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30代女子プロ本音トーク<前編>有村智恵×原江里菜「体、心、家族…ゴルフ以外で考えることが増えた」

若手の活躍が目立つ女子ゴルフ界。ベテランと呼ばれるようになったプロたちも多くを経験し、人生の選択をし、進化し続けている。そして今回、30歳以上の女子プロが自ら輝くための新しい大会、「KURE×LADY GO CUP」が創設された。出場した4人のプロに、ゴルフや心身の変化と不安、そこに対峙する術、そして今後のことを語ってもらった。

PHOTO/Shinji Osawa THANKS/取手国際GC

原江里菜(左下)……87年生まれ、愛知県出身。東北高校・東北福祉大卒業後、08年プロ入り。ツアー2勝。独身を謳歌してはいないと笑う。「すごく慎重なので結婚は勢いがないとできません」
有村智恵(右下)……87年生まれ、熊本県出身。東北高校卒業後、06年プロ入り。ツアー14勝。13年から米ツアーにも参戦。昨年末結婚。「家族が幸せなのが一番だと感じています」

――まず話を聞いたのは、高校の同級生で親友の有村と原。今大会の発起人でもある。

有村 今回はまず、こういう大会があったらいいねと、いろいろな要素を詰め込みました。そして純粋にこういうメンバーで試合ができたら楽しいというのが一番のモチベーションでした。

原 私たちよく2人でセカンドキャリアを語り合うんです。そのとき、(若林)舞衣子たちが子育てしながら出るのはすごいとか、大山(志保)さんみたいに長くできるのもすごいという話をする。昔は、あの選手強いよね、勢いがあるよねという話しかしてなかったのに、選手が人生設計をどう組み立てているかを見るようになって。そんななか、今まだ現役のうちに何か動いてやりたいねって。最初は完全に夢物語だったんです。

有村 最近私たちの周りで、引退される方、(宮里)藍さんや諸見里(しのぶ)さんなど、が増えてきた。その方々とゴルフするときは真剣勝負したりしてやっぱり楽しい。そして自分も子どものことを真剣に考え始めたとき、今までは自分が頑張れば復帰できると思っていたけど、協力してくれる人がいないと絶対に無理で、逆にそういう環境がそろっている人は多くないし、皆さん試合に出ない選択をとらざるを得なかったんだと現実を理解するようになった。最近よく持続可能な社会を目指すと言われますよね。女子プロゴルファーにも、ずっと働き続ける場を何か作れないかと。30歳以上向けの試合を企画してみようと話を始めたのが昨年くらいです。

原 スポンサーさん探しなど、周りも協力してくださって。今回の形が絶対ではなく一つのモデルとして実施しました。私は30歳になったとき、自分のなかにすごく変化があった。次は何がやれるのかって。今は若い選手たちにどんどん注目がいく。でも私たちもこんなに発信したいことがあるんだと聞いていただく機会もあればいいなと。それにしても、今の若い選手は全部上手い。飛距離だけではなくパターなんかも上手いよね。

有村 私たちがジュニアのときって、今みたいに自分のスウィングをスマホで撮って客観的に見られなかった。世界の選手のスウィングもゴルフ雑誌などでしか情報は得られなかったし、自分でレッスンプロを探しに行く以外に選択肢がなかった。でも今の選手は、この軌道でこう動くといいスウィングになるという正解がしっかり見えて教わってきているので、あまり癖がない。成長のスピードが速いんです。私たちや少し下までは、独学で感性だけでたくさん球を打ってきたので、癖も出てしまう。

原 高校生の頃は、お互い見合ってたよね(笑)。

有村 ここ、どうなってるか見てって(笑)。

原 それに、いい意味でなめてかかる感じ。私たちも若い頃はあんなふうだったんだろうなって。

有村 怖いものがなかった。30代に突入したらゴルフ以外に考えないといけないこともすごく増える。体のこともそうだし、悩みが増えてきて、純粋に練習だけに時間が割けない。

原 ゴルフはかなり変わるよね。


「試合をやること自体が楽しい
と思えるようになった」

有村 何でこんなことが起きるんだろうということが、本当によく起きる。ミスもそうだし、若いときは“調子がいい感じ”が結構長く続いてたんです。1カ月とか、最低でも1週間とか。でも最近はハーフで変わったり。

原 それ、年齢のせいなの?

有村 年齢のせいだよ。

原 よかった。私ずっと、自分がすごくダメになったんだと不安になってて。昨日はよかったのに、今日はなんでこんな感じにって。

有村 その感覚の変化に気づけないこともある。だから本当に日々探っています。今までは対策すれば対応できると思っていたけど、次々にわからないことが起きるので、こういうときはこうだというのを自分のなかにインプットし続けて。でも進化していると思う部分もたくさんあります。

「体を整えるのに時間をかける」

「ケアや準備にすごく時間をかける。若いときはもっと練習できてたのにと思います」(有村)

原 私は行く先々で、きちんとしたものを食べられる場所と大きなお風呂を探すのが習慣になった。それに、前は試合が終わってマネジャーさんやキャディさん、選手同士でご飯を食べる時間も多かったけど、一人の、自分に向ける時間がすごく増えたなと思う。

有村 それはいいことでもあるよ。いつからか、結果は残したいけど、試合をやること自体が楽しいと思うほうが強くなって。若い選手を見ていても、この子上手いなあとか、可愛いなとか、ちょっとスカート短くないかとか(笑)。

原 それはおせっかいだよ(笑)。そういえば結婚する前、「江里菜、私結婚していいかな。でも今ゴルフの調子が悪いから、こう思うのかな」と相談されたよね。まず「結婚、早くない?」と答えたら、「相談する相手間違えた」って(笑)。

有村 どんどん足を引っ張ろうとする。まだ行かないでーって(笑)。

 でも最終的には、それくらい自分の心が痛んでいるときじゃないと、あなた結婚しないから、もう結婚したらって。

有村 藍さんたちに聞いても、江里菜の言う通りだって。皆が私のことそんなふうに思っているんだって知りました。

原 結局、後押ししたのは私で、置き去りに(笑)。でも実際はたぶん智恵ちゃんのほうが結婚は必要ないんです。私は一人を謳歌しているように見えるかもしれないけど、楽しいことや美味しいものなど結構いろんなことを人と共有したい。でも智恵ちゃんは本当に何でも一人でできるんです。

有村 生活は特に変わらないですが、取材などで家族や夫婦の話を聞かれる機会が増えて、それが逆に新鮮で。今までは恋愛話なんてメディアの方とすることもなかったし。だから、家族について考える時間が増えたんだと思います。

 私も結婚はしたいんですよ。でも今じゃないかなって思っています。まあ、結婚しなくても、子どもがいなくても幸せな人もたくさん見てきているので。直感でそのときに選べたらなと。

有村 そうだと思う。でも半年後いきなり結婚したりして(笑)。

原 たぶんない。智恵ちゃん、掃除とかは全部旦那さんだよね。

有村 物理的に支えてもらっています。家に帰ったら、洗濯もの出して! と言ってくれたり。もともとそういう人なんです。だから私もきちんと頑張らなきゃって。

原 智恵ちゃんの家がきれいなのは旦那さんのおかげだね。

有村 ははは。でも子どもに関してはいろいろな話を聞くけど、授かること自体も、出産も、一人の子どもを育てるのもすごいこと。そのなかで試合に復帰するのはどんな世界だろう。未知です。でもママゴルファーの発信力や存在がすごくいい方向に働いているなと。私たちも関係ないことではなくて後押ししていきたいし、いろいろな形の選択を応援したいです。

原 独身代表として頑張ります。

「自分でできるケアを考える」

「若いときはシャワーだけでよかったけれど、今はサウナを探して水風呂に入って」(原)

「私みたいになりたいと
思ってもらえるように」

有村 でも私、今のほうがゴルフは楽しいかもしれない。

 私は「やめたら負けだ」と勝ち負け的に考えてるから、智恵ちゃんよりは楽しくないです(笑)。

有村 苦しいことも多いんですけど、こんないい職業ないと思うんです、ただ毎週ゴルフして。

原 藤井かすみさんも同じことを言ってた。毎週給料日だと思って行ってたと。智恵ちゃんはたぶん、「ゴルフがなかったら私には何もない」と思って生きてるんですよ。

有村 ああ、それはそうかも。

原 ゴルフという加点がなかったら私たちには何もないからねって。

有村 本当にゴルフのおかげでこのポジションにいると思ってます。

 智恵ちゃんの今の目標は?

有村 最近、目標を聞かれると難しく思ってしまう。ゴルフだけだったら優勝したいとか、ずっと何年も試合に出たいと言えるけど、たとえば子ども……は自分が頑張ればという話ではない。だから目標ではなく夢としては、自分の子どもが見ている試合で優勝したいという、昨年の舞衣子みたいなのは夢としてあります。でもそれよりやっぱり健康第一、かな。

原 はははは。私はずっと藍先輩とかいろいろなロールモデルを見てきて、自分がこうなりたいと思ってきたので、だれか一人でも、私みたいになりたいと思ってもらえるような人生を、それが人から見たら大したことのない人生でも、頑張っていきたいですね。

有村 女性にもいろいろな選択肢があるから。この試合にしても、もっと多くのプロに参加していただきたいですし、私たちが続けていくだけでなく、たとえば全国各地域で、そこに住んでいる女子プロが20人くらいの試合でもいいからやってみるという動きにつながらないかなって。少しずつ全体が動き始めたらいいなと思います。

サステナブルな女子プロ界に
「楽しかった。どんどん広がっていくといいですね」

今回の「KURE×LADY GO CUP」は9ホールのペアマッチ。賞金556万円をゲットしたのは黄色のウェアでそろえた服部真夕と一ノ瀬優希。「30代以上の選手にスポットを当てていただき感謝しかない。今後の人生に悩むこともすごくありますけど、この新しい大会に出られる機会があるだけで恵まれている。今後もずっと続いてくれたらいいですね」(服部)「一児の母となりなかなか練習できない。30代は体力が落ちたり精神的にもきつかったり。でも大好きな服部先輩とペアを組めて、3組6人で楽しく回れてよかったです」(一ノ瀬)

>>後編は若林舞衣子と菊地絵理香!

週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より