【ゴルフの、ほんとう】Vol.739「“4日間72ホール”というのは本当によくできていると思います」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
先日、石川遼選手が「今はアマチュアでも2日間ではなく4日間の大会が増えたので、プロの試合でも活躍できる選手が増えた。2日と4日では戦い方が違う」とコメントしていました。何がどう違うのでしょうか?(匿名希望・44歳・HC2)
若いアマチュア選手が、プロを差し置いて優勝するシーンも最近はめずらしくなくなりました。
古くは1973年のトヨトミレディスで、当時アマチュアでプレーしていた清元登子さんが優勝。
1980年の中四国オープンでは、倉本昌弘選手が男子ツアー初のアマチュアでのツアー優勝を飾りましたが、その後こうした快挙は眼にすることができませんでした。
ところが、女子では2003年のミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンで、東北高校3年生だった宮里藍さんが30年ぶりのアマ優勝。
男子では2007年のマンシングウェアKSBカップで、当時15歳だった石川遼選手が27年ぶりの大仕事を達成すると、それ以降は2011年の松山英樹選手が太平洋マスターズで、2014年の勝みなみ選手がバンテリンレディス、2016年の畑岡奈紗選手が日本女子オープンでの優勝があり、2018年からは毎年一度は男女どちらかでアマチュアVが達成されています。
2019年には古江彩佳選手が1カ月後に行われるプロテストに挑む直前にツアー優勝をしてテストを免除され翌年にはプロとして参戦して活躍しています。
アマチュア優勝の先輩でもある石川遼選手が「今のアマは4日間の大会に慣れている」と証言しているのは印象的です。
アマチュア時代から現在につながる競技日程が当たり前になってきたということなのでしょう。
実際、わたしがプロ入りした1970年代までは、女子トーナメントの多くは2日間大会が少なくありませんでした。
もっとも歴史の長い公式戦「日本女子プロ選手権」でも、創設された1968年の当初は1.5ラウンドずつを2日間プレーするスタイルだったと聞いています。
同年にスタートした「日本女子オープン」は2ラウンド2日間開催が2年間続き、1970年から3ラウンド3日間大会に。日本女子プロ選手権が3日間になるのは1972年になってからです。
1970年の創設で、スポンサートーナメントのパイオニアともいわれる東海クラシックは、82年大会までは2日間開催でその最後の大会ではわたしが優勝を飾りました。
その後、女子ツアーでも80年代の半ばには3日間、USLPGAでは4日間大会が増え始め「4日間72ホールズ」で行うのが基本となっていきました。
いまや女子トーナメントのほぼ半数が4日間トーナメントになっています。
長年トーナメントでプレーしてきて思うのは、1ラウンド18ホールズ4日間72ホールズを通して戦うという設定が実によくできていると感心するところです。
ゴルファーの総合力を余すことなく試すには、ちょうど良いボリュームじゃないかしら。
2日間ではたまたま調子のいい選手が走ったままの結果に終わることが多く、3日間でもその傾向は否めず、逆に試合が5日間以上に及ぶと、限度を超えた過酷さが選手の集中力を極度に低下させてプレー内容を貧しくしてしまう。
短すぎず長すぎず、最高の緊張状態を作り出せる──。
その4日間の条件も慣れることができる、とは思います。
初めて経験する選手と、そうでない選手の差は大きいですが、経験しているからといって、各日プレー内容を変えるといった制御が簡単にはできるとも思えません。
体力配分に留意するにしても、コース上で出合う突発事態を事前に想定しておくわけにもいかないのですから。
勝負はその場で対処する自分を準備段階で作っておくべきで、日程の条件の違いにかかわらず、あらゆるケースに動じない体力を備えておくことです。
ピンチに陥っても動じない気持ちを普段から磨いておく。
どんなライにも対応できるテクニックを練習しておく。
この準備勝負に尽きます。
そういう意味で、戦ううえでの優先順位は「体・心・技」でしょうか。
3日か4日の慣れもあるかもしれませんが、どんな状況でも対応できる体力と心の準備ができているかということです。
「4日間競技ということは“72”ホールですよね。よくできていると思います(笑)」(PHOTO/Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2022年11月1日号より