【ゴルフの、ほんとう】Vol.731「決めたことはブレずにまっとうする。渋野選手の意志の強さを頼もしく感じました」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
今年の全英女子オープンは、初日にトップに立った渋野日向子選手が、最終日の息詰まる優勝争いを演じる素晴らしい戦いでした。岡本さんはどうご覧になりましたか?(匿名希望)
今大会は、日本から過去最多12人のプレーヤーが挑戦することでも注目が集まりました。
USLPGAツアーから畑岡奈紗、笹生優花、渋野日向子、古江彩佳選手の4人と国内ツアーから西郷真央、西村優菜、山下美夢有、勝みなみ選手ら7人のプロと、アマチュアの橋本美月さん(東北福祉大2年)を加えた12人。
2週前にフランスで行われた今季メジャー第4戦、エビアン選手権で世界のメジャーに初挑戦した西郷さんが3位タイに食い込んだり、その翌週の全英前哨戦・スコットランド女子オープンでは、古江選手が最終日に大逆転で見事LPGAツアーのルーキーイヤーに初優勝を飾って全英での活躍の期待を盛り上げました。
また、初めてミュアフィールドで開催されるとあって注目度はいつもより格段に上がっていました。
というのもミュアフィールドは、1744年の創立から250年以上も男性オンリーを通してきたクラブ組織です。
それが2017年3月ついに規定変更を実施して女性への門戸を開放することになり、今年の全英女子オープン開催が実現。このことはそういう変化の象徴といっていいのかもしれません。
さて本大会は、初日から渋野選手が飛び出したのは、正直うれしい驚きでしたね。
それまで2週連続予選落ちで、決勝ラウンドでのプレーは6月上旬、上位進出となると4月頭にまでさかのぼらねばなりません。
初日を6アンダーとして単独トップに立った彼女自身、半信半疑のようでもありました。
ただ、2日目を2オーバーと後退するも耐えた姿を見て、わたしはむしろ彼女の成長を感じました。
3年前の全英優勝以来、スウィングの改造やLPGAツアー挑戦で思うように結果が出ないことなどについて、さまざまな声が浴びせられてきたのは、みなさんもご存じだと思います。おそらく心穏やかでなかったのは想像に余りあります……。
それでも彼女は、不本意なプレーの後のマスコミにも対応してきたし、彼女なりの言葉で自分のいまの状態を表現しようとしてきたと思います。
その悪戦苦闘のなかで、必ず何かつかむもの身につくものがあった。そんな気がします。
彼女は、彼女独特の口調で「ゴルフは日替わりです」と言っていましたが、それはそのとおりです。
シンプルに考え無理に思い詰めたりしない覚悟のようなものもうかがえます。
ミュアフィールドは、ティーショットをポットバンカーに入れないことが必須のセオリー。
渋野選手は、そのことに絞ってプレーしたように見えたし、見事にそれを実行しました。
そのことにわたしは感心しました。
確かに特有の存在感や持っているものはある。
そして、スウィングがどうこう言われても、自分が決めたことはブレずにまっとうする。その意志の強さを頼もしく感じました。
久しぶりに彼女らしい笑顔が見られたのも本当によかった。
そして、渋野選手の奮闘のみならず、予選を通過した4選手はみんな、ミュアフィールドの冷たく強い風の中、伸び伸びとプレーしていたと思います。
とくに初々しかったのは山下選手のキレのあるゴルフ。
難しくて迷ってしまいそうな状況でも、臆せずきちんとスウィングすることで立ち向かっていこうという姿勢が見え、帰ってきてからのプレーぶりが楽しみです。
72ホールにとどまらずエクストラ4ホールのプレーオフまで、わたしは4日間、毎日7時間以上もゴルフネットワークの放送席で口を動かし続けたわけですが、いい試合だったし面白かったです。
ミュアフィールドで開催された初めてのナショナルオープン。ブハイ選手のマークした3日目の64がコースレコードとして記録される。
ゴルフの歴史というのは、前例がないこういうところから始まっていくものだなともしみじみ感じました。
ロレックスポイントの世界ランキングで出場資格を獲得できるようになり、国内ツアーでのがんばりだけでも世界への道が開かれるようになった。
わたしがLPGAツアーに挑戦し始めた1980年代の初めごろにいずれはそうなると思われていた時代がいま到来しています。
表彰式のあいさつで、R&Aは女子ゴルフのますますの発展について抱負を述べていました。
わたしはそれを耳にしながら、日本からは今後さらに多くのプレーヤーが世界を目指すようになるだろうと確信を深めていました。
「仕事もゴルフもやり切っていますか?」(PHOTO/Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より