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渋野もこれで飛距離アップ! スポーツ界の常識「ファンクショナルトレーニング」はゴルフでも超重要だった

米ツアーでさっそく結果を出している渋野日向子。その活躍の原動力が2020年から取り組んできた「ファンクショナルトレーニング」だ。いったいどんなトレーニングなのか、我々アマチュアにも取り入れることができるのか。渋野の専属トレーナー・斎藤大介氏が教えてくれた。

TEXT/Tomohide Yasui PHOTO/Osamu Hoshikawa、Blue Sky Photos MODEL/Rinako Kurokawa(GOLULU)

解説/斎藤大介

柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得。16年より米女子ツアー選手のトレーナーを務め、20年から渋野日向子の専属トレーナーとして活動。小誌で「らくトレゆるスト」を連載中

スポーツの種目に合わせた連動した動きを身につける練習法

ファンクショナルは直訳すると「機能的な」という意味。つまりファンクショナルトレーニングとは、身体機能を高めるトレーニングとなる。筋トレやストレッチと何が違うのだろうか?

「筋トレやストレッチは特定の部位をターゲットにして、その筋肉を強化します。それに対してファンクショナルトレーニングは『こういう動きがしたいから何かいいトレーニングがないかな』と考え、その動きにつながる身体機能を作り上げていくイメージです。発想が逆になります」

そう語るのは、渋野日向子の専属トレーナー、斎藤大介氏だ。斎藤氏によると、渋野は以前から筋力や柔軟性は十分に備えていたが、体の動かし方が効率的ではなかった。ポテンシャルはあるのにその力を生かし切れていなかったのだ。

「まずは持っている力を使い切りましょう、という段階からトレーニングは始まりました。最初の1年はファンクショナルトレーニングと筋トレの割合が8対2くらいでしたね」

「ファンクショナルトレーニングの成果が出ています」(斎藤)

【渋野日向子のドライビングディスタンス】
2021年(日本ツアー)245.28Y
2022年(米ツアー)266.70Y

2年間にわたるファンクショナルトレーニングで動きの連動性が格段に高まり、イメージ通りの動きができるようになった渋野。その成果が飛距離アップにつながっている


ファンクショナルトレーニングを続けていくうちに動きの連動性が高まり、イメージ通りに動けるようになってきたという。そのため現在は筋トレを増やしつつ、次の段階に移行中だ。

「トレーニングは自転車のギアにたとえるとわかりやすいのですが、渋野選手は3速でこげる体の強さを持っていたのに上手く自転車を乗りこなせない状態でした。そこで3速を使いこなすためのファンクショナルトレーニングに取り組んだわけです。今はギアを上げ、4速をこぐための筋トレを増やしています。その割合はファンクショナル3割、筋トレ7割の割合です。将来的には5速か6速までこげるようなポテンシャルを持っていると思っています」

ゴルフというスポーツは筋トレやストレッチが技術の向上に直結するわけではなく、ファンクショナルトレーニングのように動きの連動性を高めることが必要不可欠なのだ。その取り組みが効果を発揮していることは、昨季の日本ツアーから今季の米ツアーでの渋野の活躍ぶりを見れば明らかだ。具体的にどのような点がレベルアップにつながるのか、斎藤氏に詳しく解説してもらおう。

パフォーマンス向上のための3要素

【技術】スポーツに欠かせないテクニック
「10代から技術に特化した訓練を重ねるフィギュアスケートは、筋トレはほぼしません」と斎藤氏。技術要素が高い種目もあるのだ

【筋トレ・ストレッチ】各部位をピンポイントで強化
筋トレやストレッチは特定の部位の筋力や関節の柔軟性を高めるもの。基本はストレッチ>筋トレ>ファンクショナル>技術という習得過程となるが、ファンクショナルから始めても問題はない

【ファンクショナルトレーニング】各競技に合わせた動きの強化
ファンクショナルトレーニングはゴルフでこういう動きがしたいという目的があり、その動きに合わせてメニューが作られる。筋トレやストレッチとは発想が逆で、定番の動きやメニューもない

とくに大事なのが“運動連鎖”
しなやかに動けるかがカギです

渋野日向子は2019年シーズン終了後からスウィング改造に取り組んだ。だが、この改造に斎藤氏は一切関与していない。

「トレーナーは選手がどういうスウィングを作りたいのか方針が決まっていないと、正しい動きに導くことができません。逆に方針さえ決まれば、何でもできます」

つまり斎藤氏は渋野が目指すスウィングに合わせてファンクショナルトレーニングのメニューを考案した、という流れになる。

「ファンクショナルトレーニングには大事なポイントが3つあります。いちばん大事なのは“運動連鎖”です。筋電図で計測すると筋肉がどういう順番で動くと効率的かがわかります。その鉄則は下から上に、中心から末端に動くことです。ゴルフは地面を踏むスポーツなので下から上に動き、中心(体幹)から末端(腕や手)に動いてクラブに力が伝わるのが基本です。ですから腕や手が先に動くのは順番が狂っているわけで、効率的な動きとはいえないのです」

上半身から始動するアマチュアは、下半身から先に動くのが基本と聞いてドキッとするはずだ。

「それと稼動させる部位と稼動させない部位を分離させて動かすことも大事です。この動きができないとスウィング中に軸がブレて、バランスが崩れてしまいます」

これもアマチュアに多く見られるエラー動作のひとつだ。

「最後のポイントがアクセルとブレーキです。専門用語ではアクセルを求心性収縮、ブレーキを遠心性収縮といいます。アクセルは筋肉が縮みながら力を出す状態で、ブレーキは筋肉が伸びながら力を出す状態です。運動連鎖、バランス、ブレーキ&アクセルの3つの能力が高まることで、理想的なスウィングになるのです」

ゴルフに不可欠な身体能力は3つある

(1)バランス……アドレス・フィニッシュ
安定した姿勢で動き続けられるか

ファンクショナルトレーニングによって稼動させる部位と稼動させない部位(動かさない部位はひじ・ひざ・腰・首)を分離させて動かせるようになる。ブレないアドレスやフィニッシュは軸のキープがベースなのだ

(2)運動連鎖……トップ
さまざまな関節と筋肉を連動させられるか
ゴルフは足で地面を踏むスポーツなので運動連鎖は下から上につながり、中心から末端につながるのが鉄則だ。筋肉と関節の動く順番が整うことで体がイメージ通りに動かせる(トップの位置が安定)

(3)ブレーキ&アクセル……ダウンスウィング・インパクト
ためたパワーを効率よく伝達できるか

ダウンスウィングの初期は筋肉を縮めながら力を発揮するのでアクセル。その後、筋肉を伸ばしながら力を発揮するブレーキ(遠心力に耐える形)に移行。この動きを覚えるとパワー効率が飛躍的に上がる

【ファンクショナルトレーニングの効果
ケガの予防・姿勢改善・パフォーマンスアップ

筋肉が動く順番が整うと運動効率が上がり、パフォーマンスアップにつながる。また、動きがしなやか(スムーズ)になることで、ケガを予防したり、姿勢を改善したりする効果も期待できる

>>斎藤トレーナーおすすめ!
ゴルフに効くファンクショナルトレーニングとは?

週刊ゴルフダイジェスト2022年5月10・17日合併号より