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優勝賞金はついに4億超え! なぜPGAツアーは成長し続けられるのか? トーナメント部門トップを直撃

日本男子ツアーが試合数減少に苦しんでいるなか、アメリカのPGAツアーは、その規模が拡大の一途を続け、賞金総額もかつてないほどに膨れ上がっている。一体、この差はどこにあるのか。PGAツアーのトーナメント部門トップ、アンディ・パズダー氏に独占インタビューを行った

TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Tadashi Anezaki、KJR

ザ・プレーヤーズ選手権の最終日18番ホール。ギャラリーの多くは優勝争いのキャメロン・スミスを撮ろうとスマホを掲げている。日本ではありえないシーンだ

アンディ・パズダー氏

PGAツアーのトーナメント部門責任者、アンディ・パズダー氏。後ろの建物はTPCソーグラスのクラブハウス

――今年3月に開催された、「ザ・プレーヤーズ選手権」の賞金総額は、PGAツアー史上最高額の2000万ドル(約25億6000万円)、優勝したキャメロン・スミスは、たった1試合で360万ドル(約4億6000万円)を手にした。近年、ツアー規模を拡大し続けているPGAツアー。何が、それを可能にしているのだろうか。

近年のPGAツアーの成功には、いくつもの要因がありますが、やはりプレーヤーの充実という点が大きいでしょう。今週(3月7日時点)、世界ランクのトップ50が、すべてPGAツアーのメンバーとなりましたが、これは過去になかったことですし、同時に、トップ5が全員30歳以下のプレーヤーとなったことも、これまでになかったことです。強くて、しかも若いメンバーが毎週、熱戦を繰り広げることで、ツアーの価値を高めてくれているわけです。

私たち運営側の仕事は、ビジネスとしてのPGAツアーを拡大して、それをプレーヤーの賞金として還元すること。ツアーは今年、メディア各局と新たに2030年までの契約を結び、これまで同様、アメリカ国内のテレビ中継、日本を含む海外での放送、インターネットを通じた世界への映像配信などを行っていきます。メディアから得られる放映権料に加え、100を超えるタイトルスポンサー、それとは別のカテゴリーの、企業マーケティングパートナーなどの協力を得て、今後もツアーを成長させていける体制が整ったといえるでしょう。

さらに忘れてはいけないのが、ツアーの活動を支えてくれる、地域との結びつきです。PGAツアーは、様々な形で地域貢献のためのチャリティを行っていますが、今年はその総額がおよそ36億ドル(約4650億円)になる見込みとなっています。

試合中のスマホ撮影を解禁

――ツアーの発展には、ファン層の確保と新規獲得が欠かせない。どんな取り組みをしているのか。

ゴルフは長く「富裕層のスポーツ」というイメージがあり、それが足かせとなって、クリエイティブなアイデアを妨げていました。私たちは、そうした見えない壁を取り除いて、「これまでなら気づまりとなった状況もいいと思える」改革を進めています。そのひとつが、ファンによるトーナメント中の写真や映像撮影の解禁です。ただ撮影を許可するだけでなく、撮影した素材を個人のSNSなどで発信することにも制限を設けていません。いわゆる“インフルエンサー”が、映像を拡散することによって、ツアーの認知度がアップするのであれば、そのほうがメリットが大きいからです。日本では、法律的な規制でスマートフォンカメラの撮影音を消すことができないそうですが、その点はとても残念なことだと思います。

また、プレーヤーも、トーナメント映像を自由にSNSで発信していいことになっています。これにより、プレーヤー個人が1メディアとなり、新たなファンを獲得するのに貢献しているわけです。ツアー側からは、ロープの内側の発信は当然として、「ロープの外側」のプレーヤーの素顔などを、いかに伝えるかということを考えています。たとえば、隠しカメラ的なものを使って、コース上以外での彼らの日常をファンに発信します。プロゴルファーとしての顔だけでなく、父親だったり、夫だったり、いたずら好きだったりといった顔があって、ファンはそうした側面こそ見たいと思っているはずですから。過去約10年にわたって、「ファンとのつながり」を第一に、様々な取り組みを続けてきました。そのことが、現在の発展のベースとなっていることは間違いありません。

PGAツアー・ユニバーシティ

――今年、マスターズを制したスコッティ・シェフラーはまだ25歳。ここ数年、毎年のように新たな若いスター選手が登場している。これは自然発生的なものなのか、ツアーの戦略なのか。

学生の時点で、才能のあるプレーヤーをアメリカの大学にスカウトする傾向は、強まってきています。ジョン・ラームが最たる例でしょう。彼はスペイン北部の海岸地域出身で、とあるジュニアの試合で、サンフランシスコ大学のコーチに見出されて、最初はそこでプレーするはずでしたが、当時、ASU(アリゾナ州立大学)のコーチだった、ティム・ミケルソン(フィルの弟)が奨学金付きでスカウトして、ASUで活躍しました(在学中、歴代2位の11タイトル)。ビクトール・ホブランがノルウェーからオクラホマ州立大学に入学したのも似た経緯です。オクラホマ州立大といえば、在籍中のプレーヤーに、スペイン出身のユージニオ・シャカラがいて、彼も数年後にはきっとPGAツアーで活躍する逸材です。

2020年に、ツアーでは「PGAツアー・ユニバーシティ」制度を創設して、才能ある学生プレーヤーがスムーズにプロツアーに移行できるようにしました。これは、大学で少なくとも4年以上プレーしている学生が対象のランキング制度で、トップ15までに入ったプレーヤーは、すぐに「コーンフェリーツアー」(PGAツアーの下部ツアー)のメンバーになれるというもの。これまでは、学生ゴルフ出身のプレーヤーがプロツアーに出るには、各ツアーのQT(予選トーナメント)を受けて上位に入賞する必要がありましたが、どんなに才能にあふれていても、たった1週間、あるいはたった1ラウンドの不出来で、ツアーデビューが1年以上も先延ばしになるケースが多かったのも事実です。

「PGAツアー・ユニバーシティ」は、そうしたタイムラグをなくし、才能あるプレーヤーが、早い段階でプロツアーの経験を積めるようにした仕組みで、ここまで非常によく機能していると思います。

日本は成長戦略の重要な路線

――PGAツアーには、韓国で開催される「CJカップ」、日本開催の「ZOZO選手権」など、アジア地域での試合も組み込まれている。今後のアジア戦略は、どういったものだろうか。

PGAツアーは、日本の企業のサポートを長年受けているということもあり、日本を含むアジア地域に進出することは、当然、今後の成長戦略の重要な一路線と考えています。今はヒデキ・マツヤマ(松山英樹)が、PGAツアーのメンバーとして活躍してくれていますが、彼がPGAツアーにもたらすものの大きさ、プロモーション効果は計り知れません。過去にはジャンボ・オザキ(尾崎将司)がいて、シゲキ・マルヤマ(丸山茂樹)がいて、リョウ(石川遼)、ヒデキと続き、さらにケイタ(中島啓太)がいる。ケイタにはまだ直接会ったことはないですが、誰に聞いても「ぜひ見るべき逸材だ」というので、実際に会うのが楽しみです。日本1カ国だけで、これだけの才能がいるわけですから、アジア地域全体では、まだまだ優れたプレーヤーがたくさんいるはず。将来的にはそうしたプレーヤーたちの姿を見られる機会を増やすことが、ツアーの成長に直結すると考えています。

また、2015年に韓国の仁川(ジャック・ニクラスGCコリア)で開催した、「プレジデンツカップ」(アメリカと、ヨーロッパ以外のインターナショナルプレーヤーの対抗戦)は、大変な成功を収めましたから、近い将来、またアジアで開催できたらと思っています。できれば、私が定年を迎える前に実現したいと思っていますよ(笑)。1998年のプレジデンツカップで、シゲキがただひとり、出場したすべてのマッチで負けなしだったのを、今でも鮮明に覚えています。あれは間違いなく、ゴルフにおける「記憶すべき瞬間」のひとつです。

PGAツアーは現在、30年来のパートナーである、「DPワールドツアー」(旧ヨーロッパツアー)とのつながりを、より強化していますが、その先にアジアが地続きになっていると考えています。東京や北京にPGAツアーのオフィスを置いているのはそのためです。

PGAツアーの、この先10年の課題は、「ダイバーシティ」(多様性)の重要性を、このスポーツ、あるいはツアーを通じて発信していくことです。そうして、世界中のゴルフ界が発展していかなくてはいけません。そのなかで日本が果たすべき役割は大きいでしょう。

昨年のZOZOチャンピオンシップは松山英樹が優勝。「これから先のツアーの成長にアジアは欠かせない」(パズダー氏)。国内ツアーは連携をより深める必要がありそうだ

ツアーメンバーは我々を100%支持している

グレッグ・ノーマンが中心となり、新たなツアーとしてスタート予定の「LIVゴルフインビテーショナル」(LIVは「54」の意)だが、PGAツアーはメンバーの出場を認めない方針を明言している。ノーマンは、「法廷で争う準備があり、プレーヤーに対してライバルツアーへの出場を制限する行為は、法廷では認められないだろう」とコメント。これに対し、PGAツアー・コミッショナー、ジェイ・モナハン氏は、「ザ・プレーヤーズ選手権」での記者会見で、次のように語った。

「PGAツアーのルールは、プレーヤー自身による、プレーヤーのためのもので、すでに50年以上も存在している。(いかなる訴訟に対しても)PGAツアーの立場が揺らがないことは断言できるし、我々はツアーを前進させることに集中するだけ。

この件でもっとも重要なことは、PGAツアーがこの先の10年で、かつて経験したことのない発展の真っただ中にいるということ。プレーヤーの多くが表明している通り、PGAツアーメンバーは100%、我々のツアーを支持してくれている」

一方で、LIV側は、先日、今シーズンのスケジュールを発表。全8試合によるツアーで、初戦は6月9~11日に、英国のロンドンで開催される。PGAツアーからの出場希望者には、スポット参戦を認める(全試合への出場義務を課さない)方針。プレーヤー囲い込みの綱引きは続くだろうが、前述のモナハン氏の言葉には、揺るぎない自信がみなぎっていた。

週刊ゴルフダイジェスト2022年5月10・17日合併号より