【インタビュー】小林浩美「JLPGAの目指すところは米PGAツアーです」
週刊ゴルフダイジェスト
2019年に渋野日向子がAIG全英女子オープンで優勝して以降、米ツアーでの日本人選手の活躍が目覚ましい。この快進撃の背景には日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が2012年から取り組んできた「ツアー強化」策がある。それを推し進めてきたのは、2011年に会長に就任し、自身も米ツアーで13年間戦った経験を持つ小林浩美会長だった。
PHOTO/Osamu Hoshikawa、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa

――2025シーズンは米ツアーで日本勢がメジャー2勝を含む7勝を挙げました。そして現在、ロレックスランキングのトップ100に日本人選手が18名も入っています。
初めに、このような素晴らしい賞をいただけるとは、想像もしていなかったので、正直驚きました。また、「ツアー強化」策はJLPGA全体で取り組んできたことですが、そもそも選手の目標の高さとたゆまぬ努力、そして、各大会スポンサー様などのご理解とご支援があって実現することができました。したがって、皆様を代表して頂戴させていただきたく存じます。ファンの皆様はじめたくさんの方々に心より感謝申し上げます。
さて、今年の米ツアー参戦者ですが、「13人も行くんだ」と、とても驚きました(笑)。JLPGAの「ツアー強化策」は、「世界で勝つ」が大きな目的ですし、選手みんなの目標が高く、協会としても大きく後押ししています。また、海外で活躍する選手が増えれば、それは日本ツアーの強さの証明でもあります。
――具体的にはどのように?
2022年に賞金ランキング制からポイント制へ移行したのもそのひとつ。トップ選手ほど海外メジャーの出場機会が増え、賞金だと日本との格差が激しい。そこでメルセデス・ランキングに一本化するときに、海外メジャーの成績もポイントとして反映させました。そうすることで、年間通した選手の力を、より反映することができます。実は2012年から「世界で勝てる選手を作る」ことを目標にツアーを強化してきました。
まずはステップ・アップ・ツアー(以下ステップ)。1991年にスタートしましたが2日間競技でテレビ放映はなく、ギャラリーもなし。それを2012年からCS放送スカイAで予選から決勝日まで各日6時間の生放送をしていただきました。すると、認知度が全国に広がって、試合数も2012年の5試合から2025年は22試合に増えました。さらに2017年には年間で3日間大会が10大会以上、賞金総額が7万ドル以上など、ロレックス世界ランキング対象ツアーとなる条件を満たし、ロレックス世界ランキングのポイント加算が実現しました。選手はステップで獲得した世界順位をJLPGAツアーにそのまま引き継いでいくことができます。

――現在はインターネット配信で生中継が見られますが、10年以上前に始まっていたんですね。
その通りです。有料放送で生中継を見るのはコア層ですから、そこにステップが刺さった。今はプロテストに合格すると1年間、ステップに出られる資格を付与しており、レギュラーツアー(JLPGAツアー)に上がる前から推しの選手を見つけ、応援されています。2015年からは3日間大会を増やし賞金も上げていただきました。レギュラーツアーと同様のツアー環境になり一層競争が増すようになったんです。
レギュラーツアーは2013年から「世界に勝つ」を目標に、大会スポンサー様にお願いし世界基準の4日間競技を増やし、また同時にこちらも賞金を上げていただき、目標だった年間試合数の半分の19大会を、2021年に達成しました。
もちろん3日間競技も大事ですが、「世界で勝つ」ためには普段から4日間の戦い方を身に付けないと厳しい。4日間だと予選の2日間は午前と午後の2つのスタートに分かれますが、3日間競技では、午後スタートの経験がほとんどないので、午後スタートでの空いた午前中の時間の使い方を迷います。また、3日間のペースに慣れてしまうと、体力面含め、4日目の最終日にスコアを伸ばしきれないことが多かったのです。
――それはご自身の13年間に及ぶ米ツアーでの経験からでしょうか?
そうですね。また、加えてJLPGA理事や事務局などみんなでいろいろと考えてくれました。そのひとつがスタッツですが、2016年以前はスタッツが7項目のみでしたが、2019年までの3年間に30項目まで拡大し、選手の力を数値で“見える化”しました。やはり今はデータに基づく分析や練習が主流ですから。また、バラバラだった試合会場における練習場環境の基準化を2015年に完成し、一定レベル以上にほとんど整備することができました。そこはゴルフ場様に大きくご協力をいただきました。練習場環境については、韓国選手からたびたび褒められます。打席は何打席以上、距離は何ヤード以上、パッティングエリアやアプローチは何面など、また、100ヤード以内の精度も高められるように10ヤード刻みの目標物を立てたりする場合もあります。
――そんな細かいところまで……
とにかく毎日のツアー環境が大事。シード選手など試合に出ている選手はどこで練習するのかといったら、やっぱり試合会場のゴルフ場ですよね? もともと選手のポテンシャルは高いので、環境でいくらでも選手の力は伸びます。
またリランキング制度は、2018年から導入しました。QTからの選手が前半戦出場してポイントランキング上位に入れば、中盤戦、そして後半戦と出られるように変えたら、QTからの選手が前半戦から勢いが増し、シード選手を追い越す選手が増えました。結果として、毎年10名以上、シード選手が入れ替わるほど活性化しました。
それからコースセッティングにも力を入れました。コースのタイプや季節で変わる芝の状態、グリーンの速さ、硬さなどをいくつも組み合わせて、さまざまなコースセッティングにしています。コースセッティングの担当をツアー優勝経験者にお願いして、優勝スコアもイーブンパー前後から20アンダーを超えるまで設定。つまり、耐えるゴルフから攻撃的なプレーでスコアを伸ばし切る力をつけるべく、選手の技術的および戦略的な引き出しを増やしています。
――今年のAIG全英女子オープンで優勝した山下美夢有選手が、「日本でも難しいセッティングで争っていた。2年ぐらい前からすごく難しくなり、グリーンは速く、ラフもすごく長くて、フェアウェイは狭い」とインタビューで答えていました。
実力の証明である平均ストロークを見てください。10年来のツアー強化策の結果、2023、2024年と、初めてトップ50人の平均ストロークがアンダーパーになりました。また、最終プロテストは3日間から4日間に変更し、今年は約700人が受けて20位タイまでの22名が合格。プロになる前からみんな力をつけてこなければなりません。
――この「勝つための施策」の結果が出てきたと感じられたのはいつ頃ですか?
やはり2019年の渋野日向子選手のAIG全英女子オープン優勝が大きいです。日本ツアーの選手が米ツアーを経ずに世界メジャーを制覇した。ついに「世界で勝つ」が実現した、とすごく感激しました。実は渋野選手は2018年にステップに出場していて、ステップで世界ポイントを稼いでいたので、それが積み重なって全英優勝後のロレックスランキングが14位まで上がりました。渋野選手の世界メジャー優勝は、同じ日本ツアーで頑張る選手たちにすこぶる大きな影響を与え、今年は日本人選手の優勝者は6名も誕生し、うちメジャー優勝者は2名。みんな本当に強いし、素晴らしいです! 向こうに行って1年、2年でボンボン勝っちゃうんですから。
――日本のトップ選手が13人もいなくなって、国内ツアーは大丈夫なのかと心配しませんでしたか?
心配してないです(笑)。毎年新しい選手が生まれていますし、これまでステップからレギュラーツアーにひもづけた育成システムやツアー環境改革など、大会スポンサー様やゴルフ場様など多くの方々のご理解とご支援があって、ここまで成長発展できています。そもそも選手は目標が高く、ポテンシャルも高い。私たち協会は、選手たちを制度や環境整備などで後押しするのが大事。年々、選手の技術力は上がり、練習の仕方も科学的。プロスポーツはやっぱり強くないと振り向いてもらえないし、応援してもらえません。ファンの方々は、野球もサッカーなども、国内はもとより世界規模の大会で日本人選手が活躍することを期待されています。私たち協会も永続的な発展を目指して、ずっとツアー強化をやり続けていかないといけないと思っています。もちろんファンサービスや、スポンサー様へのホスピタリティも同様に取り組んでいます。

2025年AIG全英女子オープンで優勝した山下美夢有は「日本でも厳しいセッティングで戦っていた」と海外メジャーのセッティングにも戸惑いはなかったという
――2022年からは公認競技の放映権がJLPGAに帰属するようになりました。
おかげさまで、私たち協会がJLPGAツアーすべての公認競技の放映権を一括管理できるようになりました。世界のプロスポーツでは、頑張った選手の価値が放映権に反映されます。ですので、その放映権料は、選手などに還元と投資をしています。そのひとつが年間を通した宅配便サービス。3日間大会では心配は少ないのですが、4日間大会では、日曜に試合を終えてから宅配便を送ると遠隔地では、火曜日にしかクラブが届かない。すると、水曜日がプロアマ大会なので、練習時間がとても少なくなってしまいます。そこで2023年から宅急便業者と契約し、選手専用のコンテナで送ってもらえるようにして、全国どこでも翌月曜に次の試合会場に到着するようにして、火曜日には必ず練習ができる環境に改善しています。また、選手の栄養サポートとして、管理栄養士さんにメニューを作っていただき、補食サービスをしています。ステップは全試合で行っていますが、レギュラーツアーではまだ一部なので、全大会に広げていく予定です。さらに、可能な大会会場から託児所の設置を開始しており、今後も随時、ツアープロの働く環境改善を行っていきたいと考えています。
それから、現在1400名を超えるJLPGA会員に対しては、おかげさまでJLPGAの財務基盤が大きく改善されたこともあり、長年、会員から要望の大きかった年会費を今年、7万2000円から半額に引き下げることができました。
――JLPGAの目標というか、この先どこを目指していくのでしょうか?
米国PGAツアーです。かなり高い目標ですが、米男子のPGAツアーは世界の強い選手たちが競い合い、ゴルフ界のスポーツビジネス、エンターテインメントの極みだと思っています。

週刊ゴルフダイジェスト2025年12月30日号より


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