Myゴルフダイジェスト

【わかったなんて言えません】Vol.93 藤田寛之#4「公園で出会った謎のおじさんから…」

「ゲンちゃん」こと時松隆光がプロを招いてトークをする連載「わかった! なんて言えません」。今週のゲストは、前回に続き藤田寛之プロ。飛距離に対する考え方について、2人には共通する部分があるようで……。

ホスト/時松隆光

1993年生まれ、福岡県出身。ツアー通算3勝。プロ10年目。テンフィンガーグリップで戦う。愛称は“ゲンちゃん”

ご指名/藤田寛之

1969年生まれ、福岡県出身。92年プロ入り。ツアー18勝。43歳にして賞金王を獲得。ゴルフと自分に向き合うストイックな姿勢も皆の尊敬の対象

前回のお話はこちら

時松 藤田プロの場合、ツアーで戦っていくなら、最低このくらいは飛ばさないと、という基準があるとうかがいました。

藤田 自分のなかでは、最低キャリーで260ヤードはほしいと思ってる。いちばん飛んでいたときは、270ヤードのバンカーは越えるという時期もあったんだけど、だんだんそれが265ヤードになり、260ヤードになり。ちょうど今日、トラックマンで計測してみたら、260ヤードギリギリで、やばいなって思った(笑)。

時松 ヘッドスピードは?

藤田 48m/sはほしいよね。キャリー260ヤード、ヘッドスピード48m/sが、自分のなかの数字的な基準にしてはいる。レギュラーで戦うためには、それがダメになったら厳しいと。

時松 僕も藤田さんと同じタイプなので、同じ基準の感覚です。300ヤードっていうのは、もうホント、憧れの世界です。数字としてキリがいいから、いつか到達してみたいんですけど、どれだけ振っても、僕は290ヤードが精一杯なので、やっぱり憧れ(笑)。トレーニングしたとしても、そこまで飛ばせるか……。


藤田 もともと足が速い人っているじゃない。50メートル走で6秒台とか。それに対して、もともと遅い人もいて、まあ、10秒は切れるかもしれないけど、6秒台で走るのは大変だよね。ゴルフにおける飛距離も、そういう話なのかなと。技術的、肉体的に、いくら努力してみたところで、元来の飛ばし屋たちには勝てっこない。だからといって、努力せずにいられないけれどね。

時松 野球の投手も、球の速い人はもともと速いと聞きますもんね。

藤田 そう、だけど野球の投手でいえば、もともと球速が速い人もいるけど、そういう人って、コントロールが悪かったりもする。逆に球速は遅いけど、コントロール勝負で生きている人もいる。僕は、それはゴルフにも言えると思っているんだ。

時松 なるほど。飛距離か、コントロールか、ですね?

藤田 うん。飛距離がすごくて、アプローチやパターもめちゃくちゃ上手い、そんなふうに両方を武器に持っている人、意外といないよね?

時松 言われてみると、そうかもしれないっす。

藤田 誰かいる? 池田勇太か! 源ちゃんをかわいがってくれているその名前を出しておかないと(笑)。

時松 はい!(笑)。それと、石川遼さん。ショットもいいですし、アプローチもいい。

藤田 なるほどね。ただ、それくらいしか、名前がすぐに挙げられないかな。だから、源ちゃんは、アプローチやパターが上手いほうのタイプなんだよ。

時松 飛ばしもというのは、ないものねだりなんでしょうね。

藤田 ゴルファーって、そのないものねだりをしてしまう存在だよね。ただ僕が思うのは、飛ばしの才能ももともと持って生まれたものかもしれないけれど、コントロールの才能も、そうなんじゃないかってこと。

時松 アプローチやパターの才能も、持って生まれたもの?

藤田 僕はそんな気がしている。源ちゃん、ゴルフは何歳からやってるの?

時松 5、6歳です。親父がめっちゃやっていたんで。

藤田 ショートゲームは好きだった?

時松 好きでした。練習場で球を打つのはお金かかりますけど、アプローチやパターはタダなので、そればっかり(笑)。

藤田 僕もそうなんだよ。近所に公園があって、小学生の頃から毎日打ってたんだ。好きなことは苦にならないから。

時松 確かに、飽きなかった。

「小学生くらいのときは、打ち方なんてよく考えていない。大人を見たまんま、楽しいからその真似をしてずっと遊んで。上げるとか、転がすとか、楽しいと思えたことがよかったかな」(藤田)

藤田 ある日、その公園に見知らぬおじさんが来た。「公園で球なんか打って」と怒られると思ったら、「クラブ貸せ」と。そのおじさんが土に線を引いて、「この線の左側を削って、線を全部消していけ。こうやるんだ」って後ろ姿で手本を見せてくれたんだ。

時松 それで……?

藤田 真似して線の左側を削っていく練習を、その日以来ずっとやった。それでかなりアイアンの技術が磨かれたと思う。

時松 そのおじさん、それ以来どうしました?

藤田 そのおじさんが現れたの、その日きりなんだよ。

時松 えっ、その日きり? その練習のおかげで、藤田プロが誕生するわけですよね。まるで「ゴルフの妖精」?(笑)。

藤田 でもその線を消す打ち方でドライバーを打ってみたら、テンプラしか出なくなっちゃって(笑)。

時松 話にオチまでついているじゃないっすか(笑)。

週刊ゴルフダイジェスト2022年8月23・30日合併号より