【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.59「マニュアルよりもリズム」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO / Tsukasa Kobayashi
僕の音楽仲間、高松厚は面白い男です。何しろプロゴルファーになる前に結婚して、子供もつくっています。
僕なんか女房とつきおうていたころは、「プロテストに合格したら結婚しよう」と言っておったものです。これはほとんどのプロゴルファーにとって普通のことやないかと思います。
ところが高松は「そういうこと(結婚)になったら、稼がなきゃならないですよね」とプロゴルファーになったと言うんです。
元々はプロのジャズミュージシャンだったという経歴も変わっています。何千人もおるプロゴルファーでジャズミュージシャンだった人間なんて高松ひとりですよ。それだけでも面白い男です。
僕がギターを習い始めて、やっとまともに弾けるようになったのは高松のおかげやったのです。
ギターを習い始めたころ、先生はとにかく楽譜どおりに弾かせようとする。左手で弦を押さえて、右手でリズムを刻むのですけど、なかなか左手が上手くいきません。そんな愚痴を高松に漏らすと、「左手なんてどうでもいいんですよ。右手さえちゃんとリズムを刻んでいれば」と言うのです。
これで僕のギターは飛躍的に楽になりました。左手のコードはCでもC7でもリズムさえ合っていればどうでもええとアドバイスされたんです。
音楽もゴルフでも何でもマニュアルがあります。音楽やったらコードとか何拍子とかですね。ゴルフやったらグリップから始まって上げ方、下ろし方、ルーティンとかです。
高松に言わせると「ゴルフも音楽も共通するのはリズムです」となる。つまり高松にとって最も大切なものはマニュアルやのうてリズムとなるのです。
リズムさえ合っていれば「奥田さんの好きなようにやっていいですよ」と言われて僕のギターはお客さんの前でも弾けるようになりました。
ゴルフも何から何までマニュアル本どおりやろうとしたら、もう動けません。素振りを2回して、ボールの後ろから目標を確認して、アドレスに入ったら1回深呼吸をしてとか、こんなルーティンは、風がブンブンのときや雨がジャアジャアのときなんかにやっておられへんです。
アマチュアの皆さんもマニュアル本を“ほかし”たら、楽しいゴルフができるのと違いますか。
リズムさえ合おうとればええ
「マニュアル本から外れても、ゴルフに問題ないということです」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年12月7日号より