葛西紀明×小林陵侑<後編>「女子ゴルフは、ズルい(笑)」競技を盛り上げるために必要なこと
スキージャンプ界のレジェンド・葛西紀明と、北京五輪金メダルのエース・小林陵侑。ともにゴルフが趣味という2人の対談、後編では、まるで友達のような2人の関係性や今後の目標、スキーとゴルフ界の今とこれからについて語ってもらった!
PHOTO/Shinji Osawa
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- スキージャンプ界のレジェンド・葛西紀明と、北京五輪金メダルのエース・小林陵侑。2人の共通の趣味は、意外なことにゴルフ。なぜゴルフに惹かれたのか。ゴルフとスキージャンプの共通点は? 合宿中の2人を直撃した。 PHOTO/Shinji Osawa 葛西紀明(50歳・右)1972年生まれ、北海道出身。小3でジャンプを始め、数々の日本男子最年少記録を作る。92年アルベールビル五輪以来……
――クールな小林陵侑選手とアツい葛西紀明選手。年齢もダブルスコアと対照的に見える2人だが、本当に仲がいい。お互い認め合っているからこそ、だろう。師弟、親子、ライバル……どの言葉も当てはまる。
葛西 関係を表すなら友達みたいな感覚。気は合わないです(笑)。
小林 きっぱり言いますね(笑)。僕は一緒にいて楽しいですよ。いろいろなことを教えてくれます。
葛西 たまに飲みにも行きます。でもジャンプの話は一切しない。
小林 それ以外にもいろいろあるんですよ、教わること。
葛西 大人の事情ね。
小林 はははは。
葛西 温泉や旅行にも一緒に行きます。ここ数年はコロナや紛争で行けていないですが、その前のオフは2年連続でハワイに行き、一緒にガーリックシュリンプを食べたり、海に行ったり。
小林 ゴルフはしませんでしたね。僕はファッション好きなのでショッピングもして。
葛西 ゴルフはオフにならない。一応トレーニングっぽい部分を意識しながら楽しむ感じなので休みではない。
小林 そういえば、チームでは行かないかもしれないですね。
葛西 チームでは僕の家で楽しくバーベキューしたり。一緒に旅行するのは陵侑だけかも(笑)。
GD お互いの“すごい”ところは何ですか?
葛西 陵侑は対応力です。瞬時に何にでも対応できてしまう。才能です。50回、100回言ってもできない人もいるけど、1、2回でできる。僕は一目見たらわかるんです。陵侑が一番長けている。ゴルフもだし、他の球技もトレーニングも考え方も。頭の回転が速いからすぐにできます。くだらないギャグを言ったりしても、すぐに返ってくる(笑)。そういうのってすごく大事。ジャンプの一瞬のなかでいろいろと考え、それを体に移す力が、神以上です。
小林 まあ、できるほうなんじゃないかと思います(笑)。
葛西 オリンピックのインタビューでも、短い言葉のなかにぎゅっと対応力を感じたでしょう。
小林 長く話すと皆さんが困るでしょう。思ったことをそのまま言っているだけです。でもやっぱり、このチームに入って鍛えられました。いきなりギャグを振ってくるし。ノリさんは何でもできるんですよ。それにノリさんは、どうやら20代から体力が衰えてないようで、そこがヤバイです(笑)。
葛西 間違いなく落ちているけど、いつもフル回転で動いてるよね。
小林 いつもね。
葛西 だから衰えた感じに見えないかなとは思います。
小林 なんなんでしょう(笑)。
葛西 僕の体を解剖して見てほしいくらい。若い頃からトレーニングして追い込んではいました。でもジャンプにはそこまで必要はないと思います。だから無駄だったと感じることは省いて今皆に伝えている。でも、無理してがむしゃらにやったことが、今こうして50歳までできる理由だとも思っています。まあ、維持できるのも一つの能力ではないかと思います。
小林 僕がノリさんと同じ年になったとき、どうですかねえ。
葛西 あと25年。
小林 いやー、まだ飛びたいなあとは思っているんでしょうけど、楽しみながら……ただ、体が追いついていかないと思いますね。気持ちも(笑)。でも、飛ぶことは飽きないです。調子が悪いとつまらないと思うときもありますよ。
葛西 調子が悪いところから上げていくのは苦しい。自分で探したりコーチに聞いたり、多くの人の助言や自分のひらめき、気づきなど。そういうところが大事になる。
「陵侑は一瞬で考えたことを体に移す力が神以上」(葛西)
輝く金メダルを見せてくれた小林選手。メダルの袋は可愛いキャラもの。「これは、この前行ったディズニーでゲットしました(笑)」
「ノリさん、20代から体力が衰えていません」(小林)
維持できるのも一つの能力だと葛西選手。「自分に自信をつけるためにトレーニングをして鍛えていく。そういう能力がないと続きません」
GD スキージャンプの一番の魅力は何ですか? 私たちには、ただただ「怖い」イメージです。
小林 遠くまで飛んでいくことです。楽しいですよ。
葛西 人よりも遠くに飛んで、表彰台の真ん中に立ったときが一番ですね。
小林 K点は越えないと話にならない。怖さは、すぐ慣れますよ。
葛西 何回か転んだこともあり、空中で怖い思いをすることもありますが、「気持ちがいい」が勝つ。スキージャンプって小学校2、3年頃からやらないと絶対にトップ選手にはなれない。唯一、一般の人ができないスポーツです。雪が降ってジャンプ台がある地域、北海道、岩手、秋田、山形、新潟、長野くらいですね。何十本も飛び重ねて、恐怖心がなくなり、前傾姿勢がとれてくる。僕は小3で始めて小4で前傾姿勢ができました。センスもあると思います。それに、先輩の岡部孝信さんや伊藤有希の叔父、伊藤直人さんが当時中学生で全日本に入っていてすごいジャンプをしていた。それを見て「こうやって飛ぶんだ」「自分もこう飛びたい」と真似をして上手くなる。ゴルフでもそうですよね。いい見本がいると強くなれます。
小林 僕の見本は、ノリさん。
葛西 いやいや。でもジャンプが好きじゃなかったら、とっくにやめていると思います。心身を維持することは、辛いとは思わない。楽しいしかない。これをしたら勝てるかなあとか、頑張っていることが楽しいんです。
GD スキージャンプ界を盛り上げていくため考えていることはありますか? 小林選手はSNSで発信もしています。
小林 ユーチューブでは発信しているというより撮られているだけですけど。ジャンプ人口は増やしたいですが今のままでは難しい。
葛西 冬の競技のなかでは知られていますけどマイナーですよね。やっぱり野球、サッカー、ゴルフ、テニス、バスケ、バレーとなっていくとスキーはずっと下位のほうだし、ジャンプは一般の人ができないから用具も売れない。スターが必要だと思います。たとえば今は陵侑だけしかいない。こういうスターがあと5人、10人と増えると、皆寄ってきます。女子ゴルフがそうですよね。毎週、強い選手は必ず上位争いはするけど、でも誰が勝つかわからない。涙あり、ドラマあり、お洒落ですし。惹かれます。ズルいです(笑)。
小林 僕も女子はよく見ますよ。
葛西 毎週気にしてるよね。男子ゴルフは豪快でスゴい、女子とレベルの差があるのはわかるんですけど。(石川)遼くんが若い頃、パッと出てきたときは盛り上がった。スターがいて、活躍して、テレビなどにガンガン出るようにならないとメジャーにはならない。実力の強化はもちろん、売り方、マネジメントの仕方も大切。それを誰がやっていくのかも難しい問題。ジャンプも昔は全国放送していましたが最近は北海道だけとか。ぜひ、オリンピックだけではなく毎年見てほしいです。昔からある「サマージャンプ」も、もっとメジャーにしていきたいですね。
小林 スキーでも、たとえばフリースタイルのような華やかな演出はもちろん必要ですけど、まずスキー界全体の体質が変わらないと、間違いなく今のままです。でも僕らはもう、できることをやるしかないので。頑張ります。
GD 今後の目標は何ですか。
小林 勝つことですね。
葛西 あと10年は諦めずに。ゴルフは60歳を超えてもできるスポーツですよね。ジャンプにもそういう人がいてもいいと思います。ケガや病気をしない限りは。
小林 ノリさんって、表には出しませんが、めちゃくちゃ努力家ですよ。楽しくて、やさしい人です。
葛西 またあ。でも僕、昨シーズンも1試合しか勝ってない。悔しい思いしかないです。10試合で1試合。9回は悔しい思いをしている。でも、その1回の嬉しさがすごく大きいんです。今年ももちろん勝利が目標。国内で勝たないとワールドカップ組には入れません。
GD 2030年、札幌冬季オリンピック招致の動きがあります。
小林 いいっすよね、楽しみです!(力強く)
葛西 絶対来てほしいです。気持ちもより変わります。もちろん選手で出たい。8年後、陵侑は何歳?
小林 33歳かな。
葛西 ちょうどええやん。
小林 そうですね。まだまだっすよ。若くて、バーンと出てきてすぐに消えていくということもあるので頑張らないと。やっぱり若いほうがクリエイティブだったり、できることが違うから爆発的にハマるというのはあるんです。でも、もちろん経験は必要です。経験を重ねないと、試合勘とかは培われない。まだまだこれからです。
まだまだ聞き足りない!
最後に2人に「好きなもの」を聞いた
●好きなゴルフコースは?
「千歳空港カントリーかな。3つコースがあるし、ベストスコア83を出したよい思い出があるんです」(小林)
「明治カップを開催する島松(札幌国際CC)なんかも好きですね」(葛西)
●好きな街・国は?
「(現在在住の)札幌、好きです。どこでも、何でも美味しい。ラーメンも、寿司も旨いです。もちろん試合中は、外食でも食事のコントロールはしますよ」(小林)
「ハワイ。一般的な日本人の回答ですね。イタリアも食べ物が旨いし古い建物も見られる。フィンランドなんかは食べ物がイマイチで、夏は白夜で冬は寒いし。札幌はラーメン。体型を気にしなくてよければ毎日食べていたいくらいです」(葛西)
●好きなプロゴルファーは?
「最近は皆いいですよね、技術も上手いし。一緒にプレーしたり食事したりする友人の藤田さいきさんを応援しています。ベテランでも頑張っている。この前、18番でボギーを叩いて逆転されて惜しくも2位でした。原英莉花さんや安田祐香さん、韓国選手など“キレイどころ”も応援してます(笑)」(葛西)
「中国のセキ・ユウティン選手もめっちゃきれいですよね。男子は中西直人さんのキャラが最高。楽しいし面白い。一緒にゴルフしたいと話をしていますけど、なかなかタイミングが合わなくて残念です」(小林)
●生まれ変わってもジャンパーになりたい?
「絶対にならない(笑)。ゴルフ、テニス、バレーボール、バスケットボールの選手。あとは大相撲の力士になって、千代の富士くらいかっこいい横綱になりたい」(葛西)
「僕はアーティストになりたいかも。ラッパーとしてライブをしてみたいですが無理ですね(笑)。ヒップホップ系が好きなんです。JP THE WAVY」(小林)
週刊ゴルフダイジェスト2022年8月2日号より