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【世界基準を追いかけろ!】Vol.112「ハリントン復活の陰に50歳からの“メンタル”強化」

目澤秀憲と黒宮幹仁。新進気鋭の2人のコーチが、ゴルフの最先端を語る当連載。今回のテーマは、トッププロのメンタルコントロールについて。

TEXT/Masaaki Furuya ILLUST/Koji Watanabe

前回のお話はこちら

GD 全米シニアオープンで優勝したハリントン(※1)は、メンタル面の強化をしたことが成果となって表れたそうですが。

目澤 メンタルトレーニングは以前も少しやっていたみたいですけど、ボブ・ロテラ(※2)の指導で本格的にやり始めたようです。その結果、成績が安定し、今年はチャンピオンズツアーで3勝しています。

GD 彼の場合、どのようなことをやったのですか。

目澤
 試合の時に湧いてくる、スウィングや打っていくホールロケーションに対しての不安や恐怖に対し、それとどう向き合い、どうコントロールしていくかをじっくり考えたみたいです。そういう状況下で、自分はできるという自己肯定感を持つことによって自己コントロールができるようになったと、インタビューで言っていました。

GD その結果、どういった成果があったのですか。


目澤 先ほど言った成績だけでなく、飛距離にもいい影響があって、以前のボールスピードが171マイルだったのが今では180マイルも出るようになったといいます。

GD 同じ全米シニアに出ていた塚田好宜が、「自分は手前に刻んだ280Yのクロスバンカーをハリントンはスプーンで軽々と越えていた」とコメントしていたのを覚えています。PGAツアーでもメンタルトレーニングをやっている人は多いですか。

目澤 クリス・コモ(※3)が、「ゴルフの将来」というテーマでインタビューを受けていた時に、「選手は肉体的な成長とともにメンタルの成長も大事になってくる」というコメントをしていました。彼が見ているブライソン(・デシャンボー)は、以前やっていたフォーカスバンド(脳波を測って脳と心のバランスを鍛える器具)より、さらにメンタル面に特化した脳波の測定などもやり始めているみたいですね。

GD 効果は出ているんですか。

目澤 ブライソンは最近ドラコンに挑戦していますが、試合場で流れる大音量の音楽は精神面をアップさせることに影響があると言っているみたいです。

GD 大きな音が鳴っているほうが、ドラコンでは良い結果が出るわけですか。

目澤 自分を鼓舞させるためにラップの言葉や音楽を見たり聞いたりすることで、パフォーマンスのアップにつながるというのがあるみたいですね。

GD ハリントンのケースは「不安を感じた時に自己肯定感を醸成し気持ちを落ち着かせるイメージ」ですが、デシャンボーの場合は「闘争心をかき立てる言葉によって気持ちをさらに上げていくやり方」という感じがしますね。

黒宮 稲見萌寧のキャディを何度かしましたが、彼女はそういう気持ちのコントロールがすごく上手いですよね。練習の時は自分に対してハイクオリティを求めますが、いざ試合になると、良い結果に対しては素直に評価し、悪い結果に対しては、「でも自分は頑張った」と納得させる。絶対に気持ちを落とさないようにすることができるから、23歳で12勝もできているんだなと思いますよね。

(※1)パドレイグ・ハリントン……アイルランド・ダブリン出身。07、08年に全英オープンを連覇、08年には全米プロでも優勝。2022年全米シニアオープン選手権で米シニアツアー初優勝し、その後、同ツアーで2勝を挙げている。(※2)スポーツ心理学者で、トム・カイトやニック・プライスなどに影響を与えゴルフ界にメンタルトレーニングの重要性を広めた第一人者。(※3)2014年から3年間、タイガー・ウッズのコーチを務める。2018年からブライソン・デシャンボーのコーチに就任

目澤秀憲

めざわひでのり。1991年2月17日生まれ。日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。2021年1月より松山英樹のコーチに。2022年レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞

黒宮幹仁

くろみやみきひと。1991年4月25日生まれ。10歳からゴルフを始める。12年関東学生優勝。日大ゴルフ部出身。淺井咲希、宮田成華、岩崎亜久竜らを指導

週刊ゴルフダイジェスト2022年11月22日号より