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【脳科学×ゴルフ】<後編>中野信子×内藤雄士「ベストスコア目前でも叩かない、脳の操縦法とは?」

ミスが続いてイライラしてしまい、やがて自滅。ズルズル叩いてしまうのはなぜなのか? ゴルフの様々な悩みに対して「脳科学」の観点で脳科学者・中野信子氏とティーチングプロの内藤雄士の対談が実現。本来のパフォーマンスがどうすれば発揮できるのか。前編に続き、脳のメカニズムに迫った。

Text/Daisei Sugawara PHOTO/Getty Images、PIXTA

中野信子

なかの・のぶこ。脳科学などをテーマに研究や執筆活動を行い、科学の観点から人間社会で起こり得る現象などを読み解く語り口に定評があり、テレビなどの多数のメディアに出演

内藤雄士

ないとう・ゆうじ。丸山茂樹の米ツアー3勝をはじめ、これまで数多くの選手の優勝をサポート。現在は清水大成や大西魁斗など、若手男子のプロを指導している

>>前編はこちら

脳は「ハイリスク・ハイリターン」な
勝負を求めがち

内藤 プロでもアマチュアでも、何か「意気込むほどに結果が最悪になる」ということがあるんですね。たとえばアマチュアだと、ラウンド前にみっちり練習して「よし、今日こそベストスコアを出すぞ」というときに限って逆に大叩きをしてしまうことがあります。あるいはプロだったら、オフの間に肉体改造をして、すごくモチベーションを高くしてシーズンインしたら、最初はよかったけどそれがだんだん空回りするようになって成績が上がらなくなるとか。私がコーチする選手にも似たようなケースはあるんですが、そういう「意気込みが空回りする」のはなぜかというのが、次の質問です。

中野 先ほどのギャンブルの例じゃないですけど、やっぱりハイリスクのゲームをやろうとしているというのがよくないんだと思います。勝つ人とか、ハイパフォーマンスを維持できる人というのは、たとえ「今日の状態が7割でも結果が出せるゲームをする人」なんです。そもそも、ハイスコアというのは「偶然」でしかないんですよね。調子だとかパフォーマンスには振れ幅があって、その一番上に当たったときに、たまたまハイスコアが出るということです。

内藤 ハイスコアは狙って出すものじゃないということですね。

中野 脳はそういう「ハイリスク・ハイリターン」をやりたがるんですが、試合は緊張を伴うので圧倒的にうまくいかないんです。「うまくいかない」というのは、脳にとっては相当なストレスなので、それに動じないストレス耐性を備えた脳を持っているならいいんですが、そんな人はまれです。むしろ、強くストレスを受けてダメージを負うのが「普通」で、言ってみれば「健康」な状態だと思います。

内藤 プロゴルファーは成績を出さなくてはいけないというのはもちろんですが、ファンから「見られている」というプレッシャーもあるので、うまくいかないストレスは大きいと思います。

中野 それと、よく「平常心を保つ」と言いますけど、そもそも「平常心」というものを作るのがほぼ無理なんじゃないかと思うんです。なぜかというと、脳が平常時をモニターしていないからなんですね。脳の前頭前野という部分に、何か普段と違うこととか、危険なことがないかをモニターする役割があるんですが、そのモニターが働いていないときが「平常」なんです。もし、そのモニターを意識的に切って、ずっと平常でいられる人がいるとしたら、その人はきっと災害時に逃げられないですよ。

マキロイはグランドスラム達成まで
11度マスターズが立ちはだかった

ローリー・マキロイは、メジャー初優勝(2011年)からたった3年でマスターズ以外のメジャーを制覇したが、そこからキャリアグランドスラム達成(2025年)まで、実に11年の歳月を要した。「狙って」ハイパフォーマンスを出す難しさを示す好例だ

肉体改造は注意が必要!「新車と同じで取り回しの感覚がつかめません」(中野)

ゴルフに限らずプロスポーツの世界では、オフの間に高強度のトレーニングを積んで「肉体改造」を行ったものの、いざシーズンインしてみると、それが成績向上につながらないどころか、むしろ調子を落としてしまうことがよくある。これは改造後の肉体(強度、スピード)を脳が認知し切れていない可能性が高い。肉体改造をする場合、それを動かすことに慣れる時間も加味する必要がある

「緊張したときは
“リフレーミング”することがとても有効です」(中野)

内藤 松山英樹プロはその代表格だと思いますが、成績を残している人は確かに、どんなときも置かれた状況を客観的に判断して、やるべきことを淡々とやっている印象があります。

中野 窮地に陥ったときに、一発逆転を狙い始めたらそれが「穴」になります。それこそ、「ワイプモニター」のコーチが指摘してあげなきゃいけない危険な状況ですね。先ほども話した通り、一定の調子の幅の中で結果を出すことを目指すのが基本で、ピーク値を超えた部分では勝負しないということが大事です。

内藤 ゴルフは「逃げ切る」のが難しいと感じます。メジャーでも、最終日に6打差を逆転されるとか、残り1ホールをダブルボギーでも優勝という状況でトリプルボギーにしてしまうとか、考えられないことが起こります。そのときに思ったのが、たとえばタイガー・ウッズは逃げ切って勝つパターンが多くて、本当に強い選手は「逃げ切れる」ということなんですね。アマチュアでも、順調にベストスコア更新ペースでプレーしてきたのに、上がり3ホールで叩いてしまったりすることが多くて、それも「逃げ切り失敗」だと思うんですが、逃げ切れる人とそうでない人は何が違うのかというのが、最後の質問になります。

中野 逆転で負けた選手には申し訳ないですが、それは「面白い」現象ですね。つまり、2位以下の選手からしたら、黙っていれば上の人が勝手に自分の位置まで下りてきてくれるということですよね。

内藤 そういうことになりますね。

中野 普段のプレーができれば自分の位置がキープできる状況で、それができずに順位を落としてしまう人というのは、「リフレーミング」が下手なんじゃないかと思います。リフレーミングは、簡単に言うと「言い換え」ということなんですが、たとえば女子同士で集まっているときに、誰かの彼氏の写真を見て「いい人そう」と言うのは、本当はどういうことかということですね(笑)。

内藤 褒めてるけど、褒めていない(笑)。

中野 そうなんです。それと似たような感じで、残りホールが少なくなって、「あと数ホール逃げ切ればいい」と考えたときに、少しでも嫌な感じがあるとか、あるいは明確に苦手意識が芽生えるようなら、それを別のやり方にリフレーミングすればいいということですね。一番有効だと思うのはやっぱり、すごく具体的に「17番はパーで上がる」、「18番は最低ボギーで上がる」みたいに決めて、そのプランに沿って淡々とやるということですね。

内藤 もっと細分化して、「17番はまずフェアウェイにティーショットを打つ」という感じのプランをつなげていくのもいいかもしれません。私がコーチする中にも、昨年、終盤のホールでスコアを落として悔しい逆転負けを経験した選手がいて、そのとき、本人がどういうプランで打ったかはわからないんですけど、「どこでもいいからグリーンに乗せる」というはっきりしたものではなかったのかもしれません。

中野 そうかもしれませんね。それに加えて、試合のプレッシャーとかストレスに強くなる準備として、「自律訓練法」というのがあります。これはまず、自分がどういうときにストレスを感じるのかという例をできるだけたくさん集めて、それぞれにたとえば「100段階の○」といった形でスコアをつけて分類するんですね。それで、それが起こったときのことを真剣に想像して、呼吸などを使ってそれに対処する(緊張・興奮を静める)練習をするもので、認知行動療法の一種です。

内藤 ナショナルチームのスタッフの中に、そういう訓練を指導してくださるメンタルコーチがいらっしゃいますが、ナショナルチーム自体、集まる機会が少ないですし、その時に座学で教わったとしても、そのあと個人的にセッションを続けられるかどうかというのが課題ですね。

中野 歩き方を学ぶ場合、「気づいたらそうしている」レベルまで、歩き方を習得してやっと本当に歩けるようになるわけです。自律訓練もそれと同じで、やり方が身につくと、自分に押し寄せるストレスの波を「さざ波」レベルで防御することができるようになると思いますので、プロゴルファーの皆さんもぜひ取り入れてほしいですね。

リフレーミングとは?
物事の言い換え、考え方の変換
“reframe”は、直訳すると「(絵画などを)新しい額縁に入れる」ということで、物事の「見方(考え方、解釈)を変える」という意味。認知行動療法では、「認知再構成法」(コグニティブリフレーミング)が知られている

1999年、全英オープンでゴルフ史に残る大逆転劇

「カーヌスティの悲劇」

99年の全英オープン、ジャン・バンデベルデ(写真)は17番終了時点で2位に3打差の首位に立っていたが、18番を2度の「無謀な」プレーでトリプルボギーとし、プレーオフの末、ポール・ローリーに敗れた

プレッシャーに打ち勝つ対策
「ストレスレベルの系統的自己監査」

プレー中にストレス(プレッシャー)を感じる場面を列挙し、それをストレスレベル順に並べてみる。そのときどんな身体的症状が出るか(喉が渇く、手のひらに汗をかくなど)、それにどう対処したかを整理しておくことで対策がしやすくなる

週刊ゴルフダイジェスト2026年8月18・25日合併号より