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【対談】感覚派・奥田靖己×データ派・植村啓太「感性がゴルフを磨く」

TEXT/Chiharu Kubota PHOTO/Tsukasa Kobayashi

“感覚派”といわれる奥田靖己プロ。コロナ禍、動画レッスンを見ることも増え、そこで気になったのが、最新機器を使い多くのプロを指導する植村啓太コーチ。奥田が依頼して実現したこの対談。さて、どんな化学反応が起きるのか――。

奥田靖己(プロゴルファー)
おくだせいき。1960年大阪生まれ。85年プロ入り後、93年の日本オープンを含むツアー6勝。現在活躍中のシニアツアーでも2勝。自他ともに認める「感覚派」。週刊GDで『ゴルフはつづくよどこまでも』連載中
植村啓太(ツアープロコーチ)
うえむらけいた。1977年東京生まれ。K’sアイランドゴルフアカデミー代表。16歳でゴルフを始めツアープロを目指す。米国でスウィング理論を学び、21歳からプロコーチとして数多くのトッププロを指導

「棒切れで球を打ついうのは何百年も変わらない」

奥田 植村さんの顔も名前も昔から知っていましたが話はしたことがなかった。最近、植村さんのユーチューブを見て「おや!」と思うことがあり、「会って話がしたい」と編集部にお願いしたんです。

植村 光栄です。奥田プロにお会いできるという話を聞いてから、ずっと緊張しっぱなしでした。

奥田 確か中西(直人)くんにレッスンしておるときに、何か質問されて「そんなことプレーヤーは知らなくいいんだよ」みたいなことを言ってたでしょ。「これをやってみて、どう感じたかが勝負でしょ」と。ボソっと勝手に出てきた言葉だと思うんですけど、「この人、プロ意識がすごいな」と思って、惹かれてしまったんです。

植村 最近の測定器ってすごいでしょう。体の動きからクラブの動き、ボールの飛び方まで何でも出る。でも数値を求めすぎるプロは、コースに出ると見失うことも出てくる。選手の歴史――ミスの傾向やクセ、作り上げてきたスウィングを全部把握し、話し合ってアドバイスする。この繰り返しです。

奥田 処方箋を出すのはあくまでコーチと。そのために、植村さん、相当勉強してはりますね。

植村 GGスウィングとかスタック&チルトとか、新しい理論も僕らは全部知って、理解しておかないといけないんです。そのなかで何をアドバイスするかが大事。この仕事、20年以上やっていますが、理論ってすごく変わるでしょう。流行ったり廃れたり。でも、その下にあるベースというか、普遍的なものがあって、その上でいろいろな理論が展開してきたと思うんです。僕のベースはインパクト前後のクラブの動きだったりします。

奥田 棒切れで球を打つのは、何百年も変わっておらんからね(笑)。

植村 奥田さんがプロになったときって、「見て覚えろ」という時代でしたよね。

奥田 最初はそうでしたね。師匠(高松志門)の歩き方まで真似していました(笑)。

植村 質問などしたら返してくれたんですか?

奥田 ゴルフ場で水溜まりがあっても、そのまま打つんですよ。グシャグシャのところから、ショートアイアンでバーンと打つと、泥が顔に跳ねてくる。「先生、ぬかるみで球だけコーンといきたいんです」と言ったら、「沼に絨毯をパっと浮かせて、その上で沈む前に打って、帰ってくるような感じでやってみい」というふうに教えてもらったことがありました(笑)。

植村 そうですか。

奥田 足に圧をかけたらあかんのやと。「それやったらスケートリンクで、そのまま打てるぐらいの感覚ですよね」と言ったら、「高下駄も履かんかい」と言われたので、「先生、高下駄履いて打ったことあるんですか?」と聞いたら、「そんなもの、ある訳ないやろ」と、そんな感じ。流行りの地面反力にもつながると思います。こういう会話で僕らは育ったんですわ。

言葉を大事にする二人。対談中、擬音も多発。「昔の人は『そこはペンと打って』などと言った。『ペン』『シューン』と擬音のほうがスッと入ることも多い」(奥田)「僕のレッスンも擬音を使う。擬音が一番体を動かしてくれ、体に響きます」(植村)

植村 皆さん足を使うというと、ひざから下を使うんです。すると多分、ぬかるみに沈むことになるんだと思います。僕は腰骨から下が足だと思っています。股関節で立つことです。ひざで踏むか、股関節で踏むかでぜんぜん違うと思うので、奥田プロの話はすごくいい例えだと思いました。

奥田 僕は逆に植村さんの説明を聞いてスーッとしました(笑)。

植村 同じように、手というと肩から先だと思っている人が多いですけど、肩甲骨からが手なんです。

奥田 言葉って大事ですね。

植村 僕の仕事って言葉で伝えることが必要。日本語っていろんな表現があって、伝え方と伝える相手によっても変わりますよね。だから、僕は本を読むのが大好きなんです。そういうなかから響く言葉を勉強しています。

奥田 僕も本は大好きですけど、植村さんは、どんな本から影響されましたか?

植村 木村政彦さんという、もう亡くなられた柔術家の人の本ですけど、試合って元々は「死合(死に合う)」ということで、どっちが死ぬか生きるかが試合だと。試合の朝は、短刀を腹に当てて、死ぬ覚悟で向かったそうです。僕も、ジュニアとかプロとかを見ていて、とくにジュニアの子は、僕の一言で人生がいい方向にいくのか、それとも才能を潰すのかって考えて言葉を発しています。

奥田 誰かの言葉一言で生き返ることもある。言葉ほどあてにならんものでもある。それだけ大事やということ。

植村 今日は最新機器で奥田さんのスウィングを計測させていただきます。そして僕の言葉を聞いてください。

奥田が最新機器『スウィングカタリスト』に挑む

「スウイングカタリスト」は世界のトップコーチが愛用するスウィング解析ソフトウェア。スウィング中のバランス、圧力の移動が可視化される。スウェーデンの国家予算で研究開発された

植村 この機器は、今まで見えなかった足の裏のことがわかります。どこからどこに力が動いているか、どこからどこに体重をかけるとこういう軌道になりやすい、とわかる。奥田プロを計測して、まず何がいいかと言うと、見た目はクローズスタンスなんですが、ウェートが右足のつま先と左足の真ん中(土踏まずあたり)にあるので、ほぼ真ん中ウェートで立て、スウィング中も、ほぼ真ん中を真っすぐに重心が動いていくところです。

極端なクローズスタンスが特徴の奥田だが、重心位置は右足がつま先寄り、左足が土踏まず付近になるため、事実上は「スクエア」スタンスのイメージ。重心が真っすぐ移動し効率よくパワーが伝わっている

奥田 初めて聞いたな、そういうの。僕は絶対クローズやから……でも真っすぐって!

植村 動きがきれいですごく力の伝わり方がいいんです。重心が後ろにいったり、前にいったりというのがない。動きすぎる人は8の字を描いたりするんですよ。

奥田 そうなんですか。自分では、スタンスはクローズで、腰は真っすぐで、肩が開く、みたいな感覚やった。僕はこのままのクローズスタンスでいいんやね。

植村 はい、どストレートです(笑)。スクエアスタンスで構えると力が逃げるかもしれません。

奥田 なんや、解剖された感じがするわ。

植村 見た目ではわからないことが、この機器では見えるんです。

奥田 トップの間とか、そういうのは、どうやって見るんですか?

植村 「間」は、3つある波形グラフの山の順番で見るんです。波形は地面からもらう力が3種類あることを示していて、1つ目は右から左の動き、2つ目は回転力、3つ目が上下動です。この山の大きさと順番で力がどう伝わっているか、どう地面から力をもらえているかがわかる。奥田さんの波形の山を見ていると、トップで右から左への動きがあって、次に回転があって、最後に上下動があっ……という順番がきれいにできている。さすがにいい感じの「間」がありますね。アマチュアの方は、トップからいきなり回転が始まったり、いきなり伸び上がったり、と順番が狂う。これは「間」がない証拠です。

奥田 僕のは一応は合っているということですね。これで全部わかるというのはすごいな。

左のグラフは、上から水平方向(左右)の力、回転力、上下方向の力を示す。奥田は真ん中の回転力の数値が高いことがわかる(PGAツアーの平均より少し高い)。一方、左右の体重移動や上下方向の力は小さめになっている。「最近では、上下方向の力が最も飛距離につながると言われています」(植村)



植村 次に、左足1本でアドレスして右足は本当に支えているだけにしてバチンと打つ。逆に右足1本で左足は支えるだけで打つ。最後に足をそろえて打ってみてください。この3つのパターンで、どれが振りやすいか、どれが飛ぶかというのも見ます。

奥田 何がわかるんですか?

植村 スウェーデンに、人には得意、不得意な回転軸というのがあり、左足で回転する左軸、右足で回転する右軸、その場で回転する真ん中軸の3つしかないという研究結果があります。奥田プロも振ってみると気持ちいいと感じるものがあるはずです。

奥田 やってみると僕はやっぱり左やね。両足をそろえて打ったら新井規矩雄さんみたいになる(笑)。

植村 これもデータを見ながらあれこれやっていくんです。この3つの回転軸は、先ほど説明した「波形」データと連動していて、得意な回転軸を生かしながら、右足をもっと強く踏み込んだり、回転を速くしたりするんですが、全部の数値が上がるのは逆によくないんです。得意なものを生かしながら、別の2つを少しずつ上げる。3つのハーモニーをよくするのが大事なんです。奥田さんは左軸だから、それがもっと生かせるといい。上下動を使えると、もっとパワーが出せます。とくに左ひざの曲げ伸ばしみたいなもの、いわゆる地面反力を利用するんです。

奥田 左のひざをなかなか使えんのですよ。これでいいですかね。

植村 いい感じですよ。先ほどは体重の150%しか使えていなかったのが、体重の180%を使っています。一気に変わった。

奥田 面白いな。こういう感覚、自分のなかではぜんぜんなかったです。これで地面の力ももらえるということですか。

「左足軸」「右足軸」「真ん中軸」の3パターンでボールを打ってみて、自分が最も気持ちいと感じる回転軸を見つけよう。得意な軸を生かしつつ、苦手な部分を補うべく、体重の使い方をアレンジしていく

植村 ここからはいろいろ試しながらどうスウィングに生かしていくか。でも、「振りやすい」「叩ける」なんていう感覚を見つけながらやっていく感じです。

奥田 スウィングは生き物やからね。やっぱり気持ちよく振るいうのが大事なんやね。でも形どうこうじゃない、違うアプローチの仕方が面白い。

植村 皆さんは別に細かいデータの見方などは知らなくてもいいんです(笑)。コーチが日々、選手を見ながらアドバイスしますから。

奥田 それこそプロやね。かえって安心しますわ。

植村 じつは81歳で習い始めて今は87歳の方で、エージシュート100回以上というアマチュアがいらっしゃるんです。その方にも形ではなく、どうやったら気持ちよく振れるかを見つけていったら飛距離が20ヤード伸びました。形は結果でしかないと思うんですね。気持ちよく振った結果オンプレーンになると。形に合わせようとすると、どうしても小手先になってしまいます。

「データは見ながらも、自分の感覚を信じることが大事です」(植村)

奥田 いやー、新鮮な体験をさせてもらいました。病院でいう問診でしたな。僕は右軸が飛ぶと思っていた。自分の思い込みというのもけっこうあるんやね。

植村 病院に行ってCTスキャンをとって、そのデータを自分で見て何かわかりますか、という話です。レントゲンぐらいならわかるかもしれませんけれど。

奥田 きちんとわかる人がどういうふうにアドバイスするか、ですな。

植村 奥田プロって、世の中的には感覚派みたいに言われてますけど、僕はすごく理に適ったスウィングをしているように思うんです。

奥田 新しいこともチェックはするんです。初めての経験ってワクワクするでしょう。初めて赤い車に乗ったりとか。だから、シャローイングなんて、どうやって打つんやろうなと思ったり。

植村 結局、クラブという物体は、こうして動いたほうがいちばんスピードが出て、いちばんボールに力を伝えられるというものを見つけることなんです。それをシャローイングは「パッシブトルク」を使うと聞いて、自分でつくろうとしたら大変。自分に合う合わないもあります。だから、データを見ながら自分の感覚を信じていくんです。数値だけに合わせようとすると、つくって、なぞって、で終わってしまう。

奥田 そうやね。それに、ゴルフってコースでどうするかが大事。五感で吸収してどう出すかいう部分にもつながりますな。とくにアマチュアの皆さんはマニュアルすぎますわ。

植村 そうですね。ただ、最近の大型ヘッド、慣性モーメントの大きなクラブだと、フックグリップでフェースを閉じて、まるでランニングアプローチの延長のようにスウィングする傾向にあります。何にもしなくても、シャフトとヘッドとボールで上がって飛んでくれるようになりました。

奥田 クラブもボールも曲がりにくくしてあるよね。

植村 そういう意味では技術がいらなくなったかもしれませんね。昔はきっちりヘッドを入れないとスピンがかからない、上がらないとかでしたが、今は何もせずにポンと打てば上がって飛ぶような感じにもなってきました。でも、昔はどうコントロールするか、操るかこそが大事だったんですよね。

奥田 プロやったらプロらしいことをせい、みたいな感じでした。ライの悪いところから、ロフトのないクラブで球を上げられるのが一流やと。逆にものすごくロフトのあるクラブで低く打てるのも一流やと。相反することを両方できたら、そのあいだの技術は全部できるという感じやったんです。

植村 僕はジュニアの子にはいろいろなことをやらせるようにしているんです。片手打ちとか、スタンスをクローズにするとか、高い球、低い球を打たせるとか。

奥田そっくりなモノマネをする植村を見て「おっさんがクダ巻いてる感じやな」と笑う本人。モノマネも形から入ると難しいという。柔軟な感性こそ上達の早道なのだ

「きちんと歌えても譜面どおりじゃダメ。ゴルフも同じです」(奥田)

奥田 やっぱりそういうことは必要やろうと思いますわ。じつは僕、ギターが趣味で。52歳から始めて、シニア連中とバンドやっとるんですけれど……。

植村 え~! すごい。僕も音楽が好きで、ゴルフ業界に入らなかったら、音楽業界に行きたかったんです。高校の友だちがギターをやっていて、原宿の駅前なんかで歌ってたんですよ(笑)。

奥田 それはすごい。歌えるということは、絶対にリズム感がええのですよ。口というのは楽器ですから、センスがええのです。僕がギターを習った先生はよい人なんですけど、マニュアルどおりの教え方で、それをバンド仲間のプロゴルファー、高松(厚)くんに言ったら、「それは止めろ。オレが教えてあげる」となった。きちんと弾けても、きちんと歌えても、譜面どおりじゃダメでしょ。たとえばジャズなんか、正しく歌えても、聞きほれてもらえるのは、“味”があるかどうかです。

植村 音楽とゴルフの共通点かもしれませんね。

奥田 そう、センスのひと言やね。自分ひとりでやっても酔えるようなところもゴルフと似とる。自分が酔えんと、まわりにも酔ってもらえへんですからね。ちなみに、ギターの演奏は左手が難しいと言いますけど、左はどうでもええんです。じつは右手が命なんです。

植村 そうなんですか!?

奥田 右手は、パーカッション。右手のリズム取りが命。絶対に右手のセンスなんです。

植村 左の指が押さえる場所を間違ってもいいんですか?

奥田 そんなものどうでもええんです。スタンスがクローズでもオープンでも、どっちでもええのと同じです(笑)。

植村 面白いですね。「センス」を磨く――これが上達には必要なんでしょうね。僕は、モノマネも好きなんです。ゴルフスウィングでも、その人の中に入っていく感じにすると上手くいきます。

奥田 “雰囲気”をつかむのが大事やからね。今日は貴重な体験をさせてもろうて、面白かったです。

植村 今度お会いするときは、ぜひウイスキー片手でお話ししましょう!

音楽が趣味というのも共通する二人。「譜面どおりじゃダメ。聞きほれてもらえるのは、“味”があるかどうかです」(奥田)。データも道具として使いながら最後は「感性」を信じることだ

週刊ゴルフダイジェスト2021年6月22日号より