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イライラ、ムカムカ、スコアぼろぼろ…ラウンド中に起こる“不機嫌の連鎖”を断ち切るための3つの対処法

ラウンド中、プレーの調子が良くない人が不機嫌になり、黙りこくったりしだすことで、組全体のムードが悪くなった経験があるという人は少なくないだろう。不機嫌が周囲に与える悪影響やその対策について、元プロ野球審判でメンタルアドバイザーでもある丹波幸一氏に聞いた。

ILLUST/Koki Hashimoto

解説/丹波幸一

1970 年生まれ。兵庫県西宮市出身。元日本野球機構 プロ野球審判員(1993年~2022年、通算出場2153 試合)。2012WBC、東京2020オリンピックでも審判を務めた。帝王學STR、個性心理學認定講師・認定アドバイザー。プロ・アマ問わずゴルファーへのメンタル指導も多い 

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  • ラウンド中、プレーの調子が良くない人が不機嫌になり、黙りこくったりしだすことで、組全体のムードが悪くなった経験があるという人は少なくないだろう。不機嫌が周囲に与える悪影響やその対策について、元プロ野球審判でメンタルアドバイザーでもある丹波幸一氏に聞いた。 ILLUST/Koki Hashimoto 解説/丹波幸一 1970 年生まれ。兵……

「4・7・8の呼吸法」で
心を切り替える

自分の機嫌を取るセルフマネジメントのポイントは3つ。

「まず、1つ目は呼吸で感情を整える、です。緊張しているときなどによく深呼吸をするよう言われますが、私は具体的に『4・7・8の呼吸法』として選手に伝えています。鼻から4秒息を吸って、7秒間息を止める。頭の中では、これから脳に酸素を送るイメージを作ります。そして、8秒かけて口から息を吐き切る。この呼吸法を普段の生活から実践してほしいんです」

ラウンド中、ちょっと気になったら深呼吸の要領で「4・7・8」を実践して切り替え。会社でも家でも「4・7・8」。「この呼吸法が心の切り替えスイッチ。何かあってもこれで切り替えられるし、自分で『スイッチがある』と思うだけで安心感も得られます」。また、丹波氏のおすすめは、寝る前の「4・7・8」だ。


「夜、寝る前に明日のいいイメージを頭に描きながら『4・7・8』。これを5分ぐらい繰り返してみてください」。瞑想のような効果が得られ、メンタルが整う。大事なのは「試合の前日だけではなく、毎日習慣化すること。あと、目は、寝る前なら閉じてもいいですが、どこか一点を見つめてください」

呼吸で感情を整える

緊張やイライラ、不機嫌で呼吸が浅くなる。「4・7・8」の呼吸法が気持ちの切り替えに有効

イライラしそうなときは
言語化する

応急処置的な「4・7・8」も効果があるという。ラウンド中にイライラやムカッとしそうなときは、木などどこか一点を見つめて「4・7・8」。これで気分が切り替わる。「私はプロ野球の審判を約30年務めました。5万人の観客の耳目を集める仕事で、ヤジもありますし、メンタル面では大変な仕事でしたが、『4・7・8』の呼吸法が、雑念を振り払うのに役立ちました。一点集中に関しては、球場ごとに『この看板』などと決めて、見るようにしていました」

野球なら攻守交代のタイミングがあるし、ゴルフは球を打っている時間より、待ち時間が長い“ 間のスポーツ”。そんなときに呼吸で心が整う。「『たかが息でしょ』という人もいるかもしれませんが、『息』という漢字を見てみてください。自らの心、と書くでしょう。緊張しているサインは『息をのむ』ですし、制御するのは『息を整える』『息を静める』、ほかにも、息をひそめる、息を合わせる、息が乱れる、息を吹き返す……など挙げればキリがありません」。息=メンタル、セルフマネジメントの基本のキだ。

2つ目は「今の感情を言語化する、です」。どういうことかというと「たとえば『俺、今、あの人にイラついている』などと言葉にするだけで、その感情は弱まるんです。言語化するのは自分を俯瞰して見られているということで、この“気づき”がマイナスの感情を弱めることにつながります」。もちろん、これを声に出し「あの人」に聞かれてはケンカになってしまう。ベストなのは、ノートなどに書くことだが、状況によっては口にしたり、スマホにメモして後でまとめるなどしてもいい。これで出来上がるのがゴルフノートだ。

「ただ、その日のスコアを書くんじゃなくて、ラウンド中にあった良かった点を中心に、そのときの行動や感情を書くんです」。最近では、ドジャースの山本由伸がベンチでノートを読んだり、何かを書いたりするシーンが話題となった。言葉や文字にする言語化で、自らを俯瞰し、自分の思考や行動パターンが見えてくるのがメリットで、「これも呼吸法と共に習慣化してほしいです」。言語化するうちに「こういうことにイライしやすい、というふうに自分のメンタルのクセがわかり、そういうシチュエーションを避けるなどの対策が取れるようになります」。

近くを見ていると
人のアラが見えやすい

3つ目は「特にゴルファーに意識してほしいこと」だそうだが……、「遠くを見ること、です。ゴルフは目からの情報が8割。そんなスポーツで近くばかりを見ていると、人の嫌なところが目に入るんです。するとイライラや不安感が募る」。そんなときこそ「遠くを見る」。ミスをすると人の視線はどんどん下がる。そんなときこそ上を向くこと。「例えば遠くの木を見ながら、呼吸は4・7・8。すると心が静まり、集中力が高まって葉っぱの一枚一枚がはっきり見え出すこともあるくらい」

拍子抜けするほど簡単なことだが、意外とできていないゴルファーが多い。「遠くを見ると気持ちが大きくなり、目の前のミスも『こんな小さいことに引っ張られてしまった』と思えるし、上を向くことは未来を向くことなので『よし、次』と思えるんです」。心理学では、下を向くことは「意識が過去に向くとされます」。すると、小さなミスを悔やんだり人のせいにしたりするようなネガティブなマインドになる。起きてしまったことは変えられないのでラウンド時は特に上を向くことを心がけよう。

遠くを見る

近くばかりを見ていると、他人のアラも目に付く。視線を上げることで意識が未来に向かう

以上3つが、自らが不機嫌になって「フキハラ」しないためのセルフメンタルコントロール3箇条。では、同伴者が不機嫌になり、自らが「フキハラ」被害者になった場合はどうすればいいだろうか。

これがラウンド中でないなら、相手と物理的な距離を取れば済む話なのだが、プレー中、つまり数時間は同伴者とは離れられない。「確かにこちらのほうが難しいんです。というのも“相手”は変えられない。変えられるのは自分の反応だけだからです」。不機嫌になり周囲にイライラした感情をまき散らしているような人がいたとして、その人に「イライラするのはやめてください」などと言っても何の解決にもならないどころか事態を悪化させてしまう。

「そこで立ち返るのがセルフマネジメント3箇条です。相手をコントロールできないのだから、自分の感情をコントロールするんです」。呼吸、言語化、視線の3つを意識して、心が乱されないようにしよう。

「この人はこういう人」
と認めてしまおう

それでも、どうしても「嫌な人がいる」場合。「相手を『受け入れよう』としないでください。受け入れるためには自分が我慢しなければならない。それはストレスです。そうじゃなくて『この人はこういう人なんだ』と明らかに認める……つまり諦めるんです。諦めるというのは否定的な感情ではなく、相手のことを認めるんです」。ラウンド中「この人スロープレーだ」「ネガティブなことばかり言うなあ」……だから「嫌だなあ」と思うのではなく「この人はこんな人」とはっきり(明らかに)認める。すると、意識が相手に向かず、自分に集中できるようになる。

「『言語化』の項目で、ゴルフノートを作れば自分のメンタルが把握しやすいとお話ししましたが、そうしなければ理解できないほど人の感情は複雑。ということは“いろんな人”がいるわけで、すべて理解したり受け入れようとするのは、時間の無駄なんです。スパッと諦めて、自分のプレーに集中しましょう」

あの人のフキハラを何とかしよう、ではなく、自分の心の持ち方を変える。ラウンド中ではなく、自宅や会社での人付き合いにも応用できそうだ。

週刊ゴルフダイジェスト2025年12月23日号より