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【マスターズへ! 中島啓太インタビュー】<後編>「神様に選んでもらえるように」万全の“準備”で挑む

昨秋のアジアパシフィックアマ優勝の資格で、今年、初めてマスターズに挑む中島啓太(21歳・日体大新4年)。夢の舞台への思い、戦うための準備などを聞いた。

PHOTO/Blue Sky Photos、Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara

中島啓太
なかじまけいた、2000年埼玉生まれ。代々木高校入学後数々の国際大会で活躍、日本体育大学入学後、20年に世界アマランク1位に。21年7月に日本アマで優勝、10月にパナソニックオープンでアマ優勝、11月にアジアパシフィックアマで優勝しマスターズの出場権を得る

>>中島啓太インタビュー【前編】はこちら

“2位の男”から常勝アマへ

中島啓太の2021年後半は怒涛の優勝ラッシュだった。

実は中島は以前、地元のおじさんたちに“2位の男”と呼ばれていた。それまでの日本アマで2位が4回もあったからだ。しかし、昨年7月の日本アマで念願の初優勝を飾り地元に戻ったとき、あまり驚かれず「やっとだよね」という感じで迎えてくれたという。

9月のパナソニックオープンで史上5人目のアマチュア優勝を挙げたプロツアーでも、昨年4月の東建カップでは金谷拓実に次いで2位だった。マスターズ出場を決めたアジアパシフィックアマも、18年は金谷と2打差の2位。しかし、世界アマチュアランキング1位で迎えた昨秋の大会は「勝つしかない試合だった」と、プレーオフで“有言実行”の優勝を成し遂げたのだ。

自信が積み重なると、勝利も積み重なる。いつも自分と向き合っているからこそ結果がついてくる。

「自分としっかり向き合うこと、やり続けること、金谷さんに相談したらいつも返ってくる言葉なんです」

先輩プロや周りの意見に耳を傾け、見て盗み、取捨選択できるのは中島の強みだ。

「松山さんから殺気みたいなオーラを感じた。
ボールが空から降ってきました」

年明け早々のソニーオープンでも、自身の結果は41位ではあったが、この試合でPGAツアー8勝目を飾った松山英樹のサンデーバックナインとプレーオフを傍で見て、大きな収穫があった。


「9番グリーンから10番ティーイングエリアまでのインターバルから付きましたが、9番で相手がイーグル、松山さんはイーグルパットを3パットしてパーで5打差になった。10番に向かう途中、とても近づけないようなオーラを出していて、殺気みたいなのを感じて(笑)、僕は拍手して『頑張ってください』と言っただけですけど、あきらめていないというのはすごく伝わってきましたし、逆に相手がアウェイでプレーしていると感じるくらい自分の雰囲気をつくれていて、覚悟が決まっている感じがしました」

この松山の「覚悟」は、中島の現在のメンタル面の課題だ。

「僕自身はソニーオープンの3日目、ピンポジが難しかったので最初から『耐えるしかない』という考えで行きましたが、周りのスコアはすごく伸びていく。焦りと怖さを感じて、ピンを攻めることから逃げてしまった。僕も自分から逃げない強いメンタルを持たないといけないと思っています」

マネジメント面も、ギアが入っても冷静な松山から学びがあった。

「意外と驚いたのは、72ホール目のセカンドショット。1打差でパー5なので、相手がバーディを取ってくる想定をすると思いますが、松山さんはそこでピンをあまり狙わなかった。もちろん2オンはしましたが、しっかり手前から攻めていたというのは冷静だなと。僕ならもっとセカンドを突っ込んで、チャンスに付くか奥に外してノーチャンスかという“賭け”のような選択をしていたかもしれないです」

一つ一つが勉強になる。

「(2位になった)ラッセル・ヘンリー選手がどういう気持ちで後半の最後のほうを回っていたのかも、すごく知りたいですね」と貪欲だ。

どんな試合もプレーも言動も糧にして成長してきた。ソニーオープンでもカメラを借りてレンズ越しに松山を見る中島。優勝を決めた松山の歴史に残る“3Wのセカンドショット”も、グリーンの上のほうから見ていた。「本当に空からボールが降ってきたんです」

今、中島は、4月のマスターズに向けて、日々準備をしている。

「トレーニングをしっかりして、食事もしっかりとって、メンタル的にもしっかり準備する。スウィングも(ガレス・)ジョーンズさんやトレーナーさんと相談して改造していますし、すべてにおいて取り組んでいる感じです」

2月から週に1度、日本ゴルフ協会ナショナルチームのヘッドトレーナーでもある栖原弘和氏のもとで2時間ほど汗を流し、一緒にジョーンズ氏とのスウィングセッションを行ったりする。

「その他は自分で週に2回ほどジムに行ったり、行かない日は公園でミニハードルなどを使い瞬発系の筋肉を動かしています。生活スタイルは、午前中にしっかりトレーニングして、そこから練習場で球を打つというルーティンです」

試合が続いている間はできなかったスウィング改造は、安定感を求めてのものだ。

「体に負担がかかって毎年ケガもしていたので、そこは避けられるよう、より安定感を求めて、さらに長くゴルフができるスウィングになると思っています。自分の意識としては、かなり違う感覚になっている。体の使い方や手首の使い方など、割と細かいところですが、自分のなかでは大きく変えている感じです」

2月はトラックマンやデータと向き合ってスウィングづくり。3月はラウンドを多めにしてきた。

「しっかり球筋を見て、球筋からフィードバックして振り返るようにしていく。あとは実際にマスターズの動画、松山さんやタイガー・ウッズなどの試合を見て、コース攻略をイメージしてラウンドしたい」

12番・パー3では神様も味方に!

常にオーガスタでプレーしている自分をイメージしているという。

「マネジメントは、ピンを狙っていくというより、やはり傾斜を使って寄せている印象があるので、そのプランをしっかり立て、そこから逃げないように強気で攻めていけたらなと思います。もちろん行ってみないとわからないんですけど、今できるイメージはきちんとできているかなと思います」

攻略法は、ガレス・ジョーンズ氏や経験者の先輩、金谷拓実から情報を得ている。

「ドローヒッターが有利というコースのアングルも多いと思いますが、イメージしているのは2番、9番、10番と13番のティーショットを3番ウッドでしっかりいいドローを打つこと。あとはドライバーでフェードでもいけるんじゃないかと。金谷さんがジョーンズさんに『そんなにドロー、ドローというコースではない』と話をしていて、何ホールかしっかりいいドローが打てればあとは自分の持ち球で戦えると思っています」

グリーンのうねりもありフェアウェイの起伏も激しいが、

「フェアウェイでも様々なアングルからアイアンショットを打たないといけないし、グリーン周りも傾斜が強いなかグリーンにボールを止めるショートゲームも必要。グリーン上にも大きなスロープがある。やるべきことは多いです」

“見る側”のときは、13番や16番が楽しいと思っていたが、“プレーする側”になると、「自分があそこでプレーすると想像したらちょっとまだ怖いです」と笑う。

「一番気をつけたいのは12番・パー3。あれだけ短くてショートアイアンで打てるのに、いろいろなことが起こる。風が難しいと聞きますが、そこはゴルフの神様が味方してくれないと難しい。しっかりキャディさんとコミュニケーションを取って、神様に選んでもらえるよう日頃から悪いことはしないようにしたいです(笑)」

「休みで気持ちを切らしたり、気をゆるませたくない」と言うほど「スーパーフォーカスして臨みたい」という中島。

「実家にいるときがオフです。リラックスできます。姪っ子がいるので会ったり、家に友だちが来てくれたり。他のスポーツもやっていますが、万が一ケガをしてはいけないので、抑えながら軽く楽しむようにしています」

近所の方や友だちとするスポーツはバレーボールと野球だ。

「バレーは瞬発力を使うのでトレーニングになると思っています。ジャンプして体全体を動かす。自分の体を動かしたいように動かすってけっこう難しいですよね。こういうのってゴルフにも生きるんです。オリンピックの選手もいろいろなスポーツをして、全部が上手い選手もいますよね」

また、昔から読売ジャイアンツファンでもある中島は、草野球で先発ピッチャーをするのが好きだ。打席には立たない。

「投げることとスウィングの動きは雰囲気が似ていると思います。指先のコントロールなどが、ゴルフにつながると信じてやっています。それに自分の体を使ってモノをコントロールするという観点でも行う。120km/hのストレートとカーブとスライダーを投げますよ。それに心理的にも面白い。ゴルフと少し似ているところがある。たとえ遊びでも自分をコントロールしないといけないですから」

北京オリンピックも観ていた。スノーボード・ハーフパイプで金メダルを取った平野歩夢には刺激を受けた。クールで努力している雰囲気が似ているのでは、と聞くと、「努力しているって自分で言うことではないですけど、力を出し切るために、やるしかないという感覚でしょうか」とクールな答え。

しかし、実は涙もろく感情豊かな中島。今まで、試合で2位に甘んじたときの“悔し涙”、優勝したときの“嬉し涙”、金谷がプロ転向したときの“寂し涙”もあった。

涙の数だけ強くなる――結果を受け止めて、自分と向き合い、先の目標に向けてもっと強くなる。そんな中島が、夢の舞台ではどんな涙を見せてくれるだろうか。

周りが「カッコいい」「美しい」というスウィング。本人もカッコ悪いスウィングは嫌。「自分のスウィングに一番影響するのは、クラブパスとフェースの向きとスウィングプレーン。実際にボールをコントロールするうえで必要なデータはよく見るようにしています」

コースに集中、試合に集中、自分に集中!

中島たちの“チーム”は、日本を3月末に出発し、ミニ合宿をしてから、オーガスタに入る。

キャディは、ナショナルチームのショートゲームコーチのクレイグ・ビショップ氏がやってくれる予定だ。

「クレイグさんが教えていたカーティス・ラック選手が、アジアパシフィックも通って、マスターズも出場しています。ナショナルチームのメンバーで行けるのはすごく感動すると思います。しっかりチームで活動したいですし、もう完璧な準備でいきたいです(笑)」

マスターズでは、憧れであり目標のコリン・モリカワとも回ってみたい。昨秋のZOZOチャンピオンシップの練習ラウンドでハーフを一緒に回ったが、お互い自分の練習に集中しなければならず、少ししか話はできなかった。

もちろん、ディフェンディングチャンプの松山英樹、互いに刺激し合う先輩の金谷拓実と同じ舞台に立つのも楽しみだ。

「金谷さんと一緒に出られるのが嬉しい」と中島。「プレッシャーがかかって怖いときはどうするか聞いたら、『どんな状況に追い込まれても、俺らはやるだけだよ』と返ってきました」

「パー3コンテストは、エントリーしてもらっているので出たいです。僕の勝手な希望としては、松山さんと金谷さんと3人でプレーできたら本当にいいんですけど……練習ラウンドももちろん一緒にさせてもらいたいです」

家族や地元の“ゴルフ仲間”にもいいニュースを届けたい。

「うちの家族はパナソニックで優勝したときもクールでしたが、今回も、チケットが一応選手に配られるので、行こうと思えば行けるんですけど本当にドライで、テレビのほうが近くで観られると言って誰も来ないんです(笑)。でも地元の練習場の方などには、マスターズ頑張ってという声を一番多くかけていただいています」

日本体育大学ゴルフ部のキャプテンでもある中島。部としての練習がままならないなか、マスターズで何かを伝えたいと考えている。

「キャプテンとしてマスターズに出て、その姿を見せられるだけでも意味はあると考えています。やはり結果は残したいので、しっかり自分と自分のチームを信じて準備していき、自分のすべてを出し切ることができたらいいかなと思います。あとは自分の決めたプランから逃げないことです」

マスターズを終えると次は全米オープン、そして大好きな全英オープンは150回目の今年、聖地セントアンドリュースで行われる。

「マスターズを終えて1度帰国し、5月には大学のリーグ戦もありますし、全米オープン、全英オープンを終えたら、世界アマチュア選手権、アジア大会。そしてプロ転向というだいたいのスケジュールは決めています。今年は試合がいい間隔である。すべての試合にそのときの自分を全部かけられるかなと思っています。自分のやり方次第では、今までとはかなり違う、転機の年になると思います」

「自分とチームを信じて。キャプテンとしても、夢の舞台で戦う姿を見せたいです」

海外遠征の隔離期間中に「今さらながら『鬼滅の刃』にハマりました」と笑う中島。「全集中」の意識は、漫画の主人公に勝るとも劣らないはずだ

週刊ゴルフダイジェスト2022年4月5日号より