40秒間息を止められる? 飛ばしのカギは“腹式呼吸”! 渋野のトレーナーおすすめの「呼吸トレ」やってみよう
飛距離を伸ばしたいと思うと、筋トレやスウィング改造を真っ先に思い浮かべるが、実は呼吸を意識するだけでも飛距離が伸びる可能性があるという。渋野日向子の専属トレーナー・斎藤大介氏に話を聞いた。
TEXT/Tomohide Yasui PHOTO/Tsukasa Kobayashi、Shinji Osawa MODEL/Rinako Kurokawa(GOLULU)
解説/斎藤大介
柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得。16年より米女子ツアー選手のトレーナーを務め、20年から渋野日向子の専属トレーナーとして活動。小誌で「らくトレゆるスト」を連載中
吐く力が大きいほど力を引き出せる
渋野日向子の専属トレーナー・斎藤大介氏によると、現代人は呼吸が浅いため、本来のパフォーマンスを発揮できていないのだという。
「人間の呼吸回数は1日2~3万回と言われています。生後間もない赤ちゃんは息を吸ったときにお腹が膨らむ理想的な呼吸ができています。ところが大人になると体が硬くなったりして本来の正しい呼吸ができなくなっているのです」
それを簡単にチェックできる方法があるという。
「最大限に息を吸って呼吸を止め、40秒以内で限界がくれば、呼吸は浅いと言えます。呼吸が浅いと肋骨が開き、胸が上を向きます。この状態をリブフレアと言いますが、肋骨は息を吸ったときに上がり、吐いたときに下がります。つまり現代人は、息を吸ってばかりで、吐くのが苦手なのです」
息を吐くのが苦手というのは、どういうことなのか?
「最近はアスリートでも風船を膨らませられない人がいます。そういう人は呼吸が浅いのです。空気を胸(肺)に入れても横隔膜を押し下げられないので胸式呼吸になっているのです。本来の呼吸は胸に入れた空気で横隔膜を押し下げ、お腹が膨らむ腹式呼吸です。腹式呼吸ができる人は安静時呼吸数が1分間で12回以下。一方、腹式呼吸ができない人は20回くらい呼吸します。それだけで疲労度は大きく変わりますし、パフォーマンスの違いとして表れるのです。渋野選手は私が見る前からお腹を使った呼吸ができていました。だからこそ、体幹が強いのです。テニス選手でも打つときに声を出しますよね。あれも腹式呼吸ができている証し。腹式呼吸はゴルフだけでなく、さまざまなスポーツで必要不可欠なのです」
スポーツに不可欠な「腹式呼吸」3つのメリット
●腹圧が上がる ●リラックスできる ●パワーが出せる
「ゴルフでもドラコン選手は打つときに大声を出しますし、テニスや卓球の選手も声を出しますが、声を出せるのは腹式呼吸をしている証し。それが自分の持つパワーまで引き出してくれます。さらに腹式呼吸はリラックス効果も期待できます」
「現代人は息を吐くのが苦手。お腹を使った呼吸が必要です」
現代人は息を吸ってばかりで、吐くのが苦手な人が多いという。「アスリートでも風船を膨らませられない選手は結構います。ストローを使って5秒吐くなど、まずは吐くことを意識しましょう。そうすれば呼吸も深くなっていきます」(斎藤)
ゴルフにつながる呼吸法とは?
お腹を使った呼吸を指導するとき、斎藤トレーナーは次のような取り組みを行っているという。
「呼吸が浅い人は多くの場合、息を吐くことができません。ですから、まずはお腹を使って息を吐くトレーニングを指導します。そうすると呼吸の総量も増えます」
息を吐くトレーニングとは、どういうものなのだろうか?
「吸った酸素をしっかり吐き切ることです。吐き切れば自然と次の呼吸に移行します。呼吸というのは本来、頑張って行うことではありません。ですが、呼吸が浅い人は頑張らないと息が吸えない状態になっています。思い切り吐くことで横隔膜の上下動を発生させ、呼吸を意識することなく最小限のエネルギーで次の酸素を取り込めるように指導していきます」
横隔膜の動きというのは自分でコントロールできるのか?
「横隔膜は焼肉でいう『ハラミ』の部分ですが、ドーム状になっていて、これもれっきとした筋肉です。その筋肉が硬くなったり、弛緩したりして動きが悪くなっているのです。それをトレーニングで改善します。横隔膜がしっかり上下動すると腹横筋というお腹の周りを包む筋肉に圧力がかかります。要するに腹圧が高まった状態になるのです。そうするとお腹がコルセットのようになり、軸の安定が生まれます。ですからお腹は前だけが膨らむのではなく、360度膨らむのが理想なのです。
人間は瞬間的に力を入れると腹圧が高まるという本能があります(お腹をパンチされるときの力の入り方)。だからこそ腹圧を高められる腹式呼吸が重要なのです」
さらに腹式呼吸はメンタル面でも大きな効果をもたらすという。
「人間は息を吸ったときに交感神経が優位になり、吐いたときに副交感神経が優位になります。ですからお腹を使って息を吐けるようになると緊張が和らぎ、リラックスした状態も作り出せます」
飛距離を伸ばしたいなら腹式呼吸による腹圧アップが効果的だ。
「多くの選手は吸ってテークバック、吐いてインパクトです」
吸う>>軸ができて安定する
「スウィング中の呼吸では、息を吸いながらテークバックすると腹圧が高まり、軸が安定します。多くの選手はこのタイプでしょう。軸が生まれることで体はやや回りづらくなりますが、再現性は高められます」(斎藤氏)
吐く>>腹筋が締まり力が出る
「理想でいえば声を出しながらインパクトしたほうが力は出ます。ですから息を吐きながら打つほうがボールは飛ぶはずです。ただ吐くタイミングは難しいといえます。コツは腹筋をキュッと締めるように短く吐くことです」
飛距離が伸びる呼吸トレーニング
Menu1
仰向けに寝てお腹を膨らませる
まずは仰向けの状態で腰に両手を当てお腹の膨らみをチェック。胸に空気を吸い込み、横隔膜がしっかり押し下げられるとお腹が前後左右に360度膨らみます。お腹が使えないとお腹の前側だけが膨らむはず
Menu2
うつ伏せに寝て背中を膨らませる
お腹の前側だけが膨らむ人は、うつ伏せに寝て大きく呼吸します。そうすると前側が床に押しつぶされていますから必然的に背中側が膨らみやすくなります。そのときの横隔膜の動きを感じると腹式呼吸のコツがつかめます
Menu3
体をねじった姿勢でわき腹を膨らませる
お腹の前側だけが膨らむ人は、体をねじった姿勢で大きく呼吸します。そうすると一方のわき腹が床に押しつぶされていますから必然的に逆側のわき腹が膨らみます。このときも横隔膜の動きを意識しましょう
Menu4
アップキャット&ダウンキャットで呼吸
背中を丸めたアップキャットで呼吸を行うとお腹に呼吸が入るのを実感しやすくなります。逆に背中を反ったダウンキャットで呼吸すると背中に呼吸が入るのがわかります。お腹を360度使い切ることで腹圧を高めましょう
週刊ゴルフダイジェスト2022年10月25日号より