し条件を得られる。そうすることで、距離感に集中できる
日本的アプローチ
ハンドファーストで鋭角に入れる
ハンドファーストに打つと、60度のウェッジでも最大50度程度までロフトが立つ。出球が強く、数バウンドして球の勢いが弱まってからスピンが利く
肩も腰もスクエア
つま先だけオープン
アプローチは「オープンスタンス」と、決めてかかっている人も多いはずだ。だが、松山のアプローチを見れば、世界の主流は「肩も腰も真っすぐ(スクエア)」だということがわかる。なぜ、この打ち方なのか。
内藤コーチによると、「胸の前にセットしたボールに対して、体の回転でインサイドインに振っていくから、最下点でボールがとらえられるということです。松山選手は左足のつま先だけ少し開いていますが、肩のラインはターゲットラインと平行。インパクトで若干、ベルトのバックル、胸の面がターゲットを向くので、本人としては『左に振っている』感覚はあると思います」とのこと。
この打ち方は、インパクトロフトがほぼ一定になる、というのが最大のメリット。オープンスタンスでカットにボールを打とうとすると、少しの加減でロフトが大きく変わり、それが距離感を悪くしてしまうのだ。
松山流アプローチ1
つま先だけ開いて構える
松山のスタンスは、左足を引いてオープンにするのではなく、スクエアに立ったところから左つま先だけを開いて構えている。これだけでフォローの抜けがよくなる
松山流アプローチ2
インパクトで左肩が上がらない
オープンスタンスでカットに振ると、インパクトで左肩が持ち上がるが、松山にはそれが一切ない。スクエアに構え、真っすぐな軸で水平回転するからだ
Point 3
フェースが上を向いたまま振り抜く
日本で主流の打ち方は、インパクト後にロフトを立ててボールをつかまえていくが、松山はまったくロフトを立てない。クラブのロフト通りに当て、そのままの角度で抜いていく
松山英樹のアプローチスウィング
週刊ゴルフダイジェスト2022年3月1日号より