【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.52 「手嶋くん、シニアオープン優勝おめでとう」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO /Hiroshi Yatabe
日本シニアオープンの手嶋(多一)くんは見事でした。何回か前のこの連載で手嶋くんはショットもパットも迷いがなくてスキッとしたゴルフをしておると書きましたけど、2位に8打差の19アンダーで優勝は、スキッとしすぎです。
僕もシニアオープンには出ておりましたけど、アンジュレーションがぎょうさんあるグリーンには手を焼いておりました。それを手嶋くんは、ラインを読み切ったのもあるでしょうけど、外れたら2メートルもオーバーしそうな強気なタッチで攻め切ったんやろうな。
だいたい、パットのタッチというものは、歳がいくにつれて、3パット、4パットの怖さを覚えてしまうから、だんだんとジャストタッチになるものです。それをシニアになっても強気で続けられるというのはたいしたものです。
レギュラーでは日本オープンと日本プロを含む通算8勝を挙げている手嶋くんですけど、その初優勝は、僕がプレゼントしたのも同然の優勝やったのです。
99年のファンケル沖縄オープンのことです。最終日のバック9に入って3連続バーディで僕が14アンダーの単独首位に立っていました。1組前の手嶋くんは17番を終えて12アンダー。もう手嶋くんも優勝をあきらめていたという話を聞きました。
ところが17番パー3で僕は8メートルを3パット。そのとき手嶋くんは18番パー4でバーディだったんです。バーディ、ボギーで並ばれてしまって、プレーオフですわ。その1ホール目で手嶋くんが3メートルを入れてバーディ。僕は1.5メートルを外してしもうたんです。なんや僕の一人相撲で手嶋くんに初優勝をプレゼントした気分やったですね。
それにしても、手嶋くんという男は、ドロー一辺倒、パットは強めというように、自分のプレースタイルを若いころから徹底的に貫いております。それも強さの秘訣のような気がします。
ドロー一辺倒といっても、最近の手嶋くんのドローは、曲がり幅が少なくなって、ストレートに近くなったし、球も以前より高くて飛距離も出ていました。
むかしはピッチングで15ヤードぐらい曲がるドローやったのです。手嶋くんが打つと、一瞬「あれ? 風は右からかな?」と思ってしまうほどでした。
日本オープン(01年)で勝った男が日本シニアオープンにも勝った。ほんまにおめでとうと言いたいです。
自分のプレースタイルを貫けるのも強さの秘訣
「若いころからドロー一辺倒、パットは強め。でも、ドローも進化しておるのがいいですわ」(奥田)
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年10月19日号より
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